生徒会の仕事のために残っていたマキは、傷ついたナオキとそれを支えるアイチを見つけた。
何があったかは教えてくれなかったが、大変なことが起こっているのはわかる。

「私がナオキ君を家まで送り届けるから、貴方はカードキャピタルへ」
タクシーを呼ぶと、ナオキはどうにか自力で中に座り込む。
歩いて帰るというが、途中で倒れてしまうかもとアイチに心配されて、止められてしまう。

さっきからカードキャピタルに電話をかけているがずっと通話中で、応答がない・・・ますます不安は大きくなっていく。

「わりぃな・・・」
「いいのよ、私の・・犯したことに比べれば・・・こんなこと」
彼女も、リンクジョーカー事件の被害者だが、辛そうに顔を俯かせて自分のやってしまったことを思い出していた。
孤独を理由に学内のファイターやタクトとの共犯と、櫂と同じように責められてもおかしくない。

「お願いします、長代さん」
「ええ、私が責任を持って送り届けるわ・・先導君も気を付けて・・・!!」

タクシーはそのまま動き出し。
見送るとアイチはカバンを持ってすぐに走り出した、ついに現れた敵。

(何者かわからないけど・・・櫂君に関係している人達が狙われてる!!)
どうしてもっと早く気付かなかったんだと己を責めた。
櫂の時だって、一人抱えているのも知らずに宮地の皆と楽しく部活を楽しんで愚かとしか言いようがない。

間に合ってほしいと祈りつつ、アイチは街を走る。




「櫂君・・・皆!!」
「アイチ君?」
レジにいたシンが驚いて顔を上げた。
店内にいた三和も、急いで店に入ってきたのを見てこちら顔を向けている。

「どうしたー、アイチ?今日はカードの発売日でもないのに?」
店内には数人の客と櫂と三和もいて、ミサキもカムイとファイトをしていたが、固まったままこちらを見ていた。
いつもと変わらない様子にホッとしたのか、大きく息を吐く。

「よかった・・無事で・・・全然電話が繋がらなくて」
「電話が・・?あっ!!」
受話器が外れたままになっている。
さっき業者との打ち合わせをしていて、置いたつもりが外れていたのだ。

「すいません、でも・・どうかしたんですか?アイチ君」
「兄さん、石田の奴と後から来るって聞きましたけど石田の奴はどうしたんですか?」
「何かあったの?」

心配したカムイ達がアイチに近づいてくる。
櫂も珍しく心配して声をかけてくれたが、皆の変わらないことに一瞬ナオキのことを話そうか迷ったが止めることにした。

(皆を巻き込むわけにはいかない。それに・・・話せばきっと櫂君にも遅かれ早かれ伝わってしまう)
彼だって後悔しているはずだ、だったらもう責められる必要はないはず。
それに彼らのやり方にも疑問がある、狙うなら櫂だけでいいはずなのに、ナオキやシンゴにまで危害を与えてしまうなんて。

「なんでもないよ。早くカードキャピタルに来たかっただけだから」
そういうと安心したようにカムイ達は苦笑する。
慌てすぎだと店内は明るい笑いに包まれた、ナオキは用事があると嘘をついて・・、アイチは悟られないように櫂とのファイトを楽しむフリをしていた。




傷ついた身体を引きづりながら、ネーヴは帰還した。
オーナー室にいたガイアールはすぐにネーヴの体を支えると、制裁を与えるはずがジャッジメントを返されたのだと教えられる。

「まさか、ネーヴ。貴方がやられるとは?櫂トシキに直接に挑んだのですか?」
オーナーが提案した作戦ではないとセラがオーナー付きの白髪の執事、モレスに命じて手当てをさせようとするがネーヴは拒む。
胡坐をかいて座り込むと、騒ぎを聞きつけて、少女もドーナツ片手に現れる。

「ネーヴ、やられちゃったの?じゃあ、次は私がその人を」
「黙れ、小娘。お前ごときに先導アイチが倒されるものか」

自分よりも格下の実力しかない少女に簡単に返り討ちにされると言うと、少女は怒り出した。
櫂ではないのなら、レンだと思っていたのにまさか、アイチに返り討ちにあうなんて。

「当然でしょう、先導アイチ・・・彼はヴォイドの侵攻を二度渡り阻止し。死闘の末にリンクジョーカーを退けた英雄なのですから」

セラからそれを聞いた三人は、息を飲んで驚いた。
何者かが、倒したのは知っていたがそれが先導アイチではと知らなかった、敵同士が今も仲良くしている事体理解ができない。

「アイチさんが・・・世界を救った?」
ガイヤールは悪夢のようなリンクジョーカー事件を思い出した。
あの悪夢から救ってくれたのがアイチ、ますます彼の中でアイチが神格化している。

少女もそんな大物が近くにいたなんてと、嬉しそうにはしゃいでいる。

「計画は続行、それがオーナー様の意志です。
しかし先導アイチに感付かれては、こちらのことも知られてしまうかもしれません・・慎重に彼らのジャッジメントするように」

手を後ろに組んでセラは三人に指令を伝える。
ネーヴは宮地からは撤退、暫くの間はビルの護衛に回ることに、アイチが味方を引き連れて攻めてくることも考えてだ。



『なんだって、黙ってろって!!』
「うん・・まだ彼のこともわからないし・・・」
昼休憩の時間、校舎裏でアイチはナオキに電話をかけていた。

ナオキは念のために今日は学校を休んでいた、家で寝てれば治ると病院にもいかず
リベンジに向けて自宅でごろ寝しながら、デッキ強化中と聞いて安心した。

『ネーヴ先生も突然故郷に帰らなくなったとかで、緊急帰国したって聞いたし』
撃退され、宮地にはもう来ないだろうとは思いたい。
しかし、彼一人だけではない、そんなに気がする。

顔を店に最近出さなくなった森川やエイジ達もネーヴにジャッジメイトされてとしたら他にも、櫂の周辺のファイターに
シンゴと同じことをしていると考えると不安に潰されてしまいそうだ。

「騒ぎを大きくしたくないし、もしも狙ってくるなら次は確実に僕の前に敵は現れるはずだから」
『だったら余計に誰かと行動するべきだぜ、コーリン達には言えないとしても、せめてカムイや三和に教えるべきだ』
女子に危険な目は合わせられないと、知り合いの中で強いファイターの名前を出す。
他校な上に、事情を話さなければならなくなってしまい、巻き込んでしまうかもしれない。

(三和君もカムイ君も櫂君の友達だ・・、まさか!!)
アイチの脳裏に櫂の二人の友人が浮かんだ、こんなことをしていたのがネーヴだけでないとしたら・・!
慌ててナオキに連絡しなければならないところができたと、電話を切ると登録されている番号に電話をかけた。

何度かのコールののち、相手は出てくれた・・・---が。

『はーい、新城テツでーす。でも残念ですーテツは今電話に出れないので代わりに僕が出ましたー』
緊張感のない声、間違いなくレン。
交流試合を今後もやっていく上で、連絡は取り合えるようにと連絡先を交換していたのですぐに連絡ができたのだが・・。

「あのテツさんに何かあったのですか・・・?もしかしてそちらにも謎のファイターが?」
『・・・アイチ君のところにも来たんですか?』
気が抜けた炭酸のような声から、張り詰めた声へと変わる。
事情を説明すると、レンから驚くべきことを聞かされた、テツが何者かに襲撃されたと。

休憩時間が終わりかけていたので、一度連絡は切ると窓の外を見つめつつ、レンは考えごとをしていた。

「櫂への復讐ですか・・・・気に入らないですね」



「あっ、ガイヤール君こんにちは」
「こんにちは・・・アイチさん」

にっこりと笑ってアイチはガイヤールを出迎えた。
しかし、何処か元気のない様子、今日は一人でカードキャピタルに来ていた。

「心配なことでも、僕で良ければ相談に乗りますが・・・」
「ありがとう、ガイヤール君。でも・・大丈夫だよ」

苦しそうに笑うアイチ、彼の苦しみを少しでも取り除いてあげたい。
そもそもおかしいじゃないか?櫂などという男の傍に、アイチのような存在がいることが。

もしかして、弱みでも握られているのでは?
櫂にアイチほどの魅力があるとは思えない、確かに異性にはモテるらしいが、ガイヤールはアイチの方が好意的ではといつも思っている。

ネーヴをも倒す実力を持っていながら、偉そうに自慢することもなく常に己を鍛え、初心を忘れないアイチ。
まるで聖人のようなアイチ、彼の聖なる志を前に、ヴォイドなどという邪悪な存在などに負けることない。

うっとりとした目でガイヤールはアイチを見ていたが、遅れて櫂が店内に入ってくると。

「櫂君!!」
嬉しそうにアイチは櫂のところへと駆け寄っていく。
一人残されたガイヤールの瞳にはアイチと・・・そして櫂が映し出されていた。

「ガイヤールと仲がいいな」
「日本に来たばかりだし、いろいろと聞かれてるだけだよ」
フランス語が話せるのはアイチだけ、サーキット経験者はかじった程度の英語の語学しかない。
文化の違いなどで、戸惑っていて相談に乗ったりしていると、特別というではない、しかしガイヤールは明らかにアイチを特別視している。

それが面白くないのか、アイチに八つ当たりするように「今日はお前とファイトしない」と
以前のように冷たく突き放すと、店を出ていく。

アイチの後ろで見ていたガイヤール不快感を露わにした。
櫂の苛立ちをぶつけられているアイチも、不満一つも漏らしたりしない。

(あの男・・アイチさんに対してなんて態度を・・・・!)
優しく、穏やかなのを良いことに櫂はアイチに対し、遠慮も配慮の欠片もない態度。
特にアイチは最初の頃も同じような態度を取られたこともあるので大して気にもしていない様子で、少し寂しそうにデッキを見ていると。

「アイチさん、僕とファイトしませんか?」
「いいよ、僕でよければ」

心では櫂に対し、薄暗い感情がまるで地の底から湧き出るマグマのように溢れ出ていることを隠し
席に座るとアイチとのファイトをしつつ、談笑を始めた。




場所が変わり、香港のとある高級マンションの一室にレオン達は暮らしていた。
まるでスィートルーム並みの広さを持つ部屋で、一番広い部屋はレオンが使い、一人明日の試合に向けてデッキの調整をしていると。

「レオン様、あまり詰めると明日に差し控えますよ」
「あと少ししたら寝る。お前達は先に寝ていろ」

飲み終えたコーヒーのコップを下げに来たジリアン、机だけにライトを照らした部屋の中でレオンは真剣な表情をしてカードを見ていた。
おやすみなさいとジリアンはドアを閉めて、軽く頭を下げる。
レオンも「ああ・・」と一言返事を返すとデッキの構築を再開させた。

暫くデッキを整理していると、携帯が鳴り始めた。

『先導アイチ』と名前が表示されて、もしやファイトの申し込みではないかと考える。
ロイヤルパラディンにクランを変えたとナオキから聞いて、デッキの完成を楽しみに熱いファイトができるとつい笑みを浮かべて電話に出る。

「どうした?先導」
『レオン君!実は・・・・・』

アイチから危機迫る声で、ある情報を教えられてレオンの瞳は見開いた。
携帯とデッキを持つと椅子から立ち上がるとジリアン達の部屋へと向かう。


「ジリアン!!シャーリーン!!」
「レッ・・・レオン様!!」

パジャマ姿の二人は、もう眠りに着こうしていた。
下着姿ではなかったが突然扉を開けて、しかもパジャマ姿を見られて恥ずかしそうに頬を染めるのはジリアン。

「どうかされたんですかー」
首をかしげるシャーリーンに、何事もなかったとホッとしていた。
デッキを握りしめ、慌てた様子で扉を開けて、冷静さを取り戻したジリアンは心配そうに声をかけた。

「あの、何かあったのですか?」
「いや・・・すまない。おやすみ・・・ジリアン、シャーリーン・・」

安心させるようにレオンは柔らかな声で、扉を閉めていく。
眠気の一気に冷めた双子は、顔を合わせて首を傾げていた。

部屋に戻ると、ベランダに出ると香港の鮮やかなネオンの光を見下ろしつつ、アイチと話を続ける。
話によると櫂トシキに友人達が次々に謎のファイターに襲われているという、テツや森川達・・アイチの友人だったという理由でシンゴまで襲われたと。

「不愉快な制裁だな、俺は櫂トシキの友人ではないからか・・それとも外国にいるからか。
今のところ、そんなファイターは来ていない」
レオンはアイチの友人ではあるが、櫂とは知り合いではあるが友人ではない。
敵は好戦的かつ、周辺にいるファイター達を倒していくのと考えられる、アイチ達に手が伸ばされる時間の問題だろう。

『ネーヴ先生と、レンさんのところにきたラウル・セラさんについてはレンさんが調べているところです。
敵の正体と居場所を掴んでくれるとかで・・・、でも彼らは何者なんだろう・・』
「ヴォイドの寄越した新たなエージェントが関わっている可能性もある、気をつけろ・・・先導」

『うん、レオン君も気を付けて』

かつてヴォイドと手を組んでいたレオンも狙われる可能性がある。
もしも櫂が、正気を失わずにいたことが本当ならヴォイドが復讐に来て、櫂の周辺のファイターを狙ってくるというのは筋が通るが
そうなるとヴォイドを利用としたという面では同じレオンも、狙われる対象となる。
本人ではなく、ジリアンかシャーリーンも危害を加えられることだってありえない話ではない。

あの時、悪であるヴォイドと手を組んでアイチ達のクランを奪ってしまったことを責められれば、咎めは受けよう。
だが二人は何の関係もない、櫂のことも同じだ、止めようとしたアイチ達までも狙うのなら。


「アクアフォースの正義を審判を下すまでだ・・・」


再び日本に行かなければならなくなったと考えていると、今度はレンから連絡が来た。









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