「アイチ、最近部屋にばっかり籠ってるね?」
食後の紅茶をテレビを見ながら、シズカとエミは上を見上げた。
シズカは勉強で忙しいのよというが、籠るようになったのは最近のこと、エイジとレイジが店に顔を出さなくなった後辺り。

「ウルトラレア・・レッカちゃんだ」
『皆さんー、暫くの間お別れですが、また必ずお会いしましょうvv』
いつもの天使のような笑顔でコーリン、スイコと手を振っている。
司会者に休止の間はどう過ごすかなどインタビューを受けているレッカ。

(よかった・・・アレは気にしすぎだったんだね)
リンクジョーカーの侵攻が進み、アイチから家から絶対に出るなと念押しをされて、不安げに雲行きの怪しい空を窓越しに見ていると
レッカがスイコと一緒に尋ねてきた、玄関に行くと制服姿のレッカがいた。

マイの家には行った後で、次にエミの家を訪ねてきたが彼女の様子がおかしい。
突然エミの手を握る、震える手でまるで永遠の別れのように。

『いろいろあったけど、私と友達になってくれてありがとう・・一生・・・忘れないから』

震える目で、レッカは言った。
どういう意味なのか、エミは知らない・・、タクトが倒れればこれまでの記憶を全て失うことを。

これからレン達を追いかけて、立凪ビルに向かう。
どうなるかレッカにもわからないが、勝っても負けてもエミ達とはお別れだ。


暫く学校には着ていないが、メールでは変なことを言ってごめんねと謝ってきた。
パトロンのタクトがあんなことになって混乱していたんだろうと、エミの中ではレッカのあの先の行動は片づけられている。

「そういえば、同好会の方はどうなの?」
「マイちゃんとカワイイぬいぐるみを見つけてね、今度同好会の部屋に飾ろうって計画立ててるの」

もう少しすれば、レッカもアイドル活動を休止して休める。
そしたら沢山遊ぼうと約束をしていると、笑顔でシズカに話をしていた。





『ああ、明日の便でそっちに行く』
「うん、じゃぁ・・待っているから」

ベランダに出るとアイチはレオンと国際電話で話をし、簡単な打ち合わせをすると電話を切る。
これ以上被害が広がる前に手を打たなければ、アイチは空に向かって目を細めた。

(今度こそ・・見逃したりしない)

ナオキの異変のことに気付くことだってできた。
櫂がカードキャピタルに姿を見せなくなったのなら、もっと早く異変だと感知するべきだった。

いくら後悔しても過去はやり直せない、未来でできるのは二度と同じ失態を犯さないことぐらいだ。







「アイチか・・・」
「こんにちは、櫂君」

いつものように放課後、カードキャピタルでデッキ調整もかねてのファイト。
ナオキは念のためとアイチに言われて、今日も休みだがシンゴは学校に出てくるまでに回復してきたが
暫く体調が優れないと部活動はできないと、逃げるようにしてカバンを抱きしめて学校が終わると早々に帰宅。

傷が癒えるのには時間がかかる、仕方がない。
だが、もっと早く物理準備室に戻ってきていればネーヴから守れたかもしれないのにと、どうしようもない後悔に襲われる。

「アイチ、お前のターンだ」
「えっ、!!あっ・・ごめん!!」
悩んでいて、ファイトに集中できていない。
櫂も気づいていたが、三和のように悩みを聞いて解決に協力できるほど器用できないので、見て見ぬフリをしていた。

アイチ達の座っているテーブルから離れたところで、ガイヤールは二人のファイトが終わるのを待っていた。
切りのいいところでアイチにファイトを申し込もうとしていたが、三和が隣に座ってくると。

「やめとけって、あの二人の間に入ろうとするならな」
「・・・どういう意味ですか?」

ガイヤールではアイチと櫂の間には入れない、そう言われて三和を睨む。
三和は櫂のおかげか、睨まれるのは慣れており、怯んだりなどせずに続ける。

「いろいろとあったからなぁ、俺でも入れない空気みたいなの出したりするから」
「・・・・親友なんですか?」

「うーん、カード友達ってところかな?」
ファイト以外でのプライベート交流は今のところ、お泊り会ぐらいだし
ようやく二人とも距離が近づいたところで、アイチとしてはやっと報われたということだろうか。

「はっきりしないのなら聞いてくる」
「おっ・・おい!!」
なんという度胸の持ち主だ、二人に直接聞くなんて、外国人だからなのだろうか?
ファイトを終えて話をしている二人の前にガイヤールは立つと。

「アイチさん、櫂トシキ先輩とは親友なんですか?」
「しっ・・・親友!!」

友人を超えた親しい友達、それができるのはアイチにとってこの上ない幸せで
その相手が櫂であったなら、とろけてふやけてしまいそうなぐらい嬉しい、あたふたしているアイチに対し、櫂は表情一つ変えないでいた。

「僕は・・・そのっ・・・ええっと・・」
答えに戸惑っているアイチに対し、櫂は淡々とした口調で。

「ただのファイトしてくれている相手だ、それ以上でも以下でもない」
今日は此処までだと、櫂は立ち上がると早歩きで店を出ていく。
その後ろを三和が追いかけていく、カムイが会話を一部聞いていたのか、アイチに心配そうに近づく。

「あの野郎・・・!!ここまでアイチお兄さんがいろいろとやってくれているのに・・!!
俺はアイチお兄さんを尊敬して仲間だと思っているので安心してください!!」
「ありがとう・・、カムイ君。嬉しいな・・」

確かに櫂の言うことも一理ある。
まだまだ櫂の友人枠にはほど遠いい、家に泊まって沢山話して、少しは・・・うぬぼれた自分が馬鹿みたい。

「アイチさん・・!」
「えっ・・・」

ガイヤールに言われて、初めて泣きそうな顔をしていることに気付いた。
今にも涙が零れてしまいそうで、カムイは混乱していると、ガイヤールが真っ白なハンカチを取り出してアイチに渡す。

「悲しまないでください、僕はアイチさん・・・貴方は今まで出会った誰よりも強く、優しい方と尊敬していますので」
「大げさだな、ガイヤール君は」
少しだけハンカチで目元を拭いた。
次会ったら、俺様レギオンでボコボコにすると独り言を言っていたがカムイが顔を動かすと・・怒りが一瞬にして消えた。

(なんだ・・・こいつ)
アイチは目を閉じているから見えていないが、ガイヤールの顔が冷たい表情を変えていた。
いつも笑顔を浮かべているのに、まるで他人のようだとカムイは感じ、思わず後ろに体が下がる。

しかし、アイチが顔を上げると、にっこりと笑ういつものガイヤールに戻っていた。
家まで送りますと、店内を出ていく二人を追いかけるのを忘れて、カムイは店内で一人・・茫然と立ち尽す。



そこまでされるわけにはいかないと、アイチはガイヤールが家まで送るという申し出を断り、一人自宅へ帰る。
制服を脱いで壁に掛けると、デッキの最終調整を行う、まだ不安は残る構築だが戦うしかない。

「また僕と戦って・・・ブラスター・ブレード」
再びアイチの手元に現れた、白き鎧を身に纏った騎士のカードに手にし
アイチはほんのりと笑うと、ピンク色のデッキケースに戻す。

夕食はいつものように終えると、アイチは早々に自分の部屋へと戻っていく。
いつもの光景なのだが、この日だけだけは違った、アイチがもう夜も更けているというのに来訪してきた友人ら二人と外に出かけたこと。





向かう先は、元立凪ビル。
改築すでに終わり、外装はそれほど変わってはいないが難しい横文字の社名が石に刻まれていた。

冷たい風の吹く、月の出ていない新月の夜。
世界でもトップクラスのファイターが三人揃っていた。

中央をアイチに、右にレオン、左にレンが私服姿で立っていた。

「二人とも、ありがとう・・」
「気にするな、奴らのことも気になるしな」
「そうですよ、それに僕ら二人ともアイチ君に借りがありますから」

レンはPSYクオリアの呪縛から解放してくれたこと、レオンはヴォイドの闇を光で照らして救ってくれた借り分を返していない。
それにレンはテツに対してされた仕打ちを倍返しするという目的もある、でなければこの場には来てはいなかっただろう。

調べによると、このビルには雇われた強いファイターが勢ぞろいしているらしい。
目的までは不明だが、このビルに集められ、櫂に近しいファイターを潰していく行動からするととても味方とは考えられにくい。

「では、参りましょうか・・・」
天然っぽい顔をしていたレンが、デッキを取り出すと
フーファイター当主の顔へと変わっていく、レオンも目を吊り上げられて真剣な顔へ、そしてアイチもネーヴを倒した時と同じ

勇敢で、凛々しい先導者の顔をした。

「行こう!!」
アイチの声と同時に、三人は小走りで走る。







最初はこっそりと侵入する予定だったのだ、敵の数も目的もわからず、敵の司令塔を直接叩こうというアイチとレオンは提案してのだが
レンが目を離した隙に正面玄関から堂々と侵入して、向かってきたファイターを一人で数人撃破してしまう。

「・・・レンさん・・・」
呆れ声でアイチは、レンを見る。
もしかして三和やミサキに話しかけた方がよかったとも考えたが、櫂と顔を合わせ機会の多い人間に、このことを話せば
何処か勘のいい櫂は見抜いてしまうかもしれない、レンとレオンなら何かの拍子にバレたとしても白を通しきれる。

「この方が楽ですよ~、ラストボスというとの最上階にいるものですから行きましょうvv」
鼻歌を歌っているが強いファイターと戦うことを楽しんでいるのではと、内心思いつつアイチとレオンもレンの後に続く。
レンが倒し損ねたファイターはレオンによって倒され、アイチは温存しつつ、エレベーターを操作。

「最上階ですよ、レオン君」
「わかっている」
一階の敵を大方倒すと三人は最上階へと目指す。
上へと上がるエレベーターはガラス張りになっていて、嬉しそうにレンは窓の方を見つめていた。

「凄い綺麗ですよ、レオン君もどうですか?」
そう誘われ、レオンも外の様子を見ていた。
腕を組みつつ、外の景色に目を向けているとエレベーターは止まる。

「最上階?」
ボタンの付近にいたアイチは最初に外へと出て、後ろにレン達も続いていく・・・--はずだった。
突然、ありえない速さで扉が閉まる、アイチとレオン達が引き離されてしまう。

「レオン君!!レンさんっ!!」
後ろを振り向くと、二人が慌てた様子で扉を叩く。
ボタンで操作もしていないのにエレベーターは下の階へと移動。

(罠・・・!!)
紅茶色程度の明りに照らされる廊下。
アイチは進むしかないと、一人・・辺りを警戒しつつ進んでいく。

見覚えがある部屋の作り、以前にも入ったことがある。
この部屋はタクトの部屋で、全体がガラス張りとなっている不思議な部屋だ、中に入ると明るく室内は照らされていると


中央に一人の男が立っている。
紫色の髪に、金色の目をした背の高い大人の男だが、日本人ではないようだ。

「初めまして、先導アイチ様。私の名はラウル・セラ。以後お見知りおきを」
丁寧に紳士の挨拶をし、手を軽く胸に当ててつつ丁寧に挨拶をしてきたが、敵であることは間違いない。

「僕の名前をご存じであるのなら、自己紹介は必要ないですね。セラさん・・貴方達は何者ですか?」
「それが聞きたければ、私とのファイトに勝つことですね・・・・」
胸の金色のブローチに触れる。
目を見張るアイチ、きらりと輝く一見ただのアクセサリーのようだった。


「相手しましょう、貴方の魂ごと凍らせましょう!!誘わん、いざ。ミレニアム・ブリザード・プリズン!!」
辺りが突然真冬にでもなったかのように、氷が生まれてくる。
あの時と、ネーヴの時と同じプリズン〈牢獄〉にアイチとセラは囲まれた。

「言っておきますが、ネーヴ以上のファイターですよ・・・私は」
「・・・・戦うしかないようですね」

アイチが勝利することで、セラを傷つけてしまうかもしれない。
だが、負けてしまえば、次・・彼らは別の人間を傷つけに行く、アイチは悪者になったとしても止めなればと

アイチの前に現れた、氷のファイトテーブルにファーストヴァンガードをセットする。






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