「なぁ、アイチからメール来たか?」
「うん・・・暫くの間は学校にもカードキャピタルにも来れないって・・・何かあったのかな」
さすがにアイチやシンゴ、森川達やエイジ達がこなくなったことへの異変にミサキと三和はカウンターで話をしていた。
三和もさりげなく誘ってはいるが、二人とも行きたくいなと頑なに拒んでいる。
エイジ達も、学校に来るようになったが家の都合などと理由をつけて、逃げるように学校が終わると家へと帰っていく。
「なぁ、櫂。アイチからお前に連絡行ってねぇかの?」
「・・・メールが来ただけだ。暫く会えない、ただそれだけだ。アイチがそういうんだ、心配することないだろう」
黙々とデッキを見て、興味がなさそうにしている。
櫂はアイチにとって特別な存在だ、もしかしたら何か知っているかもしれないとも思ったのだけど、知らないらしい。
(何もないはずだ・・・何も)
ただ風邪が流行っているだけ、もしも本当に異変があったとしたら櫂に真っ先にアイチは連絡してくはず。
だって、櫂とアイチは『親友』なんだから・・・。
デッキが入れ替えられた時だって櫂にだけ相談してくれた・・・、表には出さないがやはり心配だ。
櫂は立ち上がると、今日はヴァンガードする気になれないと店を後にする。
三和とミサキは話しをしている間に櫂はポケットに手を入れたまま、店から出た。
「櫂・・・」
今は、一人にしておいた方がいい。
以前の人を寄せ付けない状態に戻らなければいいがと、三和は心配していた。
怖い顔をして歩いていると小さな塊がぶつかってきた。
「ごっ・・ごめんなさい」
「・・・先導エミか」
同じ考え事をしていたエミにぶつかってしまったようだ、恥ずかしそうに頬を染めるエミ。
しりもちをついて転んでしまったエミに櫂が手を差し伸べる、エミは櫂とは会話もしたことがなくて、最初は冷たい感じの人だというイメージがあったが
手を差し伸べてくれたことに、驚いたがその手を借りてエミは立ち上がる。
「考え事してて、・・・アイチと連絡取れなくて・・・」
「・・アイチと?」
一度、家に連絡はしてきたがあれから何度も電話をかけても繋がらない。
ずっと通話中のまま、誰かと話をしているようで心配になってミサキに相談しようと考えながら歩いていた。
「やっぱり、止めるべきだったかなって・・たとえ誰かと一緒でも」
「誰かと?アイチは最後に見かけたのか」
「金髪の人は見たことあったんですけど・・・もう一人の、リゾートに行った時にデッキを貸した・・・・・」
『こんばんわ、エミさん』
玄関でにこやかに手を振って挨拶してきたのはレン。
後ろにいたレオンはシズカに丁寧な挨拶をしていた、しっかりしている男性二人と一緒ならと仕方なくエミは玄関で送り出した。
シズカはというと、二人共イケメンだったわねvvなどと、目の保養になれたとか言っていた。
アイチも彼らのように頼もしくなってくれればと、こんな事態になる前にエミは思う。
その足で櫂はフーファイタービルへと向かう。
時間は夜となり、ライトアップされた青いビル、真下には輝く電気の光。
「君がこんなところに来るなんて、驚きました?どうされたのですか」
「・・お前、アイチと一緒だったんだな。レオンも、一緒に」
ソファーに腰かけているレオンは櫂の睨みにも動じずに目を閉じたまま、話を聞いている。
レンは両肩を竦ませて、困り顔をしている、アイチと共に行った先のことや事情の説明をしてくれるような雰囲気ではないようだ。
「確かにそうですけど、アイチ君は途中で別れましたよ。その後のことは僕も知りません、ねーvvレオン君」
「ああ、俺も知らない」
白を切るが、アイチがレンと香港に戻ったはずのレオンを呼び出すなど絶対に理由があるはず。
二人とも口は固く、脅し程度では情報を吐くタイプではない。
「心配ないとメールが来たんじゃないのか?だったら心配することないんじゃないのか?
それとも、貴様と先導、そもそもどういう関係なんだ?」
アジアサーキットからの付き合いのレオンからすれば、櫂とアイチの関係は微妙だ。
ナオキのように友達というわけでも、ミサキやカムイのようにチームメイトというわけでもない。
ヴァンガードを教えて、ブラスター・ブレードのカードをあげた一時の恩人。
アイチはいつだって櫂の自慢をしているが、二人が会話している姿はほとんど見たこともない。
「俺と、アイチは・・・・」
友達・・・親友だ。
そう言えばいいのに、年頃の恥ずかしさから口には出したくない。
目を反らして、顔を下に俯かせる。
結局、櫂がアイチに関しての情報を得られないまま・・・フーファイタービルを後にした。
次は絶対に情報を聞き出してやると誓いつつ、別ルートから探ることに。
「やれやれ、櫂に睨まれすぎて疲れましたよ」
「先導はさすがに櫂にも本当の理由は説明してない・・・当然だが。そろそろ時間だ」
携帯の時刻を確認すると、レンもレオンも目を閉じる。
二人の体が輝き始め、意識だけクレイへと飛ばす、空から降り立ったのは荒れ地のような場所。
空にはいくつもの月のような惑星が浮いている。
「アイチ君は、まだのようですね」
左右に顔を動かして、辺りを見たかアイチの姿はない。
敵に監視されている中でPSYクオリアの力を使ってこちらに来るのは難しかったのではと考えていたが数十分遅れでアイチが来た。
「遅れてすいません。ガイヤール君にいろいろと聞かれて」
暫くはあちらで生活するのだから、必要な物を揃えますのでと笑顔で言われて
パンフレットで選んだりしていたらすっかり遅くなってしまった、アイチとしては人に任せてもよかったのに
そこまで親身になってくれる彼に適当によろしくだなんていえるはずもなく、こんな時間に。
「数十分だけだ、問題ないが・・なんだ、その服は?」
「カッコイイですよー、アイチ君」
黒いコートに、白いシャツ。
まるで王のような服装だと、笑顔を浮かべているレン、レオンはというと目を細めているだけ。
「なんか、勝手に着替えさせられて・・・元着ていた服も返してくれなくて」
ガイヤールは「とてもお似合いです!」とゴリ押し・力説をしてきて、アイチに上に立つような服を着せたい様子だった。
彼に負けたアイチは室内だけならと、この服を着てるが、こんな服、レンのように偉い立場の人間ならまだしもアイチには似合わないのに。
「服のことは後にして、話を聞かせてもらうぞ」
はしゃいでいたレンも顔付が変わると、アイチを見る。
立ったまま三人は話を始める、一時間くらいかけてアイチは二人に話をする。
辺りの光景は夜がないのかわからないが、日も暮れる様子がない。
アイチが戻らない真の理由を聞かされると当然のことながら、二人は真っ先に反対した。
櫂から守ってほしいために、あのビルに残ったわけではない。櫂に憎しみを抱く彼らを説得するため。
それは簡単なことではないし、たった一人ビルに留まるなんて危険すぎる、あのプリズンの力の源が何なのかも、わからないのに。
「・・・・アイチ君、一度心に点いた憎しみの炎というのは簡単には消えないのですよ」
それはかつて櫂に憎しみを抱いた自身の体験からだろうか。
仲間のため、櫂のために強くなったのに櫂はレンを捨てて、去って行った時のとこ、あの時レンは強さしか見えておらず
戦ってくれたアサカやテツの心すらもわからなくなったところまで墜ちたが、アイチによって救われた。
冷静になっていれば、防げたことだがあの時、傷つけられた憎しみで心がいっぱいで善悪の区別がつかず、いろんな人を傷つけた。
簡単に人を許すことができないことを、知っている。
そして、傷つけた彼らの中にもレンを許せない人間だっていることを・・・。
PSYクオリアのせいだと、一言で片づけられるほど簡単なことじゃない。
「貴様の言葉で、奴らが櫂への復讐を止められると本気で思っているのか?」
プリズンを使って、すでに何人ものファイターが傷つけられている。
ファイトをして、その淀んだ信念を貫き砕けばいいと二人は考えていた、確かに勝てるかもしれない、でも・・・アイチは賛成できなかった。
「ヴァンガードファイトは純粋に楽しみたいんだ、確かにヴァンガードのせいで起こった事件なのだけど
答えになってないかもしれないけど、僕は戦わずして彼らと対話したい」
どうかしている、普通ならそう相手の思考を疑うだろう。
相手とのファイトを楽しむこそが、真のヴァンガードゲーム。
顔を合わせ、レンとレオンはアイチの身の安全も心配だったが
あの強い意志で考え抜いて決めたのなら、止められはない・・・レンは手っ取り早くファイトして叩き潰したいらしく、不満げに唇を尖らせている。
レオンは厳しい表情をしたまま、アイチの肩に手を置いた。
「だが、奴らを信用はできない。・・・先導、何かあったら連絡しろ、いいな、お前のデッキが完成を楽しみにしているんだからな」
そうだ、アイチはロイヤルパラディンのクランとして新しいデッキを組んでいる。
皆で集まってファイトをする先の楽しみのためにも、自分の身は最優先にと釘を刺す。
「彼らのことを調べたいのですが、僕らは顔を知られてしまってますからねぇ」
フーファイターと香港の研究所を使えば、敵に動いていることを知られてしまう。
幸いにも、この場所で秘密の会議をしているのはバレてはない、敵の中にPSYクオリア使いはいないようだ。
「でも、調べると言っても・・・」
タクトは世界から消えた、レンもレオンも動きを制限されている。
PSYクオリアを持っていて、敵の目標外のファイター・・・。
「あっ!!」
彼ならきっと力を貸してくれるはず、それは遠く離れた異国に地にいる獣の使い手・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
時刻は夜となり、同室のリーとアリは明日のSIT模擬大会へのデッキテストのために席を外している。
クリスは一人、明日のために欠伸をかみ殺しつつも、手にはグレートネイチャーのカードを持っていた。
(光定にこの間は苦戦したから、今度はそうはいかないよ)
それは己の地位を脅かされる焦った顔ではなく、対等なファイターが近くにいて嬉しい者の顔だ。
強くなってアイチとまたファイトしたいなとつい、自然とにやけていると突然、PSYクオリアで誰かが呼びかけているのを感じた。
『・・・クリス君』
「・・・・アイチ?」
こんな時間にどうしたのか、何かあったのかと。
デッキを机の上に置いてクリスは目を閉じると、彼の体は輝くとあの岩場の荒野に半透明姿となって降りてきた。
「蒼龍レオンに、雀ヶ森レン・・と、アイチ、その格好どうしたの?ついに中二病とかいうのに目覚めたの?」
苦笑しつつ、アイチはクリスに力を貸してほしいと言ってきた。
このメンバーで集まっているということは、ヴォイド絡みなのかと、目を細めていると。
『アイチさん、失礼いたします』
「あっ!!ガイヤール君が戻ってきた、すいません!!戻ります」
地球にいるアイチは、うたた寝をしていたが怪しまれるとまずいと後のことは二人に任せて消えていく。
レオンとは面識があったが、レンとはあまり話がしたことがなく、正直アイチが架け橋になってくれたほうがよかったが
せっかくの機会だ、彼らとも話がしたいとずっと考えていた。
「自己紹介・・・した方がいいかな?」
まずは、そこから始めることにした。
頼みごとを聞くのはそれが終わってからにしよう。
意識を地球に戻すと、台車を動かす音がし、まだガイヤールの姿もなく間に合ったと安心するアイチ。
一人掛けにしては豪華な椅子に座って意識体のレオン達と話をしていたが、現実世界と同じ一時間ほどしか時は流れているようだ。
「お食事をお持ちいたしました」
「あっ・・・ありがとう」
白亜色のテーブルとイスに腰掛けると、アイチのためにフルコースの準備のように手慣れた様子で夕食の準備を始めた。
簡単な食事でも出るのかともイメージしていたのに、こんな高価な食事を出されて、後で代金請求されないだろうか。
最初に出されたのは、ふんわりと湯気の出ているコーンスープ。
カップではなく、スープ用の底の深い皿に出てたが見下ろすだけでアイチは固まって手を出そうともしない。
「あの、もしかしてこのスープはお嫌いでしたか?」
心配そうにガイヤールは尋ねてくる。
「ううんっ・・・違うの。いただきます」
ものすごく美味しかった、スープを材料から作ったような丁寧で繊細な味だ。
これを飲んでいると櫂の家に泊まった時のことを思い出した、櫂の料理と彼のことを思い出す。
(櫂君、大丈夫かな・・・三和君やミサキさんにはまだ手が伸びていなかったか・・まだ大丈夫なはず・・・・!!)
レン達は彼らを簡単には止められないと、アイチに一刻も早く外に出るようにとは言われたが
甘いことをと全員に反対をされてしまったが、最後はアイチに折れる形となってくれていた。
アイチだって言葉で止められるのなら、戦争やテロも起きることはないぐらいわかっている。
でも、復讐のためのファイトをファイトで、力を力で止めたくない・・・・。
夕食を終えて、月の宮にある露天風呂のような浴槽に入ると、ガイヤールが待っていたかのように
湯冷めしないようにホットミルクを用意してくれていた、それを飲み終えるとベットに入るのを見届けると。
「それではまた、明日、お休みなさい。アイチさん」
「うん、おやすみなさい。ガイヤール君」
PSYクオリアを使ったり、いろいろと考えたりしたていたら疲れてしまった。
明日また、レオン達と話さなければ、ナオキもきっと心配しているから敵に聞こえているの前提で話さないと
皆の様子も教えてもらおうと学校に行かなくてスケジュールがぎっちりしていて、明日の予定に考えながらアイチは眠りについた。
「・・・おやすみなさい」
天蓋のカーテンを少しだけ開けて、アイチが眠るのを確認すると残りの電気を消して月の宮を後にする。
アイチの部屋は月の光だけでも十分照明になるだろう、今日は満月で天然のほんのりとした光がアイチの部屋を照らしていた。
(あの人が此処にいる、僕のすぐ近くに・・・櫂トシキではない。僕の傍に・・・!!)
櫂ではない、ガイヤールを選んだのだ。
それは今まで感じたことのない感情、高鳴りだった、今ならどんな相手にだって負ける気はない。
暫くの間、考えたいとアイチは言っていたが被害を受けて傷ついた者達の話を聞けば、アイチの心は揺らぐはず。
二人の関係を調べていくと、薄っぺらい関係だったことがよくわかった。
あの時の冷たい態度もいつものことだと、アイチが言っていたとその通りだったことに今でも腹が立つ。
それは世界を己の欲望によって滅ぼしかけた男が、平然と世間で咎められることもなく暮らしているのを同じだ。
「アイチさん、貴方はあんな男はいるべきではない。貴方はもっと輝ける・・・必要とされる人だ」
月の宮にいるのなら、躊躇いことなどない。
ターゲットの櫂の周りにいるファイターに絶望を与え、心を折らせさせて櫂の近くから遠ざける。
そうすれば、櫂は最後・・・一人になる。
誰も助けには入らない、もともと庇うような人間ですらないのに、周りの人間達が甘すぎるからつけ上がったのだ。
「この青い炎で、お前に罰する時が楽しみだ・・・櫂トシキ」
歪み、黒ずんだ心でガイヤールは直進の廊下を歩きながら笑みを浮かべていた。