生徒会室にはナオキと、マキがいた。
椅子に座っているマキはパソコンを操作して、櫂の噂の出所を調べている。

メガネには、パソコンの電子画面が映し出されていた。
しかし、どの情報サイトにも突然沸いて出たように出てきているだけで、すぐに他の話題に移り変わっている。

「駄目だわ・・情報の発信先がわからないわ、かなり巧みな手で正体を隠しているのね」
「くそっ・・ダメか」
マイならふざけた噂のでところがわかるかもと頼ったが、何度やってもたどりつけない。
パソゴン画面からリンクジョーカーが接触し、リバースしたマキなら情報を掴んでくれるかもと考えたのだが。

(アイチの奴、大丈夫だなんて・・・信じられるかよっ・・)
暫く休むが理由は言えなかった。
ナオキに言えば絶対に反対して、単独でもアイチのいるところに殴り込んでくるぐらいのことはしてしまう。

『事件のことは任せて、コーリンさんとミサキさんのことはお願いしていいかな?』
ミサキは櫂の仲間、コーリンはタクトの協力者。
敵に狙われる理由を持つ二人、宮地にいてそれができるのはナオキだけ。

「アイチ、お前また無茶なことしようとしてるんじゃないんだろうな!!」
『ごめん・・今は何も言えないんだ。カムイ君達にはよろしく伝えておいて』
そういうと電話の向こうで人の声が聞こえ、アイチはそれに返事をしたのち通話は切れた。
暫くしてからナオキは掛け直してみたものの、通話中の一定音しか流れず、まったく繋がらないでいる。


「何故かしら、櫂トシキのことばかり書いているわ。・・・立凪タクトや私もことだって書かれていてもおかしくないのに」
「・・お前」
マキはリバースされている間の記憶が残っているナオキの知る、唯一の人間だ。
特殊な方法だったからなのかもしれないが、何故同じことをして彼だけが責められる、マキも同罪に等しい筈。

コーリンを惑わし、宮地学園全体を支配し、ナオキやシンゴもその手によってリバースさせたというのに。

「悪いな、嫌な手伝いさせて・・・。もう関係ないのに」
「そんなとこないわ。私もできることなら手伝いたい・・・でも、力が及ばなくてごめんなさい。でもいつでも声はかけて」

「ああ、その時は生徒会の連中と校内ヴァンガード大会でもしようぜ」
生徒会がヴァンガード部に対しても嫌がらせもなくなり、むしろ彼らもハマってきており
モーションフィギュアシステムも導入しようではないかと検討してくれている、アレがあればもっとファイトが楽しみになる。

ネーヴに敗北し、苦痛を味わったがナオキはすぐに立ち直った。
アレは共に戦う仲間の傷、それをファイターが代わりに受けただけにすぎない、罰でも何でもない。

「小茂井君、早く立ち直るといいわね。先導君も・・・心配だわ」
「ああ・・・アイチの奴。一人で突っ走るからな・・・」

立凪ビルにも一人で入っていったという前歴があり、ナオキは心配だった。
生徒会室で仕事があると、マキとは別れるとナオキは考え事をしながら歩いているとシンゴと会う。

「おい、部活・・・出ないのか?お前もやっぱりフィリップ・ネーヴとかいう奴にやられて・・」
ビクッと大きくシンゴの身体か揺れる。胸にカバンを抱きしめて気のせいか体も震えていた。
近づこうとすると「今日は体調が優れないので部はお休みするなのです!」と言って、帰っていく。

「シンゴ・・・」
ナオキは一人、廊下の真ん中に残されて
触れ損ねたナオキの手が悲しく空中に浮いたままだった。





今日は新しいブースター発売日で、カードキャピタルは忙しくなりそうだと部は立ち寄らずにまっすぐ帰るミサキ。
やっと仕事が一段落して落ち着いたコーリンが先に店番をしてくれている、タダで居候などできないと真面目な彼女らしいが

それでも時々、考え事をして俯いている。
記憶が戻ってからだろう、コーリンにとってその記憶に幸せがあったのだろうか。

あと少しで、店が見えてくる。
真横を鼻歌を歌いながら一人の少女が通りすぎる、彼女の手にあるデッキケースに見覚えがあった。

(あれは・・アイチの?)
同じ色のデッキケースなら、他の人間だって使っているが太陽の光に照らされた時に浮かんできた傷。
その傷をミサキは記憶している、同じものは存在しない、ただ一人アイチのデッキだ。

(どうしてあの子が)
連絡のつかないアイチと繋がりがあるのではと、引き返して少女を追う。
声をかけようにも行きかう人が邪魔をして、なかなか追いつくことができない。

やっと近くまでこれたのは、人気のない路地裏。
角を曲がったところで、ようやく人もいなくなり始め、話しかけようとしたが


行き止まりの路地裏で、少女は待っていた・・・・・・ミサキが追いついてくるのを。







「やっと追いついてきたね、始めまして」









店はブースター発売日だけあって大忙し、コーリンもシンも二人がかりでレジを対応。
店が混んでいるのには理由がある、超人気アイドルコーリンが店番をしているからなのも理由だった。

いつもなら森川が大騒ぎをするが、人が多い分・・・声も多いのに静かにも感じる。

「ありがとうございました」
「いや~、コーリンさんのおかげでお店の売り上げが右肩上がりですよ」

ミサキがレジにつくと、大声で騒ぐと大きな雷を落とされて怖がる子供もいたし
スマイル有料のミサキには愛想を出してほしいと言ってはいたのだが、聞く耳持ってくなくてと嘆くシン。

「そんなこと言っていると、ミサキに怒られますよ」
「そうですよ、じゃあ、俺はお先に失礼します」

カムイは数個ブースターを買って店を後にする。
休んでいるエイジとレイジの分だろうか、熱血で思った事をすぐに口に出したりするが友達思い優しい子だ。

アイチが暫くの間、店にこれないと彼も聞いているが
連絡が取れない以上、待つしかないが友達のことも心配で、見舞い品ついでに様子を見に行くようだ。

そんな彼の後ろから、何者かが気配を殺してあとをつける。


「ミサキにはコーリンさんやアイチ君のように可愛らしい笑顔をですね、もっと」
「ただぃま・・・・」

自動ドアが開き、ミサキが帰ってきた。

「うわっ!ミサキ、あのですね・・!!これは・・---。ミサキ!!」
商品の説明をしていたコーリンもこちらを見てきた。
そこには服のあちらこちらが破けているミサキがいた、よろめくミサキの体を突起に近くにいた三和が受け止める。

「大丈夫かよ・・・!!姉ちゃん」
「ごめん・・三和。いっ・・・!!」

「ミサキ!」
コーリンがすぐに駆け寄ってきて、彼女に支えられて一度店の奥へ。
シンがざわついた店の対応をし、コーリンと三和、そして一緒にいた櫂が二階のリビングで話を聞いている。

「喧嘩でもしたのか?まぁ・・負けるイメージ沸かないけどな」
「そんなんじゃない・・・アレは一体。アタシにもわからないただ・・・ラティって名乗る女の子が」

あの時のことを傷ついた身体で語りだした。
路地裏で待ち構えていたラティ、その手には紙で作られたような円球の玉が浮いている。

「見せてあげる、私のファイトフィールド。
おいで、私の妖精達。フェアリー・マスカレード・プリズン!」

「!!」
突然木々が辺りに生え出して、あっという間にミサキは閉じ込められる。
こんなものは見たことがないと驚くミサキ、相手の少女には見覚えがあった、カムイが以前見せてくれた
月刊ヴァンガードの特集に載せられていた褐色の肌に金色の瞳のエミと同じくらいの年ごろの少女・・名は。

「ラティ・カーティ・・・無冠の魔女。でも中央アジアで活躍しているって聞いたのにどうして日本に」
「私はいろんなところを旅しているから、別に不思議じゃないけど、このプリズンの中に一度入れられると私とファイトしないと脱出はできない、どうする?」

挑発するように無邪気に笑うラティ。
高い実力を持つファイターだが、気まぐれ屋でマイペースなところがあり、あと一歩のところで大会の試合を放棄することも珍しくない。

「やってやる・・・・!そして、なんでアイチのデッキを持っているか聞き出してやるよっ!!」
デッキを取り出して、草木で作れたファイトテーブルの上に置いて。
するとアイチデッキケースから、自分のデッキを取り出す、鋭い表情のミサキに対し、ラティは終始笑みを崩さない。

ラティのクランはシャドウパラディン。
レン以外の使い手を見るのは初めてだった、かつてアイチも使っていたが彼女は騎士ではなく、魔女を繰り出してきた。

しかもやっかいなことは、彼女のレギオン、幻惑の魔女フィアナのスキルだ。

「グレート0になっちゃえ!ぱんにゃらら~~vv」

相手のグレードを入れ替えられ、山札から勝手にグレード0をコールされてしまう。
これでは攻撃力が足りない、グレード0は守りには有利でも、攻撃に対しては底上げしてもパワーが足りない。

「おっかしいなぁ、アイチ君はもっと強かったのに・・。戸倉ミサキ・・もっと楽しませてくれると思ったのに」
「アンタ一体何者なの!!こんなことして何がしたいのに!!」

こんな牢獄に閉じ込めて、ファイトさせる目的がミサキにはわからない。
するとラティは指で丸型を作って、その穴からミサキを見た。

「ねぇ・・ミサキン。そっちから見る景色とこっちから見る景色・・どう違うんだろうね?」
「・・・・ミサキンって、アンタ・・・」

「チームメイトにして、部の友達。でも、いつまでも友達ってわけじゃないね?だって永遠なんてない変わらないものなんてないもの
だからアイチ君は私達の景色を見て、こちらを選んだんだねvv」

アイチは、敵側についたような衝撃の言葉たった。
連絡はもう二度と取れないかもしれない、ミサキ達のところにも戻ってこないかもしれない。

「アタック♪」
「しまった・・・・!!」

スキルのせいでラティにダメージは与えられず、ミサキの敗北となる。
するとダメージゾーンに置かれたカードの様子がおかしい、不気味なオーラを放ち、ラティは制裁を下す。




「現と幻の間にあって、裁かれるのは、人の信念。 さぁ、審判を下しちゃうよ!ジャッジメント!」





カード達の受けた全ダメージをミサキは与えられた。
ラティは傷ついて座り込むミサキに対し、『また遊ぼうね、ミサキン』と笑って帰っていったという、追いかける力もなく
暫く座り込んで回復した後、店に帰ってきたという。

「何が遊ぼうねよ・・・!!ふざけないで!」
「コーリン・・・」
人を傷つけておいて遊びだというラティに対し、友人を傷つけたコーリンは今すぐにでも仇を取ってやりたいと
リビングのテーブルに拳を叩き付けて怒りに震えていた。

「まぁまぁ・・でも、アイチが妙なやつらのところにいるのは間違いない・・携帯も出ないままだし、櫂の方は?」
「俺の方は何の連絡もない・・・」
持っている情報は同じ、だが最後のアイチと会っているのはレン。
アイチとの約束があって、何も話せないというが、レンは奴らのことを知っているのか?

近いうちにレンにもう一度会う必要がある。
コーリンがミサキの手当てをしていると、再び店が騒がしくざわついたために櫂と三和が店へと降りると。

「しっかりなさい、何があったのですか?」
岸田が珍しく慌ててカムイの体を支えていた。
ブースターパックをエイジとレイジに届けようと、店を後にしたはずのカムイが傷だらけになって帰ってきた。


(一体何が、起こっているんだ・・お前は何をしようとしているんだ・・・・アイチ)



ガラス張りのテラスからアイチは下の街を見下ろしていた。
その後ろには、手を後ろに手を回したセラが立っている、後ろはモレスが控えている。

可愛らしい外見とは反対に中身は頑固な一面もあるアイチに、セラは肩を竦めていた。









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