こうなっては店は一時岸田兄弟に任せることにした、三人は無駄に張り切っているが
絶対に後で売上計算を間違っている、三和は今月のお小遣いをかけてもいい、今日は帰宅が遅くなりそうだ・・別の意味で。

カムイは言葉が途切れ途切れになってしまうほど、痛そうにしていた。
今は痛みがそれほどではないが、消毒液が染みるのか痛がるが我慢してくださいとシンが一言。

「では、後はお願いします。コーリンさんミサキをお願いします。今日はミサキも休んでください」
救急箱を元の場所に戻すとシンは下へと降りていく。
今日は新しいブースターの発売日、ヴァンガードファイター達は何より今日という日を楽しみにしていたのに休業などできない。

残ったのは怪我を負ったカムイ、ミサキ。
始めてから店内にいたコーリン、櫂、三和の三人。
カムイは絆創膏を手でさすりながら自分の身にあったことを教えてくれた。

「ちょうど、線路の真下の道を通ろうとしたところだったんだ・・・」
反対の道に出るには、日中でも暗い連絡路を通らなければならない。




それはいつものことだったが、小走りで歩いていると目の前に見知らぬ男が現れた。



突然問答無用で謎のプリズンに入れられると、ファイトを強制的に仕掛けてきた。

男は「同じ鋼の使い手でも、お前からは先導アイチのような強い光は感じない、・・・・大した使い手ではなさそうだな」と戦ってもないのに馬鹿にしてきた。

それは、ネーヴだった。
月刊ヴァンガードのサーキットのチャンピオンページに記事が載っていたのでよく覚えている。
彼は強いディメンジョンポリスの使い手だということも。

カムイはその言葉にキレたのか、ファイトを受けた。

絶対にその余裕をへし折ってやると、カムイはレギオンを発動させる。

「星の地下深くに眠る、真紅のマグマ。
天上の星を纏う、蒼き空。 母なる星守るため、今こそ目覚め、並び立て!・・・・俺様レギオン!!」

赤と青の人型のロボが並び立つ、これがカムイのレギオン。
クルティカルプラス1が自動追加された、ノヴァグラップラーのレギオンでネーヴに挑むが

ナオキと同様に、グレード1以下はライドできないというスキルに決定打を打たれ敗れてしまった。


「ミサキの時と同じ、アイチとは面識がないはずなのに・・・知っていた。アイチがいる場所に彼らがいるの?」
コーリンはすぐに携帯を取り出してアイチに電話を掛けるがまったく繋がらない。
ずっと通話中というのもおかしい、敵に携帯を奪われて身動きが取れなくなっているのかもしれない、そう考えるじっとなどしていられない。

「すぐにアイチお兄さんを助けにいかないとっ・・・・!!」
「よせ、まだ傷が癒えていないだろう・・」
ひとまずカムイは三和はシンから借りた自転車の後ろに乗せて、家まで送ることに。
櫂は念のために閉店ギリギリまでカードキャピタルに残ることに、再び襲撃してくるとも限らない。

「気を付けろよ、櫂・・・」
「お前もだろう、三和」
できれば固まって行動するべきだが、カムイは自力では家まで帰れなさそうだ。
二人乗りは違法だが今日だけは警官に会わないことを祈りたいものだ、オレンジ色の光の中、ペダルを思いっきり踏む。

「櫂・・・無茶するなよ・・・」
苦しそうにカムイは櫂に言うと、三和に乗せられて家へと帰宅。
明日になったらケロッとカードキャピタルにこれればいいのだけど、願うばかりだ。






ラティは今日のファイトの相手は面白かったと嬉しそうに歩いていた。
途中でドーナツショップを見かけ、足が止まるとラティは数個ドーナツを購入、もう一人の分も一緒に。

(こっちの穴から見る景色と、そっちの穴から見る景色・・全然違うもの)
相手は世界を滅ぼしかけている敵で、こちらは事件のせいで傷を負ったファイター達。
指で輪を作りながら、何故彼らが首謀者の櫂と共に今でもいるのか理解ができない。

「やっぱり、こっちが正しいよね」
大きな罪を犯した者、傷つけられて苦しんだ者ではこちらから見る景色の方が正しいのだと鼻歌を歌いながら道を歩く。



立凪ビルへと戻ると、顔パスで中へと入っていく。
受付以外は誰もいないビル内部、エレベーターの乗ろうとするとちょうど動くところだった。

「待ってーー、私も乗せて」
ドーナツの入った箱を抱えて、エレベーターの中へ。
すでにいたのはネーヴだった、彼はカムイに勝利した後ビルに戻ってきたようだ。

「また甘いものか、先導アイチを肥えさせる気か?」
「ネーヴにはあげないの。これは私はアイチ君が食べるんだからvv」

「そんなもの、俺は好かない」

冷たい態度で、ネーヴは目的の階に到着すると挨拶もなく降りていく。
カトルナイツは実力者4人で構成されているが、実際にチームなどでもない、ただ力の強い者というだけで名前がつけられている。

名のある大会での優勝経験があるのに対し、ラティは唯一の無冠。
いくら強いと言っても、成績を残していないラティ、しかも理由はドーナツに目がくらんで試合放棄という理由。

真面目で堅物なネーヴ、ガイヤールは実力は認めてくれているがラティに対しての態度は冷淡としている。
唯一理解があるのはセラと以前戦ったことのある光定だけだ、彼は決勝でドーナツを食べていたことを咎めずに接してくれた。

『そのドーナツは美味しかったかい?』と聞いてきてくれた。

だが彼の後ろでは、『ふざけているのか?』『本気でヴァンガードをしようとしているのか?』『大事な試合なのに』という
冷たい人々の目線がいつだってラティに向けられている、試合放棄のそういう理由からラティは大会ではいつも一人。

最初は声をかけてくれたファイターもいたが、何度もドーナツに目が眩んで試合放棄を繰り返し、誰もラティに話しかけなくなった。
周りはドーナツの形のように誰もいない、ラティは一人ぽっち。

(別にいいもん、私にはドーナツとクレイがあるから)
だから寂しくない、フィアナも目を閉じればいつだって傍にいてくれる。
一人じゃない、理解してくれているクレイの皆がいる、現実などただヴァンガードファイトをしている場にすぎないと考えていたが最近は少し違う。

月の宮へのエレベーターはカトルナイツだけが持つことの許されたジャッジメントの力の形にした装飾を翳すことで開くようになっている。
くるくると回転する輪がラティの手の中で回転していると、それを電子パネルの前に翳すとビーッという機械音と共に扉は開いた。


このビルには強いファイターが集められているが、彼らですら簡単に会うことが許されない。
リンクジョーカーから世界を救った、少女のような可憐と少年のような凛々しさを併せ持った先導者が月の宮には暮らしている。


月の宮に到着すると、ラティはドーナツの入った箱を抱えて、自然と小走りで中へと入っていく。
左右に首を動かしてアイチを探す、ちらりと青い髪が草木の間で揺れ動き、いつもの太陽の光が差し込む椅子に座っていると一直線にこちらに向かってくる。

「アイチ君!」
「・・・・ラティ?」

一人、何か探し物をしているのかアイチは椅子には座らず、何かを探していた。
いつの間かデッキケースがなくなっていると、大切な思い出のある品だと焦っているラティがデッキケースを差し出す。

「ごめんね、この間ファイトした時に間違って持って帰っちゃったみたい」
ミサキをおびき出す餌として使ってとは一言も言わず、ラティは間違えてしまったと嘘を言った。
僅かにアイチの瞳が揺らいだが、「そうだったの・・」とラティの手からケースを受け取る。

「ドーナツ買ってきたんだ、一緒に食べようよ」
「うん、そうだね。今、飲み物入れるね」
ガイヤールが持ってきてくれた紅茶がある、今日はアールグレイにしようと丁寧な手つきで紅茶を入れてくれた。
高級そうになティーカップに紅茶を注ぐ、淹れ方はシズカの見様見真似だ、茶葉から淹れるがシズカのような味は出せずにいる。

「アイチ君には、コレとコレをあげる。食べ終わったらクレイに行こうよ」
「うん、そうだね」
ラティはガイヤールがいない時のアイチの世話係として、オーナーから命を受けていた。
しかしガイヤールはアイチの身の回りのことは全部自分がやると、当初は譲らなかったが後江高校にはまだジャッジメントを下していないターゲットもいる上に
櫂トシキが在籍しているため、アイチの世話が必要だからと簡単に退学はできない。

仕方なくガイヤールは自身が不在の時は、ラティが世話役と護衛を務めることに。
内心ラティはあまり気が進まなかった、人の世話なんてしたこともないし先導アイチにはクレイを救ってはくれたが

ガイヤールやネーヴのようなのかもしれないと考えていたからだ。
タイトルに興味のないラティに、真面目なファイトしている者に失礼な奴という印象が強く、他の二人とは必要最低限話もしない。

「大丈夫ですよ、アイチ様は素晴らしい・・・まるで聖女のようなお方です」
セラにそういわれて、ラティはアイチの元へ。
写真も見たことがなくて、イメージするしかなかったが歳はあまり変わらないとセラが言っていた。

(ガイヤールがいない間だけ、難しく考えなくてもいいものね)
適当に手を抜いて、あとはガイヤールに任せよう。最初はそう考えて、夜も更け、満月が空高く上った時刻にラティは月の宮を訪ねた。


「・・・・あ・・・」
初めてみた、先導アイチは本当にラティ以上の力で世界を救ったなどとは考えられないほどのか細い体をしていた。
しかし、月に照らされたアイチはまるでソウルセイバー・ドラゴンのように美しい、青い髪はまるでバミューダ△達の住む海のようで澄んでいる。

「君は、確かラティさん?」
「えっ・・・、あのっ・・・ええっと」

珍しく呂律が回らずに声を出す。
何から喋ればいいかわからずに混乱しているラティに、優しくアイチは微笑む。

「はじめまして、先導アイチです」



あんな風に、初めて会った人間に微笑まれたのは初めてだ。
しかもアイチは不思議な力を持っていてイメージの中のクレイとより、リアルに意識体を飛ばす力を持っている。

『アイチ君ー、見てみて』
『うん、カワイイね』
ドーナツを食べ終えて、ラティはアイチと手を繋いでクレイを散歩。
カードでしか見たこともないユニットを見て回る、光定にも誰もできなかったクレイのことをわかってくれる人。


意識体とはいえ、遊び疲れたのかラティはアイチの膝の上に頭を乗せて眠ってしまっていた。
まだ親に守られて、甘えている年頃だというのに、何が彼女をカトルナイツにさせたのか、まだラティは話してはくれない。

ガイヤールと同じように、家族を傷つけられての復讐なのだろうか。

「・・むにゅ・・・アイチ君・・また遊ぼうね・・・」
気持ちよさそうにラティは、アイチに太ももに頬を摺り寄せる。
穏やかな顔で真下にいるラティの髪を撫でるアイチ、彼女がミサキに何をしたのか見抜いている瞳だ。


「随分と仲がよろしいようですね、アイチ様」


二人の時間を邪魔しにきたのは、一人の男。
オーナーの命により、世界から強いファイターを集め、金で雇っているセラだ。

アイチは膝の上で寝息を立てて寝ているラティを引き寄せて、目を吊り上がらせていた。











目を覚ました時、ラティはアイチがいつも寝ているベットの上だった。
いつの間にかこんな時間まで寝ていたと、慌てて立ち上がり、アイチを探す。

「アイチ君ーーーどこーーー?」
庭園の中にいるはずだと、声を出して探す。
するとさっきおやつを食べたテーブルの椅子にアイチは座っていた、だが顔色は悪い。

「どうしたの?アイチ君・・・具合が悪いの?」
「ううん、何でもないよ。ほら・・・そろそろ寝ないと」

時間はもう22時、アイチの言う通り、遅い時間だ。
乱れた髪を整えていて気づいた、アイチの目尻に赤い擦った様な跡があるのを。

(どうかしたのかな?)
その理由がラティはわからない、聞いてみようとかと声をかけようとするとガイヤールが戻ってきた。
その手にはバスタオル、アイチのためにお風呂を用意していたのだ、笑顔を浮かべていた彼だがラティがいるとわかると無表情に戻る。

「こんな時間まで、何をしているラティ」
「・・・・別にいいでしょ、ガイヤールには関係ないし」

「お前、アイチさんを困らせてはいないだろうな」

たとえ、カトルナイツでもアイチを悩ませる者は許さない。
無表情のままに、ガイヤールはデッキを構えるとラティもやる気十分だったのかデッキを出したが。

「やめて、二人共・・・行こうガイヤール君。ラティももう寝ないとね。おやすみ」
「・・わかりました」
アイチが椅子から立ち上がると、ガイヤールはラティへの興味を失ったのか後ろに続いていく。
ラティはアイチを取られて不満だったが、アイチにおやすみと言われたのなら寝ようと部屋へと戻る。



彼女の部屋は可愛らしいドーナツのクッションや、それに似せていた家具で溢れていた。
カトルナイツになってから、かなりの贅沢ができるようになっていた。

元々ファイトマネーを稼ぎながら、旅をしていたがその時の倍の収入。


「また、ミサキンとファイトしたいなー。次はリベンジしてやるってきっと気合が言っているだろうしー」

しかし勝つのは、ミサキではないラティだ。
櫂トシキの仲間達に絶望を、ミサキが簡単に心を折らせない人間でよかった、これでまたファイトできる。

「あの二人はつまらなかったけど、やっぱりミサキンは強かったー・・・でもいつまでその強さを維持できるのかな?
変わらないものなんてないのに・・・・・・ね」


壁にはミサキの写真と、エイジ・レイジの写真があった。
そして櫂の周辺での最重要にして、最高のファイターアイチ、彼はラティがイメージしていた以上の先導者だ。


「また明日、アイチ君のところにいこうっとvv」

ミサキにジャッジメントを下し、彼女自身も傷つけ・・・コーリンやシンを心の底から心配させたという罪悪感も欠片もなく
ただミサキとの再ファイト、アイチと明日もクレイで遊ぼうと考えてラティは眠りについた。





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