レオンが指定した、ユナイテッドサンクチュアリの神殿近くで、意識体となっていたクリス、レオンがすでに到着して
何やら話をしているようだった、二人に駆け寄るようにアイチが声をかけてきた。

「お待たせ・・僕が最後になっちゃったかな?」
「ううん、仕方ないよ。敵の目もあるわけだし・・・最後なのは後ろの人だよ」

「すいませんねー、寝坊しました」
本当に申しわけないと思っている様子はなく、後頭部を掻きながら福原高校制服を着て近づいてきた。
これで全員、現在こちら側のPSYクオリア使いが集まる、まずはクリスからカトルナイツについて調べた結果の報告が始まる。


意識体だか立っているのも、疲れるようなイメージがして近くの石の上に座って話を聞く。
カトルナイツはやはり、チャンピョン級の実力者揃い、南米・中央アジア・ヨーロッパで開催されているサーキットで個人部で好成績を残している。

中央アジアではサーキットクラスの大会でラティは、かなりの上位に入っているファイターだが
腹が空いたので帰るという理由で途中棄権している、まるでどこかの誰かさんのようだと全員がレンを見た。

同じシャドウパラディン使いとして、共通点のようなものがあるようだった。

「目的は櫂トシキへの制裁ねぇ、確かにヴァンガードに関する法整備はどの国もまだ成立していないけど
正直、僕はあまり彼らのいうことは理解できるけど支持できないね・・。なんで奴らのところにいるの?アイチ」
「・・・うん、そうなんだけどね・・」

クリスもやはり、レオン達と同じ意見だという。
お人よしにもほどがあるという目で、クリスはアイチに目を向けた。

「そうなんだけど・・一つ気になることがあってさ」
「あのプリズンの元となった力、PSYクオリアとは違うが・・・またクレイで俺達の感知していない何かが起こっているということ」

無言でアイチは頷いた。
敗北者には、カードの受けた全ダメージをファイターに与えるようにジャッジメント。

カードのダメージを現実のものにしている力に、アイチは不安を抱えている。
しかし正体が今一つ掴めずに、アイチは内部から調べているという、だからあと少し時間が欲しいという。


「・・確かに彼らは傷ついた、でもねアイチ・・・人というのは誰かに言われて、叱られないとわからないこともある」
それはかつて力に飲み込まれた経験からだろうか、リーやアリに随分と苦労を掛けた。
強い力を手に入れた人は、正しいと思うことに対して躊躇いもなくその力を使って正しいと迷いもなく振るう。

それでもチームでいてくれて、止めているのはまだ良い、本当の手遅れは見放されて非難しかされないことだ。

歯を食いしばり、傷ついてはいるが同情はしないレン達言葉に。


「君達にはわからない!!」
思わず声を荒げてしまった、驚いたのはレンとレオン。
クリスだけは「アイチ・・・、落ち着いて」と肩に手を触れると、カッとなってしまったことに気づいて「ごめん」と謝る。



その言葉以降、アイチは何も言わずに先に地球へと戻っていく。
残った三人はアイチ抜きで話を続けた、アイチがカトルナイツを庇うのには過去が関係しているのではと。

「このままだと、櫂の関わったというだけで手当たり次第にジャッジメントしてきますよ、彼ら・・・・」
レンの前に出てきたら、彼らの言い分など切り捨てて排除する予定だと眼を鋭くさせる。
それだけテツを傷つけられたことに腹が立っているのだ、レオンもクリスもいまだ狙われていないが
影からアイチと協力していると知られれば、狙われるてしまう。

(俺は狙われても構わない・・・だが、ジリアンとシャーリーンには手を出させるものか)

クリスは遠く離れたシンガポールにいるため、今のところは目標外ではある。
アイチから聞いた、もう一つの『真実』が本当なら絶対に止めなければならない。

「僕から一つ提案が、これはアイチ君がかつてやったことのあることなのですが・・」

珍しく、レンがこんな風ではどうでしょうと話をしてきた。
一見無理そうだが、確かにこの手なら被害を最小限にできる、しかし実行するにはまだ人手が足りない。

「私達が協力するわ」

考え込む三人の前に、PSYクオリアの関係者である少女達が現れた。










目を覚ますと、いつの間にか寝ていたのか時間は23時と枕もとのアナログ時計が指していた。
コーリンに手当てをされて、怪我を負った理由を説明していたら安心して眠っていたようだ、元々勉強のために夜更かししていたから
疲れていたのかもしれない。

「・・・コーリン?」
丸テーブルの上に、うつ伏せになってコーリンは寝ていた。
肌寒くなってきたのかクシャミをすると、目を指で擦りながら起きると、ミサキが上半身をベットから起こしている。

「ミサキ・・痛くない?」
「見た目ほどの傷じゃないよ。大げさなんだから、シンさんは」

「家族だもの、大切にされているって証拠よ。少しはありがたく思わないとだめよ」

亡くなった両親の分まで大切にされている。
わかってはいるがやはり恥ずかしいかったが、お腹の虫が鳴いた音にさらに恥ずかしくなった。

「待ってて、軽く何か作るから」
もう夜中だし、起きたばかりなら胃に優しいものがいいとキッチンへ。
シンはすでに眠っていたがキッチンの鍋にはポトフが作られていた、近くにはメモが置いてあって。

『ミサキが起きたら、一緒に食べてください』と、コーリンの分まで作っておいてくれたらしい。
温め直すだけですぐに食べられるように、二人が寝ている間にこっそりと作っていた、それをガスの火で温める。


底の深い小皿に入れて、カーディガンを羽織ったミサキと食べる。
その間にカムイがどうなったのかをコーリンが教えてくれた、送り届けた三和から店に電話がかかってきて
とりあえず、元気だけが取り柄だが、親が心配していたのでフォローは入れたのという、さすがは櫂の友人をやっているだけはある。

「カムイまで、アイチの奴・・大丈夫かな」
「そうね、連絡もないし・・明日ナオキに聞いてみるわ。シンゴは最近部に顔を出さないって。関係あるかも」
念のために明日は休めと言われたが、ミサキ自身はもう大丈夫だという。
ポトフを食べ終えて、コーリンが部屋に戻ってくるとラティへのリベンジのためデッキの調整をしていのたのだが。

「ほらっ、もう寝ないとだめよ」
「けど、またあの子が仕掛けてきたら」

「そうしたら今度は私がやるわ。ミサキをこんな目で合わせて・・・倍返ししてやるんだから」

まるでファイトの時のようにコーリンは目を吊り上がらせる。
突然仕掛けて、怪我を負わせるなんて許さないと、こんなに怒りに震えたコーリンは始めてだった。

「ありがとう、コーリン」
「デッキの強化は明日、私が帰ってきてからでもできるでしょ?今日は寝ましょう。シンさんから見張っているように言われているのよ」

コーリンが使っているのか、両親の部屋。
ベットだったため布団は持ってこれずに、これでは風邪を引くとコーリンとミサキは同じベットで眠りにつく。

しかし、さっき起きたばかりで睡魔はやってこない、二人は天井を見ながら睡魔がやってくるのを待っていると
天井を見たまま、コーリンがずっと抱えていたタクトに預けられていた過去のことを口にする。


「私ね、孤児だったんだ」


何となく、気づいていた。
アイドル活動をしていれば、家族からの連絡ぐらいはくるはずなのにそれがまったくない。

タクトは自分達の記憶は預かったと言っていたが、家族は突然行方不明になったコーリン達を心配していると
顔も忘れてしまった家族をずっと気にしていた。

ファンレターを小まめに開けて、昔は連絡がないかと調べていた。
もしかしたらコーリン達は家族に見放されたのかもしれない、いつも最後のファンレターを暗い顔してスイコとレッカと開封していた。





暮らしていた場所もよく覚えていない、ただコーリンを残して家族が全員死んだ感情の感覚は覚えている。

苦しくて、悲しくて、胸に穴を開けられて、涙がなくなるのまで泣いたこと。
同じような親を様々な事情で亡くした子供達は孤児院に預けられた、日本のような法整備がされてなくて不衛生なところ。

こんなところにいたくない。
早く大人になって抜け出したいといつも思っていると、ある時、白衣を着た研究員達が現れて子供を一人一人調べに来ていた。

コーリンと数人の子供達が選ばれ、孤児院から引き取られた。
院長に大金を渡しているのをみて・・・、お金で売られたのだと察し、車に乗せられる。

もっと酷い目に合されると絶望してたが、コーリン達は真新しい建物に美味しい食事、新品の玩具を与えられた。
まるで天国のようだと、無邪気に喜んでコーリンもはしゃぎまわっていた、その中に同じように連れてこられたスイコとレッカがいた。

スイコは感情を失ったかのような、ガラス玉の目をして
レッカは両親の元へ帰りたいとただひたすらに、部屋の隅の方で泣いているばかり。

この生活がずっとこれから続くのか、人並みの生活を送れると安心したのも束の間、あるテストが行われた。
ガラス張りの壁の向こうからタクトがその様子を観察している、子供が集められた理由。


クレイと干渉できる子供を探すため。
そのために突然ヴァンガードのデッキを渡されて、毎日のようにファイトをさせられた。

ヴァンガードは楽しかったけど、目的を教えられるままな続いたが
ある程度の月日が流れると頭に謎の器具を取り付けられてのファイトをさせられた、その中で何人かの子供が外へと連れ出された。

子供達の間で「きっと外に放り出された」「殺されたのかも」という話が一気に広がった。
テストの合格にしなければ、今の生活を失ってしまうコーリンは我武者羅に相手を倒すだめのファイトを繰り返し、最終的に残ったのは三人。

スイコ、レッカ、コーリンだった。


「よくぞ残りました、君達は遠いクレイと干渉できる数少ない子供達です」
支援者のタクトが歓迎するようと手を大きく広げたが、喜ぶことはできなかった。
最初の彼へとの感想としては、外見歳が大して変わらないタクトがとても偉そうで腹が立ったこと。

これで此処にいられる、そう思ったが本当の苦しみは此処からだった。

毎日のようにファイト、測定、検査を繰り返した。
たまには外で遊びたい気持ちを押し殺して、ヴァンガードばかりをするのは好きであっても苦痛であったが

甘えを許してくれる大人は誰もいなくて、白衣を着た大人が金棒を持った鬼にも思えた。

もしも我がままを言えば捨てられる、代えはいくらでもいるのだと考えると怖かった。
あまりの恐怖に眠れなかった日もあったぐらいだ、そんな日々を繰り返している心は次第に崩壊し始め

コーリンは無表情となり、表情は固まっていく。
スイコは驚くほど大人びて、レッカは二面性のある子供へとなった。

研究は問題なく終了、日本に現れるであろうPSYクオリアを持つファイターの元へ行くことになったのだが
人間としての当たり前の表情を失った彼女達と、目覚めるであろう力を持つファイターはおそらく子供。

とても友好的とは思えない彼女達に、警戒されるかもしれない。

「困りましたね、・・・・では記憶を僕が預かりましょう」 
三人を支えていた家族と過ごしたわずかな記憶の欠片ごと、生まれてから今日までの記憶を全てタクトが預かることに。
奪われた後、タクトと初めてあったかのような会話をし、記憶を戻して欲しくば協力しろと脅迫された。

まさか、最初から全てタクトの手の内だったなんて。
彼は本当に彼女達を道具のように扱っていたのだと、話を聞いただけで怒りが込み上げてくる。



「・・・タクトが生きていたら、ぶん殴っていたよ・・こんなひどいことしてっ・・・!」
「・・・・・・そうね。でも今は不思議と恨んでないのよね」

最後、彼は我が身と引き換えにコーリン達を救った。
身体は完全にヴォイドのエージェントに奪われ、共に消えた。

もともとタクトに関して、コーリン達も何も知らなかった。
クレイの象徴であるとされるタクト、クレイ創生に関わったドラゴンなら知っているかもしれない。

「今、アイチやミサキ達が危ない目にあっていて何もできない方が悔しい・・」
あの時は早く普通に戻りたい、家族に会いたいと思ってばかりだったけど
過去の思い出の苦しみを超える、今の温かな思い出で昔のことはそれほど苦しくない。

「自分で考えて、決めるって難しいわね・・」
「・・うん」

ミサキが考えて、この先どうするかの材料が机の上に載せられていた。
経済や会社の運営について、分厚い本がどっさりと置かれている。

それに目を向けて、視線を横に戻すとミサキは眠っていた。
少しだけ掛け布団がずり落ちていたのでコーリンが起こさないように直す。


(もしかして、PSYクオリアとは違う力が関係しているかのしれないけど・・危険だわ)
イメージによる攻撃なんて、まだカワイイものだ。
実際に傷つけるとは、暴力にも等しい。

でも今のコーリンには、何の力もない、クレイのことに詳しい、ちょっと強いファイターだ。
しかし、このまま心配するだけなんて宝石騎士使いのファイターとして失格、アイチ達を守らなければ。


(私ができることを、全力でやるわ。もう誰も傷つけさせてたまるものですか・・・・!!)
これまでの人生は全て、誰かが道筋を決めてコーリンは翻弄され続けた。
自分ではまだ決められない子供だからというのは理由はならない、小さな子供でも決断しなければならない時はある。

仲間達を守るため、できることは全てしよう。
そう強い決意した目で、天井を睨んだ。








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