まだシンから休むように言われているミサキに見送られて、コーリンは久しぶりに宮地へと登校してきた。
安静にしているようにと言い聞かせてはいたが、絶対に今頃ミサキはデッキの強化をしているが負けず嫌いの彼女らしいと笑みを浮かべてしまう。

席につくと、ナオキが教室に入ってきた。
顔には絆創膏をつけて、集まってきたクラスメイト達がいう言うには元気が取り柄のナオキが一日休んだらしい。

普通なら一日ぐらいは休んだりするだが、ナオキの場合は風邪さえも吹き飛ばしてしまいそうで
インフルエンザで半数倒れて学級閉鎖になった時も、彼だけは罹らなかったとかで余計に謎らしい。

「ねぇ、ナオキ。休んだって聞いたけど・・・」
「おっ、おう、コーリン・・久しぶりじゃねーか。風邪だよ、風邪・・ほら、シンゴの奴も暫く休んだって言ってただろう?」

アイドルという仕事をしていると、演技かどうかもわかる。
ナオキの場合は嘘がつけない性格が仇となっていて、嘘をついているのがすぐに悟っていた。

隠していることがあると、問い詰めようとしたが先生が入ってきたためできなかった。










休憩時間と休み時間もコーリンに声をかけに生徒達が集まってきたため、ナオキと二人で話すことはできなかった。

「コーリンさん!!アイドル活動休止って聞いたんですけど、サインもらえませんか?」
色紙を数枚手に男子生徒が、固まってコーリンに近づいてきた。
「今日はっ・・カードキャピタルに行こうぜっ!!先に行っているかなら!!」

「ちょっ・・!!」

結局聞くことができなかった、今日は用事があるのでいけないとさえも。
おそらくナオキは何かを知っている、しかし言えない事情があるのか、コーリンにも話してくれない。

(・・・私もやろうとしていることはまだ言えない、でも・・・無茶はしないで、アイチ・・・皆)
状況が悪化する前にやらなければ、そのためにレオン達と接触をし、決めたことだ。
今はクリス達が声をかけて賛同してくれるファイター達を集めてくれている、自分のできることをしよう、皆のために。

そう祈りつつ、コーリンはある場所へと向かう。



息切れするぐらい全力で走り、ナオキはカードキャピタルへとやってきた。
そこではマイとエミが向かい合ってファイトスペースにいる。

「心配だね、エミちゃん・・・」
「・・・うん」
アイチと連絡が取れないと、エミはマイに相談していた。
シンからようやく店に出ていい許可のもらえたミサキも私服姿で店支給のエプロンを着ている。

(兄貴のこと、心配だよな)
ファイトのことを、本当に純粋に楽しんでいるエミをあんな戦いには巻き込めない。

薄々アイチが大変なことに巻き込まれているのはわかってはいるが、連絡がつかなくて警察に捜索願を出そうとも訴えるが
シズカはもう少し待ってみようと悠長なことを言っている。

ヴァンガード大会で名が知られ、家もそもそも裕福な家の息子なら狙われるかもしれないとエミは不安でいっぱいだ。

「なぁ、アイチと電話した時・・なんか思い出したことねぇか?」
「・・そうですね・・」

ナオキに言われて少し、エミが指を顎に当てて考え始める。後ろの自動ドアが開くと、眉間に深く皺を寄せた櫂が現れた。
顔を見ただけで、店内でファイトしていた常連客達は震えていた、アイチからまったく連絡がこずに苛立っており
最近は井崎達も部に顔を出さずに、今日は三和に八つ当たりのファイトをしてきた、今頃は学校でスィーツでも食べて糖分補給しているだろう。

(俺から連絡すればいいだろうだと、ふざけるな・・)
アイチからいなくなっただから、アイチが連絡するのが礼儀だ。

そもそも櫂がアイチに関して、皆と同じ情報しかないのが気に入らない。
レンとレオンが何か知っていることも腹が立つが、クランが知らぬ間に入れ替えられた時はアイチは最初に櫂に相談してきたというのに。

櫂から連絡することは、プライドが許さなかった。

「ちーっす!!」
「カムイ??」

自動ドアが開くと、そこには昨日怪我を負ったカムイが元気いっぱいに店内へ入っている。

三和達からも今日は休めと言われていたが今月は皆勤賞をもらう予定で休むわけにはいかないし
次は負けないとミサキにパックを数個欲しいと言ってきた。

「アタシも、次は負けないからさ」
「はい、リベンジしてやりましょうよ!」

レジの奥からパックを取り出していると「あっ!」とエミが声を出した。
思い出したことがあるのだと、店内にいた櫂達が近づいてくる。

「そういえば、最初に電話かかってきた時・・アイチの後ろで誰かがしゃべっていたような。

・・・えーと、聞いたことがある声だったような」

それも最近だった、でも相手が思い出せない。
マイとカムイに「頑張って!!」と励まされる、テーブルの上に置いてあった髪の青いユニットを見て、靄が晴れていく。


「確か、最近このカードキャピタルに来た男の人でーーーーー・・・・・」








ガイヤールは一人、住宅街を歩き・・家路へと急いでいた。
月の宮にはアイチがいる、残るターゲットももうほとんどいないし、後江を退学してもよかったが仕方のない形で通っているような状態だった。

夕暮れとなり、空は赤く染まっている。
しかし、赤い色の炎はガイヤールは嫌いだ、アイチは夕暮れになるといつも寂しそうに見ているから。

それが誰なのか想像がつくだけに腹が立つ。
振り向けばガイヤールがいるというのに、アイチが望めばずっと傍にいると誓える者がいるのに。

ふと、突然ガイヤールが歩みを止めて顔だけ振り返る。

「・・・・・僕は用事があるんだ、手短にしてほしいのですが、櫂トシキ先輩」
道を塞ぐようにして現れたのは櫂。
リンクジョーカーの事件後、柔らかい表情を浮かべることが多くなっていたが、今の彼は鋭く瞳を尖らせている。

「聞きたいことがある」
「何も答えることなどありません、・・・・失礼します」
同じ部員で、高校の先輩ではあるが表面礼儀正しく接してはいるが、ずっと引っかっていたが
この男は最初から、櫂達を先輩にも、同じクラスの井崎や森川も友人とも思ってもいない。

櫂の横を通過しようとすると、逃げ道を塞ぐようにしてナオキ、ミサキ、カムイが現れる。
いつでもファイトできるようにその手にはデッキが握られている、完全に退路を塞がれたにもかかわらずガイヤールは余裕の表れか溜息を吐く。

「てめぇっ!!何を溜息吐いてやがる!!」
癇に障ったのか、ナオキが怒鳴る。

「日本人というのに、個人の力が敵わなければ、集団で襲ってくるのか?
それとも弱いから固まっていることしかできないというわけか?」

嘲笑うように、ガイヤールは高らかに言い放つ。
全員がその言葉に半ギレをし、ミサキなど客が裸足で逃げ出すほどの恐ろしい顔をしていた。

「言ってくれるじゃないっ・・・!!」
「お前は、何者だ」
ここまで弱いファイターと言われては、櫂だって黙ってはいない。
赤いデッキケースを取り出すと、ガイヤールの周りに目の錯覚か青い炎が生まれ始める。

「なんだ・・・イメージか・・?」
瞬きをしても消えない青い炎、ナオキだけではなくミサキ達にもその炎は見えていた。
ガイヤールは手を軽く振ると、炎を生み出すしていく。

両手の中指に炎が集まると、青い指輪を形作ると。

「永久に揺らめく、聖なる青き炎よ。全てを焼きつくし、燃えさかれ!ホーリー・プロミネンス・プリズン!!」
勢いよく指輪の宝石をぶつけると、大きく両手を広げると青い大きな炎が辺り一帯を包み込む。
櫂以外が体験した、プリズンと呼ばれる空間だ。

「これが・・・プリズン!」
初めて見る櫂は、全面青い炎で覆われた空間を見ている。
さらに制服姿だったガイヤールの姿も、白に赤と黒のラインの入った騎士のような服へ青い炎の力で変化していき

ゴールドパラディンに使うにはふさわしい、騎士の服装となった。

「これって・・あのネーヴの時と同じ・・!」
ミサキとカムイはプリズンを見たことがあったがナオキは初めてのはずだが
彼はそれほど驚きもしなければ、使ったことのある人間の名を口にすると前にいたミサキとカムイが振り向いてきた。

「石田、アンタやっぱり何か知っていたんだね・・・!!」
ネーヴのことには、ミサキも知っていた。
外国からやってきたヨーロッパサーキット優勝経験者として、気にはなっていたが突然国の事情で帰国したと聞いていたが

ナオキが全て白状すると、シンゴと自分もやられたがアイチが仇を取って返り討ちにしたと。
その時辺りから連絡が取れなくなったと、当然ながらどうして早く言わなかったとミサキに詰め寄られ、責められるが。

「アイチがどうしてもいうなって・・・巻き込みたくないから・・俺も気持ちがわかるからっ・・ごめんっ・・・・」
自分なりにシンゴにも声をかけて、マキにも手伝ってもらったりしていたが無駄だった。
落ち込むナオキは置いといて、話を続けることにする。

「僕はカトルナイツが一人、オリビエ・ガイヤールだ」
青い炎をちらつかせながら彼は改めて名乗った。

「カトルナイツ・・・お前を入れて、俺が戦ったネーヴとかいうおっさんと、ミサキさんと戦ったラティ・カーティにガイヤール・・・あれ、もう一人いないぞ?」
名前からして、あと一人いるはずだ。
カムイは何度も数え直してもやっぱり3人だけだと、ガイヤールは口元に笑みを浮かべる。

「あとの一人は今頃、三和タイシの始末に向かっている」
「「「「!!」」」」
校内なら、人の目もあるし大丈夫という三和の言葉を丸のみにして一人にしてしまった。
しかしガイヤールの口ぶりからして、名も知らない一人は三和の元へ向かっているだろう。


その頃の三和は体育館で近くのコンビニで買ったカップケーキを食べ終えて、そろそろカードキャピタルに行こうかと腰を上げたが
突然、体育館の電源が落とされた、教師に電気を切っておけと言われたが誰かが間違ったのかと昼間とはいえ、薄暗い体育館に
電気をつけようと電源のある場所まで行こうとすると、体育館の扉が突然開いた。

「誰だ?」
にやりと、背の高い男・・・カトルナイツが一人、セラは不気味に笑うと冷たい冷気が何処からか入り込んで、三和を寒さに震え

カランッとカップケーキの容器が、床に落ちる音がやけにリアルに響く。




「くそっ!!三和・・・っ!!」
急いで、櫂は三和のところへ行こうとするがプリズンのせいで身動きが取れない。
男気でカムイは強引に突破しようとするが、炎が熱く、力任せに突破難しいと、まるで本物の炎だと後ろへ下がる。

「あちっ!!どうなっているんだよ!!」
「無駄なことは止めるんだな、お前達も一度は体験しただろう?このプリズンはファイトで勝たなければ解けないと

そして・・負けた者にはダメージを引き受けるというジャッジメントを受けると」

ガイヤールが手をかざすと現れたのは、青い炎に輝くファイトテーブル。
この中の一人が勝てば、抜け出すことができるが負ければ全ダメージが自分の身に降りかかってくる。

「お前達の目的はなんだ?」
迂闊にファイトはできないと、櫂は探るようにガイヤールに問いかけた。

「櫂トシキへの制裁・・天誅をくだすために集められたカトルナイツのリーダーにして
あらゆる害悪から、先導アイチさんを守る騎士だ」

「ナッ・・騎士〈ナイト〉??」
本気で言っているのかと、顎が外れるほどに口を大きく開けているカムイ。
服装からして騎士だがガイアールは自慢げに見せつけるかのように、己を騎士だと名乗る。

三人は気づいてはいないが、櫂を挑発するために言い放ったのだ。
ガイヤールが騎士なら、アイチは守られるお姫様、もしくわ王のように王座に座り、ガイヤールが忠誠を誓うように隣に座っている。

(アイチの・・・騎士だとっ・・・ふざけるな!)
櫂とは違うと、鼻で笑われた櫂は誰もファイトテーブルにつかなかったが自身のデッキを取り出して構える。
フッ・・とガイヤールは相変わらず余裕だ、リンクジョーカーの侵攻に最後まで耐え抜いた世界屈指のファイター。

実力は認める、しかし突然現れてアイチを奪うなんて認められない。

「ちょっと、櫂・・・!!敵の思う壺だよ!!」
「そうだ!止せ!!」

カムイもミサキも同じ手に乗ってしまって負けてしまった。
同じ鉄を櫂には踏んでほしくないが、ガイヤールにあそこまで言われて黙ってもいられないしと誰かが奴とファイトして勝たなければプリズンは解除されない。

「お前達では無理だ、俺がやる」
世界レベルの実力を持つ櫂なら、ガイヤールを倒せる。
ミサキやカムイもチームQ4としてアジアサーキットで優勝という成績もあるのに、ガイヤールのレベルには届いていない。

弱いと昔のように言われたようで、さすがに良い気分ではない。

「んだとっ・・・!!」
「よせって・・・」
噛みつく勢いでカムイが櫂に飛びかかろうとする、ナオキが止めた。
悔しいがナオキはこの中でガイヤールと戦えるのは、櫂だけだ。

「お前を倒し、アイチの居場所を聞き出してやる!「「スタンドアップ・「ル」ザ・ヴァンガード!!」
不思議の青い炎によってカードが焼かれることはない。
この力は一体何なのか?クオリアに関係しているものなのだろうか?

櫂のファーストヴァンガードは、可愛らしい赤い鱗を持った小型のドラゴン、煉獄竜 ペタルフレア・ドラコキッド。
ガイヤールは予想通り、ゴールドパラディンの青き毛並みの小さな忠犬、ころながる・解放者だ。

「・・・・ゴールドパラディンか」
「ああ、アイチさんが以前使っていたクランさ、この輝くの騎士の名を持つクランの前にお前は己の罪の重さに潰されるがいい!!」

グレード2までライドし、ガイヤールは櫂にダメージを与える。
しかし、両者ともにダメージは拮抗しており、試合の流れは平行線のまま、続いていた。

カムイは手に汗握りつつ、観戦していたがあることを思い出した。

(でも櫂の奴、デッキがまだ完成していないんじゃ・・・)
だが、そのデッキで最近八つ当たりのようにファイトをしている。
そもそもデッキの完成という終点はない、常に構築を繰り返していくものだ。

ナオキから聞けば、不完全のデッキでアイチはネーヴを撃破した。
あの櫂があんないけ好かない奴に負けるものかと、悔しいが櫂の心の中で応援をする。


「ライド・ザ・ヴァンガード!!チェーンブラスト・ドラゴンにライド!!」
まだ櫂はレギオンを使ってこない、しかしレギオンがなくともリミットブレイクやスキルを巧みに使って攻撃をし
ガイヤールの手札はかなり減って、リアガードの守りも万全ではなくなった。

しかしガイヤールは余裕の笑みを崩さない、まだ彼は本気ではないのだと感じる。

「確かに・・・ヨーロッパサーキットに出れば上位には食い込めるだろう。しかし・・・今の僕の敵ではない」
「何だと・・・?」
まるで勝利の女神でもついているかのような言いぐさ、ガイヤールの言葉にアイチが傍にいることと関係しているのでは?
いなくなる前、やたらガイヤールがアイチに近づいていて気にはなっていたがもしや囚われているのではないか?

「そもそも櫂トシキ、お前はアイチさんの何だ?」
「・・・・・それは」
調べた結果、昔ヴァンガードのカードを一枚くれた間柄。
以前はチームQ4に一員だったが、高校も別となり時々ファイトしている関係だとも聞いている。

クランを変えて、最近一緒にいるようになったが特別親しそうにはしていない。
ただ一方的にアイチが櫂に好意を寄せていると思い出すだけで、心の底から怒りが込み上げてきそうだ。

「友達だろう!!俺達も、櫂もだ!!」
恥ずかしくて口に言えなかった櫂の代わりに、ナオキが代弁してくれた。
それを聞いたガイヤールは口元が弧を描くように変わると「何がおかしい!!」とナオキが怒る。

「友情?親友?そんな関係、僕とアイチさんの絆の足元にも及ばない。
あの方は人々を導く、先導者と名乗るに相応しいお方・・」

山札から一枚引くと、やはり天は己に味方していると確信した。




「見せてやろう、君と僕・・アイチさんとの絆の深さの差を



立ち上がれ!!僕の分身・・・・--!!」


一枚のカードを高く上げる、このポーズ。
アイチと親しければ誰にだってわかる、アイチが・・・ブラスター・ブレードにライドする時の。


「青き炎の解放者 パーシヴァルに・・・ライド!!」
ヴァンガードサークルに長髪で、体格の良い騎士が現れる。
髪も鎧も青い色をしている、これが櫂との差、出会って間もないがまるで運命のように惹かれた者の絆・・・

櫂とは違う、櫂以上のものだと見せつけるようにガイヤールは自慢げに笑った。
それに櫂は下唇を噛んで、ガイヤールの分身、パーシヴァルを睨む。








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