三和に勝利したセラは笑みを浮かべて、モレスを後ろに従わせて歩いていた。
櫂に最も近しい友人の一人を圧倒的な実力で、心を凍てつく氷で固まらせて砕き・・・暫くジャッジメントの苦しみから逃れることはできないだろう。

歩いていると反対側からネーヴが歩いて来る。

「勝ったのか?」
「当然ですよ・・それよりも浮かない顔してどうかされたのですか?小茂井シンゴ、石田ナオキ、葛木カムイにも勝ったというのに」
ああ・・先導アイチに敗北しましたけどと挑発するように付け加えるが「ああ・・・」というだけで反応はない。
好戦的なネーヴにしてはおかしい、思い出すとアイチとファイトしてからネーヴは少しずつおかしくなってきている。

カトルナイツは対リバースファイターのため、地球をヴォイドの侵略から守るために作られた組織。
その手始めとして、世界を己の欲で滅ぼしかけた櫂トシキに制裁を下すのが目的。

「・・・」
セラは胸のブローチを指で遊びながら、目を細める。







ミサキとカムイは以前、交流試合をしており顔を覚えられているが幸いして他校だが学校に入ることが許可された。
急いで体育館に行くと壁に寄りかかるように三和が気を失っている。

「「三和!!」」
駆け寄る凍傷のような傷を負っているし、肌も真冬に薄着で放り出されたように冷たい。
何度か呼びかけると三和が意識を取り戻し、突然襲われたと話す。

「警戒・・・してたんだけど、わりぃ・・・」
「まさか校内で襲われるなんて、とにかく保健室へ行こう!!」

二人に支えられて、保健室へ。
すぐに手当てしなければと、放課後の誰もいない廊下を歩いていく。

枯れた声で三和の案内で保健室へと着くが、鍵がかかっているため開かない。
他校制服着ている二人がカギを取りに行って、三和の怪我の理由をどう教師に相談するか?

「だーーーーっ!!どうすればいいんだ!!」
頭を使うのが苦手なカムイは両手で頭を掻きむしる。
ミサキも咄嗟のことでいい案が浮かばないでいると、聞き覚えのある声に話しかけられた。

「Yes!!鍵なら此処に」
「マーク・・先生!」
ジャージ服の色眼鏡、後江高校カードファイト部の顧問の外国人・マークだ。
急いで鍵を開けると三和とベットに横になるほどではないと椅子の上でいいと、ミサキの治療を丸椅子の上に乗って受けることに。

「いってーー・・しみるーーーー!!」
「男なら我慢しな」

消毒液のついた脱脂綿を手に、ミサキは三和の治療をする。
カムイはというと、包帯を用意したりマークとアシスタントをし一通り治療は終えた。

「三和までやられるなんて・・・蚊取りナイツの奴ら!!正気かよ!」
「カトルナイツね。それにガイヤール、あいつもカトルナイツの一人だったなんて・・」

それを知らなかった三和は「あいつも敵だったのか!!」と驚いた声を上げたが、マークは目を細めるだけ。
マークはガイヤールはカトルナイツの一人だったことを知っていたようだ。

「先生、まさかガイヤールの正体を・・・」
「・・・・井崎君と森川君・・・二人はガイヤール君の彼の言うジャッジメントを数週間前に受けたらしいのです」



ファイト後・・体育館で二人、話していると突然襲われたと井崎が教えてくれた。
井崎もたちかぜのレギオン、古代竜マグマアーマーと古代竜ナイトアーマーを使い応戦したという。

「くそっ・・・櫂の奴は確かにとんでもないした!!でも俺はあいつに恩があるんだ!!」
実は後江中学に入ってから、井崎はずっとアイチと同じクラスだった。
いつも一人で本を読んでいる大人しくて一人のアイチ、話かけようとしたがクラスメイトの一人に止められる。

「やめといた方がいいぜ、あいつの親・・何度も学校に呼び出されてたしさー」
「そうなのか?」
小学校は別だったらしいが、きっと何かとんでもないことをやらかした。
しかし実際はいじめから逃げるための転校だったと井崎は後からなんとなくわかった、転校先でも一人のアイチに
シズカは教師に何度も呼び出されて、家庭内でどうにかしてほしいと一方的に押し付けられていたのだ。

(もっと早く声をかけていればよかったのに・・・俺は・・・)
関わらない方がいいと、森川がカードを奪うまで名前も顔も知っていたのに気付きもしなかった。
それに、カードを奪ったこと・・学校にも親にも言わないでくれた、あの頃とは違ってあんなことしていたら親も呼び出されて
きっと井崎も森川も後江中学、街そのものにいられなくなっていたことだってありえたのに。

『どうして・・・誰にもいわねぇんだよ』
暴力を振るって大切なカードを奪ったのにと、今更ながら森川も罪悪感があるのかアイチから目を背けて言った。

『だって君達のおかげで、櫂君とまた会えたんだ、ありがとう』
この時、井崎はわかった。
ああ・・・だからアイチはいじめられたのかもしれない、頬を染めてあんな冷淡な男とまた会えたことを。

(そうだ。俺はずっとアイチには勝てないってわかっていたのに・・・でも俺はお前に追い付きたくて・・同じものが見たくなった・・・!!)

だから、井崎は世界トップクラスとなったアイチとファイトしたいと、身の程知らずだとわかっていながらアイチと戦いと言い出した。
VF甲子園でアイチと一番戦いたかったは櫂だったのに、井崎に修行までつけて譲ってくれた。
以前の自己中心的で周りに迷惑かけていた櫂には考えられない、・・・それに事件だって櫂とアイチがあの時ファイトしていれば起こらなかったのかもしれない。

確かに櫂を止めなかったのは、責任はあるのはわかる。
でも、大好きなヴァンガードをこんな人を傷つけることに使うのは間違っている。

先にガイヤールと戦い、敗れた森川を見下すように笑っているガイヤールに正義なんてない。
確かにファイトは負けっぱなしのG3馬鹿だが、誰よりもヴァンガードが好きなのを知っている井崎はガイヤールには負けたくなかった。


「大地に降り立ち、灼熱の炎すらも届かぬ熱き鎧の強さを見ろ!!レギオンアタック!!」


ガイヤールはあっさりと井崎の渾身のアタックをガードしてしまう。
そしてガイヤールは次のターンでレギオンを発動され、井崎にも制裁を下したという。

しかし井崎は櫂に言えない、だが止めなけれどマークに相談。
こっそりとガイヤールを呼び出し問い詰めると、今後江を去るわけにいかけない、あの人に会えなくなるとプリズンでマークを牢獄へ押し入れる。

ぬばたまのレギオン、修羅忍竜 マントラコンゴウと修羅忍竜 ダラニコンゴウを背後に並び立たせる。
まさか教え子と戦うためになろうとは、アイチの時のような気持ちにはなれず、彼の心は複雑だが
間違った道に進もうとしているのを止めるのも教師の務め、しかし・・・止めようとしたマークもまた敗れる。




「三和部長がこんなことになって、申しわけない」
マークは頭を下げて、謝ってきた。
自分がもっと強ければ、ガイヤールを止めることができたのに・・・悔やむばかりだ。

「いいんですよ、俺だってあいつなんかおかしいなってわかっていたのに気付けなかった」
エミが思い出してくれなかったら、あいつは何食わぬ顔でカードキャピタルを出入りしていた。
敵がすぐ近くにいるのに対策なんて考えていたら、情報は全て筒抜けだった、だがガイヤールを今後どうするか?

シンになら事情を話せば、出入り禁止にはできるが部活も理由もなく退部にさせるわけにもいかない。
しかし、マークは先ほどガイヤールはフランスに急遽戻らなければならなくなったので、その心配はないと言う。

「退学?正体がバレたから姿を消したというの?」
ここまでアイチ達やミサキ、本命の櫂も襲われている。
最近カードキャピタルに姿を見せなくなったエイジ達もやられたのかと、一緒に帰るべきだったと悔やむカムイ。

「アイチだけが、奴らに勝った。でも奴らのところになんでいるんだ・・・おかしいだろ?」
あの内気で櫂の後ろを歩いていたアイチが、敵のど真ん中にいる理由がまったく予想もつかない。
もしかしたら、脅されているのかもしれない・・・、連絡が取れなくなったのことを考えると早く助けないとアイチの身が危険だ。


それを、保健室の扉に隠れるように森川は聞いていた。
アイチの危機、今でもガイヤールのジャッジメントを思い出すと手が震えてしまうが、その手を空いている方の手で強く握る。

「・・・・・コーリンちゃん・・俺に力をくれっ・・・・!!」
固く目を閉じて、大好きな彼女の姿を思い浮かべていた。





仲間達が、そんなことを知っているのかアイチはずっと浮かない顔していた。
励まそうとラティはドーナツを買ってきた、いつも食べているのとは違う厳選された材料を使っている高値のドーナツを。

「アイチ君、元気出して!今日は奮発して買ってきたの、アイチ君がどれでも好きなの食べていいよ!」
「ありがとう、ラティ」
笑顔でラティはドーナツを皿に盛りつけてアイチにどれにすると見せる。
今は食欲があまり沸かないがラティには敵わず、少しだけ笑いドーナツを選ぼうとしていると。

「アイチさん、午後の紅茶を淹れてきました」
両手には銀のトレイに乗せたティーポットとティーカップが。
穏やかに笑っていたが、ラティに先を越されたらしくラティを見た途端に表情が固まる。

「ガイヤール・・・」
「・・・・ラティ」
ラティもまたアイチとの時間を一番邪魔するガイヤールに、あまり良い顔をしていない。
ガイヤールは頭が固く、ラティはクレイ以外は全て幻想、ミラージュだと現実を見ない性格に理解ができず
二人とも、さりげなく互いに合わないように時間をずらしていたが、アイチが元気ないのを見て
ラティがおやつの時間は、いつも黙認のガイヤールの時間指定だったがそれを無視して来てしまったために、鉢合わせてしまったのだ。

「「・・・・・・」」
二人に会話はない、気分屋と生真面目者同士では相性最悪だった。
その沈黙を破ったのはアイチ。

「ガイヤール君も一緒にどう?彼の分もドーナツもあるのよ?」
「うっ・・・うん、でも・・アイチ君・・」

私(僕)は二人っきりがいい。

しかしアイチには、何となく逆らうことができない。
ラティはアイチに懐き、ガイヤールは主君のように忠誠を誓った身。

だが、二人の声無き主張を丸めてアイチはガイヤールの淹れる紅茶、美味しいとラティの選んだドーナツはとても美味しいと褒めると
さっきまでの一触触発の空気は消えて、二人の顔は笑顔へと変化する。

「では、ラティの分のカップを用意してきます」
「私はもう一枚、お皿持ってくるね」

二人とも月の宮から一時離れていく。
その背中を見送ると、アイチは真昼の月を見上げた。




「決断の時は・・・・迫っている・・・・」

この場所を去らなければいけない時間が迫っていた。
白い丸テーブルの上には、アイチのデッキが置かれていた・・それの中からブラスター・ブレードを取り出す。


「僕の、この決断が正しいとは思わないでも・・・どうか力を貸して」
すると答えるように、ブラスター・ブレードは光輝いた。
皆が動いてくれている、仲間達が傷ついているのにいつまでもじっとしているのも、もう限界。




アイチは間もなく、立ち上がろうとしていた。















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