「「「はぁ・・・・」」」
「皆さん・・・・元気がないですね」
にゃあとレジにいる店長代理が一声可愛く鳴いた。
壁の前で乗り越えられずにいるのはミサキ、三和、カムイ。

櫂も学校には来ているか、部にもショップにも顔を出さずに何処で何をしているかわからない。
いつもの櫂センサーの三和も向かい合って笑顔で話せる自信がなく、センサー作動せず。

習慣で店には来ているものの、ファイトはせずに椅子に座って溜息ばかり。



(アイチ・・・どうして相談もしてくれなかったんだろう・・・・・)
ミサキはぼんやりとカードを見ながら考えていた、ラティの言葉がこんなことに頭に浮かんでくる。
『変わらないものなんて何もない』と、アイチもミサキといつまでも友人ではいたくなかったとよくよく考えるとミサキは
いつもアイチにお願いをされて、仲間に加わっているようだと思い返す。

(アジアサーキットだって、部だって何度もアイチに頭を下げさせて・・・なんかアタシ、偉そうにしてない?)

これは本当に仲間と言えるのだろうか?

遡ると全国大会直前でも突然、チームを離脱して、でも気が付いたら戻っていてアイチ達に詳しい説明も謝罪もしていない。
とんでもなく面倒な性格で、自ら輪に入ろうともしない積極性の無さ。
さらには上から目線で、こんなんだからアイチも離れていった、強くてカワイイ女の子のラティの方がよかったのではと
スカートにスリット入れて、学園では女番長と恐れられているミサキよりも親しみは沸くのでは?



(俺はアイチお兄さんに助けられてばかりで・・・・情けねぇ・・・・!!)
あのネーヴとかいうおっさんに負けるし、いつの間にか追い越されて、成長がまったく見えないダメダメな俺様と机に潰れているカムイ。
まったく手ごたえがないと言われても反論できなかった、事実ネーヴのスキルに手も足も出せなかった。

(誰よりもアイチお兄さんと一緒にいる時間が多かったのに・・何考えているんのかわかんねぇ・・ーー・・・・!!)
アイチが何を考えて戻ってこないのか、ガイヤールの言う通りアイチはカムイ達のところに戻りたくないというのか。
井崎からアイチはカムイと出会う、ちょっと前まで友達がいなかったと聞いた。
いつだって誰かが隣にいて、エイジ・レイジに慕われているカムイには理解のできない孤独。

アイチは見知らぬところでカムイすらも言えない悩みを抱えて
それはカトルナイツ達なら理解できて、カムイには理解することができない・・だから戻ってこないのではと苦しそうに顔を歪ませ

アイチの考えていることがまったくわからない、自分の頭の悪さに腹立ちも感じていた。



(なんかーー・・・・、俺って櫂の後ろについて回っていただけだったような気がするし・・)
いつも明るい雰囲気で人を寄せ付けている三和も、さすがにどんよりと暗い顔をしている。
セラとのファイトの中、あいつは言った『それは君の願望にすぎない、アイチ様と櫂トシキが友であることは』が、関係しているのだろう。

大体、リンクジョーカー事件の時も結局アイチに決着を押し付けて。
一番付き合いの長くて傍にいた三和が、櫂を助けなければならないというのに。

さらに、櫂と関わりがあったという理由でセラはジュンの裏ファイト場にも現れ、全員を叩きつぶして行ったという。
ジュンは「気にするな」と傷を負った顔で励ましてくれたが、こんなことになったのにファイターとしての力が及ばずに何もできないなんて。

頼みの綱の櫂もガイヤールとアイチの絆を見せつけられて、完全敗北し、落ち込んでいる。
今の三和も自分のことで精いっぱいで気にかけてやれる余裕はない。

櫂に対しても、三和がフォローしなければいけないという変な使命感を抱いていたが
それは櫂のためじゃなくて、友人を必要としていない櫂の傍にフォローとして役に立つ人・・必要とされるためだったのではないか?

その結果、櫂は人を傷つけても人並みに相手のことを考えなくなった上に
自身で立ち直る力を、三和が知らぬ間に奪ってしまった、だとしたら三和こそ友人でもなんでもないと酷く己を責めている。



「「「はぁ・・・・」」」
「えーと・・・皆さん。元気出してください・・・!!そうだ、今度ショップ大会を開きましょう!!
楽しくヴァンガードファイッ・・・・トォ」

わざとらしく明るく声を出してみたが三人の空気は変わらず、重い。
大人の自分が介入するべきかとも考えたが、今彼らは大きな試練を迎えている、手を貸すのは簡単だが人間、誰もがぶつかける壁だ。

それを乗り越えてこそ、成長し・・・大人になっていく。
やはり実親のようにはなれないのだと、天国にいる兄に申し訳ないと空を見上げるしかない。

(何だか、僕まで元気がなくなってきました・・・・・・)





いつもなら学校が終わればショップか部室に一直線のナオキだが、今日は授業が終わったというのに机の上でぼんやりと手の上に顎を乗せて考えていた。

(俺、アイチに何も返せていない・・・・熱くなれるヴァンガードを教えてもらったのに!)
リンクジョーカー事件で、櫂が自分のせいでリバースしたとショックを受けていたアイチ。

レオンに代わりに行くと断られたが、せめてコーリンとカムイをリバースから解放しようと宮地に行ったが
すでに二人の姿はなく、ただの無駄足だった。

(ダメダメな俺・・・・アイチの友達なのに)
ネーヴの時も、アイチは不完全なデッキで戦わせて守られて。
体格も腕力もナオキの方が上なのに、アイチはいつだってそれらを超えた先に立って・・・追いつけない。
嫌な記憶として封印してあった初等部の頃のことまで、思い出して、それが関係しているのかさえも頭に浮かんできた。

「はぁ・・・・」
それを帰ったと見せかけてシンゴがこっそりと、ドアを少しだけ開けて様子を見ている。

(・・・石田、先導君も最近休みだと聞きましたけどネーヴ先生にやられたのでは?)
ジャッジメントのことをもっと早くいうべきだったと後悔するシンゴ。
しかし、身体よりも心の負った傷の方が深く癒えるのに時間がかかり、アイチとナオキを傷つけてしまったとあの時よりも心が痛くなる。

まだヴァンガードファイトをする気にはなれない、でも・・・・あんな風に暗いナオキをもう見たくない。
中学時代からいつも一人で、つまらなそうにしていたナオキに戻したくないと勢いよくドアを開けるとナオキが驚いてこちらに顔を向けた。

「石田!!部活動の時間なのです、副部長ともあろうものがこんなところで何をしているのですか!!」
「刈り上げメガネ・・でも、今はそういう気分じゃ」

「気分などファイトをしていれば、勝手に治るのです!!」

ぐいぐいと手を引っ張っていく、意外にもシンゴには腕力があったらしい。
廊下を進んでいると校門の前で女子達が固まって、とある方向を見ている。

「・・・あれ?・・・櫂じゃねーのか?」
「本当なのです、櫂トシキ様?」

すぐに二人は下へと降りていくと、警護員に一言告げて櫂を中へ入れる許可をもらう。
中庭で三人、ベンチに座って話をすることに、アイチが学校に来てはいないか宮地にわざわざ来てくれたらしい。

「小茂井も石田も傷はもういいかの?」
「ああ・・・!!問題ねぇ」
「櫂トシキ様に名前を呼ばれたのです・・・感激で気絶しそうなのですっ・・・・・!!」
絶対に名前を憶えてはいないと思っていたのに、櫂はシンゴのことを知っていた。
顔を赤く染めて、倒れそうになるシンゴにしっかりしろとナオキが身体を支えつつ、一喝する。

「そうか。アイチは学校にも来てないのか」
「家にも戻ってないって、言っていたらしいぜ」
エミもそのことで随分と心配をしている、やはり警察に届けるべきではとも考えている。
ガイヤールやネーヴや危険な感じのする奴らと、アイチは一緒にいてはいけない、ナオキは悪い予感がしてならない。

「先導君、何処にいるのでしょう・・・」
心当たりもない、ただレンとレオンは知っている。
あの二人はアイチに借りもあるのか口を割ろうとしない、もう一度会うことも考えたが今の櫂にはそれほどの勢いはない。

信じていたアイチとの友情が、ただのイメージだったことがガイヤールのジャッジメント以上に心を傷つけている。
アイチに会いに行っても、拒まれればそれで終わる・・・櫂はどうアイチと向かい合えばいいかわからない。

考えれば、思い返せばアイチと親友どころか友人らしいことを何もしていない。
メルアドの交換も、一緒に出掛けることもなく、カードショップでたまに会うだけの仲。

悩みを相談されても力も貸さない、挙句の果てには戦う必要がないと払いのけて。

(俺は馬鹿か!!カード一枚、昔にあげた恩をずっとアイチが感謝しているとでも!)
挙句の果てに、命まで脅かして・・謝っても許してくれようなレベルではない。
しかし言葉の足りない自分が、どうすればアイチの想いを届けられか方法の手がかりもない。

暗い雰囲気のナオキと櫂、シンゴはどうにかしようと考えていると女性この声がした。




「貴方、もしかして櫂トシキ君?」
長い青い髪の大人の女性が話しかけてきた。
ナオキは彼女を知っている。


「・・・アイチのお母さん?」
学園祭の時に一度、舞台裏に挨拶に来たことがあってその時にアイチから紹介された、とても良く似ているアイチの母・シズカだ。
軽く三人は頭を下げると、ナオキは立ち上がってシズカのために場所を空けるとありがとうと礼を言ってシズカは腰を下ろす。

「どうして学校に?」
シンゴがアイチのことで、何かあったのかと心配そうに聞いてくる。
シズカは言うか少し迷ったが、アイチの大切な彼らにも聞く権利はあると教えてくれた。

「・・・・アイチは今、家にもいなくて連絡もつかないの、一度エミのところに連絡がきたけど詳しいことは・・・。
それに今日学校に呼び出されて・・・


突然、退学届が出されたと言っていたの」


「たっ・・・退学届!」
つまりは宮地を離れると、これがSITへの飛び級とかならまだわかるが理由もわからず退学など真面目なアイチには考えられない。
校長に届けを確認しに行くと、実は強い権力持つ何者かの仕業で、親の証明を通さずしての届だったらしく
我々の手には負えないとシズカは学校に呼び出された、強い権力を持っているのが誰なのか、アイチが頼んで彼を通して退学したのかわからない。

全てが、わからないのだ。

「おばさんダメね・・・母親なのに息子が考えていることわからないなんて・・・」
「・・・・・・」
涙ぐむシズカに櫂達は慰めの言葉も出ない。
アイチと似ているからか、アイチが泣いているように見えてしまう。

「でも、櫂君やナオキ君、シンゴ君のことはいつも聞いているわ。
大切なお友達だと・・アイチがそう言っていたのなら・・・どうか私の代わりにアイチの悩みを聞いてあげてくれないかしら?」

お願いと深く、シズカは頭を下げた。
親であっても相談できない悩み、理解もできない苦しみがある・・親に全てを話す子供なんていない。
でも友人になら、打ち明かしてくれると親にはできないことも彼らにはできることがある。

願いを託してシズカは、帰っていく。
タクシーに乗る彼女は最後までアイチのために頭を下げていった。


校門前まで見送り・・完全にタクシーが見えなくなった後も、三人は固まったままだ。

苦しそうな顔をしているシンゴ、俯いているナオキ・・櫂もまた道に迷っている。
結局ナオキはアイチの助けになれなかったのだ、それにアイチのような力もないナオキでは吹っ切れないでいると。


「おやおや、お揃いで」
「「「!」」」
現れたのは銀髪のカフカをした、どこぞの執事のような姿をした男。
シンゴはさっきまで人が行きかっていたのに車も人も通っていない違和感に、この男の仕業かと怯える。

「私はカトルナイツの一人にお仕えております、モレス・ペニーワースと申します」
「狙いは俺達か!!」
カバンからデッキを取り出すナオキ、シンゴは援軍を呼ぼうと携帯で電話を掛けようとするが街中にも関わらず圏外と表示される。
携帯が壊れたわけではない、この男の力だ、外からの援護は期待はできない、彼らだけで戦うしかない。

「ガイヤールにやられ、ふぬけた櫂トシキにトドメを差して来いと言うのが主の命令。邪魔するというのなら・・」
「上等だぜ!!お前を簀巻きにして、アイチの居場所を聞き出してやるぜ!!」
俺がやると、前に出るナオキ。
シンゴはナオキのカバンを受け取り不安そうな顔をしている、櫂も今は戦えるような精神状態ではない。

「石田・・・」
負ければどうなるか知っているシンゴは、心配そうな声で名前を呼んだ。

「絶対に負けねえ!!櫂、お前が傷つけばアイチが絶対に悲しむからだ!!」
アイチの代わりになれるかわからないが、櫂を守る。
指を鳴らすと、目の前にリンクジョーカーと戦った時のような赤い透明のプレイマットが現れる。

(あの力は・・・まさか)
不気味に笑うモレス、ナオキ達も櫂と同様に感じている・・奴からわずかに漂う櫂がいつて纏っていた禍々しい力。
嫌な感じはするが絶対に負けないとモレスとナオキは同時にファーストヴァンガードをコール。

「マシニング・リトルビー!」
黄色の機械仕掛けの蜂のようなユニットがコールされた。

「喧嘩屋 ボルトナックル・ドラコキッド!」
鋼の色をした小型の小さなドラゴンがナオキの前に現れる。
余裕のモレスに先鋒を譲られ、苛立ってくると舌打ちをした。

「ライド!!喧嘩屋 スタリング・ドラコキッドをコール!!・・・お前のターンだぜ」
「では・・・マシニング・ブラックソルジャーを二体コール」
さらにマシニング・ホーネットをヴァンガードにコール、次々に現れる虫軍団に男のナオキも慣れていないせいか
気持ちが悪くなってきたが、アイチの情報を得るためにも堪えていた。

「アタックですっ!!」
「ノーガードだ!」

まだ序盤でガードはできない、いつもは偉そうにナオキを評価するか無言で観戦するシンゴと櫂。
ナオキとはほとんど会話もしたことのない彼、だかまっすぐなその強さはカムイに似たものを感じる。

(ああいう男こそが、アイチの親友じゃないのか?)
いつも楽しそうにナオキはアイチに肩に腕を回して、笑顔でいる姿を沢山目撃している。

それにくらべて櫂はどうだ?
高校に入ってから、いいや・・・その前から、あんな風に話すこともなかったのに。


(何を根拠に、俺はアイチを親友と思っていたのか?)



「ぷっとばしてやるぜ!!」
ナオキの攻撃のターンとなり、甲虫のユニット達を次々に蹴散らしていく。
シンゴもナオキの勢いにこれなら勝てると喜んでいた。

「単純で実に面倒なアタックですが、そろそろ動きを止めさせていただきましょう。
マシニング・タランチュラのスキル、貴方のリアガードを一枚をパラライズします!」
「パラライズ・・・って!!スタンドできねぇだと!」

リアガードであるファイティング・ドラコキッドが糸に動きを封じられたようにもがいている。
焦った様にナオキはモレスを睨んだ。

「メガコロニーのユニットが一部所有しているスキル、スタンドを封じる力ですが私は『パラライズ』と呼んでいます。
私の攻撃はまだ続いていますよ!
蜘蛛の糸を華麗に縫い合わせ、獲物を絡め・・食せよ!!マシニング・タランチュラ mkIIのシークメイト、そしてレギオンです!」

黒鋼の蜘蛛の形をしたロボットのタランチュラ mkII、蜂の姿をし、手には鋭い円錐のような握られたマシニング・ホーネット mkII。

「マシニング・コーカサスの支援で、ヴァンガードにアタック!」
「させるかよ!」
カードのため、カードを数枚出すとモレスはトリガーを出すことができなかった。
ホッとしているシンゴだったが、モレスが笑みを浮かべているのが気になったのか櫂は目を細めていた。

「レギオンスキル・・・、タランチュラ mkIIのカードができた時、カウンタープラスト1で相手のヴァンガードを含む、貴方をパラライズします」
「何!!じゃあ・・俺はヴァンガードでアタックできねーのかよ!!」
リアガードだけでは、相手にダメージを与えられない。
こんなスキルがあったなんて、まったく対抗策も考えていないし、すぐに浮かびもしない。

「はい・・・」
ニタリとこれで勝負は決まったも同然と笑みを浮かべる。
ガードはできたが、ナオキのアタックができるのは一回のみ、粗暴の喧嘩屋 シュウギのアタックも終わり、すぐにモレスのターンが来てしまう。

「気が強いことで実に男らしいですが、アイチ様はもう・・そんな貴方達とは共に行きたくないと。
あの方は我が主に見初められた唯一の先導者、立っている位置が違うのです」
「なんだとっ・・・!!」

(くそっ・・このままじゃ!)
やはり自分何もできないのか、あの時のように。
アイチがいじめられているのを知っていて、助けようともせずに見ていただけで、傷つけていた奴らと同じになってしまう。

「ファイナルターン、ラストバトルと行きましょう」
「くっ・・・!!」
悔しそうに、どう手札を使っても負けるとナオキも覚悟した時だった。
突然脳裏にアイチの声が聞こえてきた。



『僕は君を信じる、諦めないで!!ナオキ君』
「・・・ア・・・アイチ・・・!」

たしかに聞こえた聞き間違いじゃない。
脳裏に響いたアイチの声、しかも見たこともないように服を着ていて祈るように手を組んでいる。


「石田――!!うじうじするなんてらしくないのです!あいつらが何だというのですか!先導君と直接話もしていないのに
会ったばかりの彼らの言葉を鵜呑みにするほど、単細胞だったのですか!!」
アイチとシンゴの声に、糸に絡んでいたナオキだったが弾くように大声を出して断ち切った。

「そうだ・・まだファイトは終わっていねぇ!!」
「諦めの悪い!!レギオンアタックでトドメです!」
「守りきる!!」
ナオキは持っていた手札全てをガードに回した、リアガードにもヴァンガードも守り抜いて次に繋げるために。
トリガー次第で勝敗の決まる単純だが大きな賭けだ、ナオキはもう難しく考えるのは止めた。

「俺は頭悪いし、複雑に先の展開考えてもわかんねぇ。だから、賭けることにした。
仮に此処までお前に負けても、俺は諦めないし、負けもしない!

お前らなんかに、俺は絶望させられない!!」

透き通った、一本筋の心が瞳の強さか感じる。
絶望を与えに来たというのに、強く輝き雷光の強さに怯むモレス。

「もう一度、レギオンスキルを!!」
しかし、二度はなかった。
代わりにトリガーは来た、これで勝てると冷や汗を流しつつ笑みを浮かべていたが。

「・・・ダメージチェック、ゲット!ヒールトリガー!!」
まさかの展開にモレスは目を見開いた、今までの勢いが崩れ始めてきている。
「やったのです!!これで一枚回復です」
ヴァンガードもスタンド封じから解放されて、首を数回振って元気を取り戻したように見える。
モレスのターンはこれで終了となる。

ナオキのターンとなり、ある一枚カードが手元にきた。
きっとカード達も同じ気持ちなのだと、さっきまで心がカビが生えるくらいに暗かった気持ちが消えていく。

「そうだよな・・・アイチと話もしていないのに決めつけて・・大馬鹿野郎だ!!
空気を切り裂く高速の打撃音!!喧嘩屋 ビッグバンスラッシュ・バスター、シークメイト・レギオン!!」

ナオキが大きく拳を空に向けると、答えるようにビッグバンナックル・バスターが空から降りてきた。

「なっ・・なんですとっ・・・!」
余裕だったモレスだが、現れた青いドラゴン・・進化した
黄金の光り輝く尖った鱗、銀色の羽を広げて、現れたなるかみ『喧嘩屋』レギオン。

「いくぜっ!!ビックバンナックルをソウルに置いた効果で、一回のバトルでお前のユニット4体とバトルができる!!」
もうナオキの心に迷いはない。
アイチが遠いのが何だ、たとえ遠くてもその倍ナオキが走って追いかけていけばいい。
力にはなれなくても良い、アイチが少しでも楽になれるのならナオキはどんな小さなことだってやってみせる。

太陽の届かない場所にいたって『雷』という光を照らしてみせる。

「昂ぶれ、俺の魂!友の気持ちを乗せて爆ぜろ!グレートガトリングパンチ!!」
「ガッ・・ガードですっ!」
ヴァンガードを守るために、手札を全て捨てたモレス。
流離の喧嘩屋 テイリンの支援もつけられたナオキのレギオンをこれでガードできるの安心していたが。

「守ったか、だがな執事野郎!俺の拳はそんなに甘くねーぞ!!
アイチ・・・お前が悩んで、苦しんでいるのなら俺は地球の裏側にだって、駆けつけてみせる!!

ドライブチェック!!・・一枚目はなしっ!・・・二枚目ゲット!!クルティカルトリガー!!」

パワーが上乗せてされてモレスのユニット達は吹き飛ばされ、ダメージゾーンに6枚目のカードが落ちる。
強い光を纏ったナオキに、モレスは逃げようとするが背中を向けた瞬間、首根っこをナオキに捕まれた。

「ひいっ!!」
「いろいろと聞かせてもらうぜ、執事野郎!」

どうせ誰もいない空間なんだからと、ボキリと指を鳴らして実力行使に出ようとすると
邪魔するかのようにナオキ達に吹雪が襲い掛かってくると、その隙にモレスは逃亡。

「待ちやがっ・・・あれ?」
吹雪が止むと、車も通行し、学校から出て行く宮地高等部の生徒達。
少しだけナオキ達を見ている、元の戻ったらしいがプリズンとは違うのかと辺りを見渡す。

逃げられたのは痛いが、これでやる気は出た。

「よしっ、今からカードキャピタルに突撃だ!!お前も行くよな、櫂!!」
目は光を取り戻したように輝いているナオキ。
隣にいる櫂はというと、目を反らしてまだ迷っているようだった。

「俺は・・・・」
「・・・・・わかった、でも俺は行く。
悩むならとことん考えてからの方が良い。でもさ、アイチはきっとお前に一番会いたがっているはずだぜ、行くぞシンゴ!!」

真剣な顔で櫂と向き合う、ナオキはアイチの信じた櫂を信じることにした。
彼なら必ず立ち直ると。


「うわわっ!!」
軽々とシンゴを背負うと、「男気ビックバンーーー!!」と叫びながら道路を走っていく。
そんな彼らをマキは見ていた、もう自分にできることない・・と。



「マキ君、どうしたのかい?」
「いいえ、早く行きましょう」

諏訪部達に呼ばれて、マキは翡翠色のデッキケースを手に彼らの下へ駆け寄っていく。
一人残された櫂、でも彼は片膝をついて立ち上がろうとするのがイメージできる、あとは踏ん張るだけ・・


もう、あと少し・・・誰かが引っ張ってあげれば櫂は立ち上がるだろう。










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