「申し訳ございません、せっかく力をお貸しいただいたのに・・」
モレスは膝を折り、頭を下げてある男に謝っていた。
腑抜けた櫂ならモレスでも倒れるかと思ったが、まさかナオキに返り討ちにされると予想外の展開だが。

「構わないですよ、それに・・そろそろ目標を達成しそうですから」
「それではついにっ・・・」

興奮したように笑うモレスに、歪んだように笑うセラ。
モニターにはアイチと一見紳士のように、紅茶を淹れるガイヤールの姿が映っていた。


「そうです・・本当の幕はこれから上がるのですよ」






「いらっしゃ・・・井崎君?・・・・それに森川君まで、久しぶりですね」
ずっと店にこないでいた、行内でも井崎だけでなく森川ですら表情が暗く、重かった。
ガイヤールのジャッジメントを喰らい、心は絶望したが、今は突き落とされた底から這い上がれずにいるような感じがしていた。

「店長!!新しいブースターパック!!この間、発売されたんだろ!!一個買います」
「はっ・・・はい」
突然声を強められて驚くシン、椅子から立ち上がりミサキ達が近づいてくる。
苦しそうにしながらも胸の内を井崎が明かしてくれた。

「確かに、あいつの言う通り・・・心に絶望を与えられたかもしれない。
でもっ!!もう一度、ヴァンガードしたいんだ!!絶望を乗り越えたい!!」
「井崎・・・・」
カムイも真剣に顔をして、井崎の話を聞いているとずっと黙っていた森川に目を向けた。

「俺は・・ヴァンガードが、G3が大好きだ!!コーリンちゃんも大好きだ!!

そして、イケメンのガイヤールの大嫌いだーーーー!!」

『は?』
意味がわからない。
しかも店内で奇声を発していて、客もカムイ達もどん引きしている。

「ぬぁにぃが、ドヤ顔で『君達に絶望を与えよう』だ!お前なんてドヤガールで十分だ!!
イケメンでヴァンガード強いから、正しいのは僕らだから何をしてもいいとか思いやがって・・・・・・------!!

あいつに俺様のヴァンガードの熱い想いを、消させるとでも思ったか!!」

財布のお金を全てレジに叩き付けて、ガイヤールを倒すカードを買い当ててやると恐ろしい顔をしている森川。
贖罪やら断罪やら、難しいことなんて嫌いだ、好きなことをやっていて普通に暮らして何が悪い。

(俺だって・・・昔アイチに酷いことしたんだ!)
焦っていたとはいえ、後から必死になって追いかけてきたアイチに森川は自分のしたことに気付いた。
謝ることもできずに目を反らして逃げて、結局今も一言も謝っていない、微妙な年頃のせいもあるだろうが
そんな森川だったが、アイチと共に行動する決定的な出来事が中学時代に起きた。

あれはなんとなくアイチと一緒に行動し始めた時だったろうか、アイチは少し遅れてくるので先に森川と帰ろうとした時だった。

「あいつ、いつも暗い顔していたのに最近妙に明るくなってさ」
「むかつくよな」

クラスメイトの男子数人が、アイチの靴箱の前で何か話をしている。
その中の一人がアイチの靴に手を触れてようとした時、井崎の静止を振り切って大声で怒鳴った。

「お前ら!!何やってるんだよ!」
「森川っ・・・別に関係ねぇだろ・・お前らには」

「関係あるね!!俺はアイチのダチだ!!アイチに次、こんな真似してみろ!!
お前らのやったこと、ネットに載せて二度と表歩けないようにしてやるからな!!」
教師に言うよりも遥かに、脅しの聞く発言に彼らは走り去っていく。
同種の行為をした森川だが、アイチはそんな二人を許した。
普通なら、謝ればそれで終わりだ、それ以外にできることを森川は選んだ。

アイチと友達になって守ってあげることを。

「井崎も、アイチと友達だろっ!!」
一年に見るか、見ないかのレアな真剣な森川の顔に、井崎も一瞬驚いたが、すぐにそうだと返事をしてくれた。
それから卒業するまで3人で過ごして、高校に行っても同じだと思っていたがアイチはかつて逃げるように転校した宮地へと戻る聞いて
一番反対しつつ、今から取り消せと知ったのは森川だった。

「お前はーーー親友の俺様との友情を何だと思っているんだーーー!!」
本当は森川は心配だった、アジアサーキットのチャンピョンとなったアイチだが、生意気だという声も少なからずある。
ファイトの時以外は頼りなさそうなアイチに、またいじめられるんじゃないのかと。

どうして櫂や三和達もいる後江を選ばなかったの、森川なら絶対にできない、ほんのちょっとだけのあこがれと不安はあった。

しかし、アイチはコーリンや宮地での初めての男友達、ナオキ・・・そしてシンゴもできた。
出だしが最悪だった森川とは違う、本当の友達だと、ファイトや話をしていたわかって、その後、何やらいろいろとあったらしいがそんなの気にしない。

言うことがメチャクチャだが、何だか少し前向きに考えられるようになった。

最初に決意したのはミサキだった、レジの会計を終えると突然シンに「店長!」と言ってきた。
店では店長と店員の関係だったが家族経営しているのせいか、一度も店長とは呼んではくれなかったミサキがシンを店長と呼んでくれた。

感激よりも、何だか違和感がしていた・・・呼べと言ったのはシン自身だったというのに。

「暫く間、バイトをお休みさせてください!!お願いします!」
これからアイチに会いに行くために、もっと腕を磨かなければいけない。
カトルナイツ・・・・恐らくはラティと対決するためにも負けられない、だからバイトを暫く休ませてほしいと頭を下げて『店長』にお願いしてきた。

「・・・・それは必要なことなのですか?」
「はい!・・・アタシはずっとアイチに引っ張られているばかりだった・・・。
友達だって誰かにはっきりと言える関係じゃなかったことに気付きました。

まだ間に合うのなら、今度はアタシがアイチを自分の意志で会いに行く!!アタシはアイチの友達だから!!」

給料は差し引いてもいいから、休ませてほしい。
いつも舐めていたシンにミサキが頭を下げているという行動に、三和もカムイも驚きを隠せないでいた。

「・・わかりました、でもどうか・・無茶はしないでください。貴方が傷つけば悲しむ誰かがいることを」
真意を受け取ると、シンは危険だと引き留めたい気持ちを押さえて、ミサキの意思を尊重し、肩を優しく触れた。

「・・・・・うんっ・・・・!!」
亡き両親、ずっと育ててくれていたシンを悲しませないためにも負けられない。
カムイもミサキの方へと歩いていき、共にファイトをして腕を上げようと立ち上がった。

「カムイ・・・・アンタ」
「俺、頭が良い方じゃありません。学校じゃ体育と次が数学・・・一番成績悪いのは国語です。
漢字だってよく間違えるし、読書感想文だって最悪だ。

赤点取ってはアイチお兄さんに助けてもらったりしてましたっ!

解決できるほど頭は良くないですが、話を聞くぐらいはできる!!
だから、アイチお兄さんと会いたい・・そのためには強くなるしかないのなら、努力を惜しみません!!」

大好きなヴァンガードを極めるのは嫌いじゃない。
怖いのは好きなものが嫌いになってしまうこと、ファイトが苦痛になってしまうこと。

ずっと未開封だったブースターパックを力任せに開けていると、レイジとエイジが店内に入ってきた。
店内に入れずにいつも店が見える場所で迷っていた二人だが元気のないカムイを見て、
勇気を振り絞って此処まで来て、カムイもジャッジメントされたのだと知る。

しかしカムイは、絶望させられるも光を見失わず、アイチを助けに行こうと主張する声が聞こえてきてようやく店内に入ることができた。

「すいません、カムイさんに心配かけて・・でも、もう大丈夫です!!」
「MAッス!!」
そうかと、絶望を確かに与えられたが皆が立ち上がろうとしている。
さらにはドアを破壊する勢いでナオキもシンゴも入ってきて、ファイトを各自始めていた、アイチを助ける・・・そのために強くなろうと。



そんな店内の様子を、レオンは外で見た後・・・・安心したように笑みを浮かべると何処へ移動していく。







ふらっと当てもなく歩いてたどりついたのは、アイチと出会った公園の前。
ここがアイチとの始まりの場所、その公園では今は小さな子供がボールで遊んでいる姿が目に入る。

『こいつをやるよ』
気まぐれで、櫂はアイチに一枚のレアカードをあげた。
その時のアイチは今からでは想像もできないほど弱弱しく傷ついていて、元気をつけてもらえればとぼんやり考えていた記憶かあるだけ。

(でも・・・アイチにカードを上げたのが俺じゃなくても、今みたいな関係になっていただろうか?)
実家がカードショップのミサキ。
櫂と同じく幼い時のアイチを知っているナオキ。
面倒見の良い三和、カムイや他の人間だって考えられる、ブラスター・ブレードはただのきっかけにすぎない。

(アイチは俺のこと、本当は嫌いだったんじゃないのか?)

ただブラスター・ブレードをくれて救ってくれた人だから、何をしても許さなければ。
そう考えた時、アイチと櫂の関係は誰よりも薄っぺらく、脆く感じた。

ヴァンガ―ドの才能のあったアイチに、それを教えるのは運命次第で櫂以外だった可能性だってある・・・・そうたとえばガイヤールでも不思議じゃない。



『元気を出してください、このカードを貴方に・・・差し上げます』
『僕に・・くれるの?』
同じ背丈のガイヤールがアイチにヴァンガードのカードを一枚手渡した。
描かれているのは白い鎧を着た騎士、傷ついたアイチは顔を見上げるとガイヤールは微笑む。

『イメージは貴方の力になります、僕にはわかります・・・貴方が強く、人々を導く先導者になるのが』


石作りのベンチに座ってヴァンガードをしている少年達に、ガイヤールとアイチを重ねてしまう。
活き活きと笑いながらファイトをしている、それを幼い頃の姿の櫂が遠目で今のように見ているのを。




「楽しそうですね」


後ろから話しかけてきたのし、制服姿のレンだ。
この場所をどうやって嗅ぎ付けたのか、確か鼻は良いと言っていたことがあるから匂いでも追ってきたのだろう。

「何をしに来た?」
「櫂がいつまで経ってもアイチ君何処にいるのか聞きに来ないから、きちゃいましたよvv」

無邪気に笑いながら、レンは櫂の隣に立つ。
やっぱりアイチが何処にいるか知っている、だがレンは言うつもりなど今もないらしいように感じる。

「お前が言うような性格か?」
「おや?君はたった一回で教えるのを拒否すれば諦めてしまうような人だったのですか・・・」

アイチは何度も櫂に冷たく突き放されようとも、辛抱強く話しかけ続けてくれたのに
ガイヤールから言われたぐらいで落ち込んで、随分と情けないと見透かされているようにレンは笑う。

「・・・・・」
櫂は何も言い返さない。
暫く沈黙が続くと、最初に口を開いたのはやはりレンだった。


「ねぇ櫂、ファイト・・・しませんか?僕に勝ったらアイチ君が何処にいるか教えますよ」


その提案に櫂を飲んだ。
ファイトする場所に選んだのはフーファイター本部ビルの屋上にしてヘリポート。

足元のモーションフィギュアシステムを起動させ、ファイトの準備は完了している。

観客はレオンのみ、彼もアイチの居場所をレン以外で知る人間だ。
腕を組んで二人の様子を真剣な顔で見ている。


「約束を守れよ、俺が勝ったらアイチの居場所を教えると・・」
「ええ、でも櫂・・・君が勝てたらの話ですけど」

無意識に櫂は手を強く握り、手の甲には包帯が巻かれている。
ガイヤールのジャッジメントによるものだろう、目を細め・・・レンは櫂を見た。

「「スタンドアップ・ザ・ヴァンガード!!」」

櫂の足元の赤とレンの足元からは黒の霧が発生し、ファーストヴァンガードをコールし・・・ファイトは開始される。






その頃、SITの大学周辺ではたびたび不審なファイターが目撃されていた。
校内に許可なく入り込む彼は強く、優秀な学生達であっても歯が立たないでいたが。

「化学を極めし者、その英知たる力を持って敵を完膚無きまでに倒せ・・・!!」
一枚のカードをクリスは構える。

「この平和を守るため!!新たなる姿となって、現れよ!!・・」
その横にいる光定も、切り札のカードを指に挟んでいる。

『シークメイト!!・・・レギオン!!』

クリスのグレートネイチャーのレギオン。
西洋の狐の姿をした魔法科学者デスター・フォックスと相棒の同じ狐の姿が毛並みの白い幻想科学者リサーチャー・フォックスがコ―ルされる。

光の真・究極次元ロボ グレートダイカイザーと究極次元ロボ グレートダイユーシャの巨大なロボが並び立つ。
まるでロボットアニメのような堂々と二体のロボは光定の呼びかけに答えて表れた。

「「アタック!!」」
二人の声が再び重なると、侵入してきた者達を倒していく。
全員が倒れると学生達・・・・アリやリーも近づいてくると、床に倒れる彼を見た。

「これで何人目なんだよ、男ばかりでさー僕は女性専門なのに」
「警察にはレアカード盗もうとした窃盗団ってことで引き渡そう、僕らの手には負えないよ」

暫くして警察が到着して、彼らをもう何度目かわからない回数で引き渡している。
警察も大学周辺の警備を強化してると言っているがここまで頻繁に入ってこられると本当なのかよと疑いたくなった。

「やはり、カトルナイツって奴らも一枚岩ってわけじゃないみたい。僕らのやっていることを嗅ぎ付けてあんな奴らを向かわせるなんて」
「・・・うん」
クリス達が話を珍しく難しい顔をして光定は聞いていた。
カトルナイツの中には以前ファイトしたことのあるラティも入っていると、彼女は確かに強い。

しかし、光定は彼女がどうしてカトルナイツに入っているのかがわからない。
そもそも・・・・。



「あの子には家族がいたはずなのに・・・・」



その家族は今、どうしているのかを聞くとラティのやっていることがますます理解できない。
もしかして旅暮らしや家庭環境が関係しているのかとも考えていたが、リーに怒られて謝りながら小走りで追いかけていく。

「リバースされた経験のあるファイターにしかできないことだよ、・・・・成功するかわからないけど
同じ悲劇を繰り返さないためも、僕達は何としても成功してみせる!!」
「これが終わったら、ウルトラレアの三人と絶対お茶しよーっと!!」
「君はそればかりだな・・・アリ。始めるぞ」

3人と光定・・・後ろにはSITの学生達が片手を翳す。
中心には絵柄のない一枚のカード、目を閉じて皆が力を送るように念じると真下に書いてあるヴァンガードサークルが淡く輝く。

地下で行われている謎の儀式?。
外からはリバースされた者達が、中からはウルトラレアの三人がそれぞれの国家の王に面会に行っている。

レッカはズーに、スイコはダークゾーンに、コーリンはユナイテッド・サンクチュアリに。
すでにスターゲートには出向いて、この提案は飲まれている。

そして各国の承認を得ること、クランを束ねるユニットのとも話をしなければならず
また人とは違う感覚を持つ彼らの同意を得るのは並大抵のことではない、でもこれが争いもなく平和的に解決するのなら

努力が報われないことであっても、成し遂げてみせると疲労を隠し、精一杯の言葉で三人は説得を続けた。


(アイチ、頑張って・・・私も頑張るからっ・・・!!)
カトルナイツの下にいるアイチのことは心配だ、でもコーリンにはやらなければいけないことがある。
これはコーリンにしかできないこと、それにアイチには今まで苦楽を共にしてきた仲間達がいる、コーリンもあの輪の中に少しの間だけで入れてすごく楽しかった。

彼らからもらったものを、この好きではなかったこの力で返してみせると・・目は吊り上げさせているが凛々しい騎士のようにコーリンは前を見つめる。





「僕のカード・・返してください!」
店内に入ってきたのは息を切らしたアイチ、櫂の手には森川から勝利の報酬として受け取ったブラスター・ブレードがある。
三和は向かいの席に座って傍観しているようだった。
しかし、森川はすでにカードは櫂の手に渡ったと焦った様な話をすると櫂に頭を下げて返してほしいと必死に訴えていると
宮地学園・中等部の制服を着たガイヤールが櫂の前に現れ
「僕とファイトしませんか?そのカードを賭けて」と泣きそうになっていたアイチの前に立つ。

「・・・お前」
「いいでしょう?」
含みのある笑みを浮かべながらガイヤールはそう言うと、櫂とのファイトを挑んできた。

ガイヤールもまたレアカードを負けた場合、櫂に無償提供すると賭けたが
圧倒的な力を持って櫂に勝利し、疲れた様子で三和は驚いているとガイヤールは奪い返したカードをあっさりとアイチに返す。

その勝利に店内はざわめく、あの櫂に勝てる男が現れたのだと。

「ありがとっ・・・・もしかして・・・ガイヤール君?」
「はい、また会えましたね。これもヴァンガードの導きでしょう?」
優しくガイヤールは微笑み、アイチも嬉しそうに笑みを浮かべていた。
櫂の下に戻ってきた三和はガイヤールの強さは全国大会にも十分に通じると愚痴をこぼす、それからガイヤールに教えられて
アイチはヴァンガードを始める。

いつも楽しそうにファイトしている二人に、森川やミサキ、カムイ達も自然に集まってきている。
やがてガイヤール・カムイ・ミサキ・・・そしてアイチは全国大会に挑戦するため、チームQ4を結成。








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