「俺様、レギオン!!」
「熱き魂は、どんな攻撃も通さねぇ!!トウシュウ・・・クインテットウォール!!」

開店時間前だというのに、カムイ達は早朝から店の前でファイトしているとシンの好意で店を早めに開けてくれた。
私服の三和とミサキも入ってくると同じようにデッキの強化を始める。

「おや?いらっしゃい・・・櫂君」
櫂の登場に驚きもせずにシンは温かく、櫂を出迎える。
ファイトに集中していた4人だったが私服姿の櫂の登場に一時ファイトを中断。

「櫂・・・」
戸惑ったように三和が声を出すと。
当然だ、ガイヤールに教えられた時は問い詰めている場合ではなかったが
櫂が正気で皆をリバースしたと知り、顔を背けて黙り込むミサキ達・・さすがに重い空気が店内に広がる。

これが櫂のしたことだ。
それでも櫂には、彼らの助けが必要だった。

逃げてはいけない、背を向けたらまた同じことを繰り返してしまう。

櫂は手を握りしめて、歯を食いしばり、前を向く。


「お前達が恨むのはわかる、アイチと会うためにはまだデッキは未完成だ・・だから・・・」
「うるせーな、いつもみたいに『俺の相手をしろ』とか偉そうにしろよ、逆に気持ちわるいんだよ」

変な気を使われると気持ちが悪いと言ってきたのはカムイだ。
そういう言い方をして、突っかかってきた彼だが今まで通りで良いと言われたのは意外だった。

「・・・・葛木・・・、いや・・カムイ」
「ほら、櫂もさっさと座れよ。俺もさー・・年上らしくアイチを助けにいかないとさすがに失望されるしさ。

もう、背中を追いかけるのやめた。櫂・・・俺もお前の隣に並びたい!」

もしかしたら三和はアイチと同じだったのかもしれない。
いつも櫂の背中を追いかけて、でもアイチは周りの力を借りながらも櫂の隣に並び立った。

友人がおらず、ずっと一人だったアイチが櫂を超える存在になったのだ。
三和とはまったく逆の道を進んできたのに、三和だけいつまでも櫂の背中を追いかけてはいられない。

「早くしねーと、櫂よりも強くなっちまうぞ」
にかっと笑う三和だが真顔にミサキに「それはないね」と厳しい言葉が突き刺さった。
何気なく笑う会話の中、アイチはたった一人敵陣の中にいると、親しい友人もおらずきっと辛いだろうに。



櫂は全てが最初から完璧だった、幼い頃から学校の成績もスポーツも友人も沢山いて
できないことなんて何もなくて、幼い頃両親を亡くしてからも年齢さえ積めば大人になれると思い込んでいたが

いつまでも全てが、こなせるわけじゃない。
できないことだって櫂にも沢山あって、人の力を借りることは全てが完璧にこなしていた櫂にとって恥ずかしいことだった。

(だから、俺はレンにもレオンにも勝てなかったのかもしれない)
強さを求めるために孤独であらなければならないと考えた、でもそれは間違いだ。

経験を積むことで、自分自身の力を高めていけば最強になれるこそが最強への唯一の道だと
でも時には人の知恵や支えが必要な時だってある、自分の中の弱さを認めることも。


櫂が見つけた最強への道が分かれ道に差し掛かった時、リンクジョーカーに付け入られてしまった。



もっと早く、気づいていれば誘惑も断ち切ることができたのに。
今まで勝手にやってこれたのは三和やアイチ達がいたおかげだった、もしもまだ間に合うのなら




この熱い煉獄の炎を、アイチや仲間達を傷つける牢獄〈プリズン〉を焼き尽くすために使おう。





太陽が煉獄色、まるでドラゴニック・オーバーロードの翼の色のように沈んでいくのが窓から見えた。
その日がまた、終わろうとしている・・・・ガイヤールは今は席を外している、櫂とファイトしてから彼は学校を辞めてずっと
アイチの傍にいて世話をしているが、一人になりたいとアイチが言うと渋々自室に今はいる。

「・・・行こう」
パサッとコートを羽織るとアイチの手には苺色をしたカードケース。
中にはロイヤルパラディンのカードが入っている。

まっすぐとした目で、出入り口の扉の方へと歩いていくと途中・・・待っていたであろうネーヴと会う。


「ネーヴ・・・・さん?」
「先導アイチ、・・・・此処を出ていくのか?」

返答の迷ったが、アイチははっきりと「はい」と言った。
薄々ネーヴはわかっていた、アイチが何かを企んで元立凪ビルにいることが。

しかし、櫂を倒す上で最大の壁となるアイチをこの場に止めておくことには賛成はした。
その櫂もガイヤールの制裁に合い、まもなく最後の仕上げとしてレンとレオンにもオーナーより制裁命令が下るだろう。

(だが、俺は・・・)
アイチを奪おうとする二人と戦う気が十分にあるガイヤール。
ただジャッジメントのファイトを純粋に楽しみだと笑うラティ、オーナーの命令に従順のセラ。

ネーヴはずっと迷っていた。命令を3人のように迷いなく遂行ができなくなってきている。
それはアイチとのファイトの後からだ・・・だから。


「その前に、俺とファイトをしろ」
出なければ、このことを元立凪ビルにいるファイター全員に伝える。
彼の手にはカードケースが握られている、アイチとのファイト後さらに強化させたデッキが、・・・カムイすらも倒した代物だ。

「・・・はい」
いつもラティ達とのファイトで使っている専用のガラスのファイトテーブルの前に立つ二人。
山札にカードを置くと手札を取って、揃えていく。

「プリズンはいいのですか?」
「必要ない、・・・そんな気がする」
これは制裁でもない、己の意志と心と向き合うためのファイトだ。
アイチも敗者が傷ついてしまうことを望む性格ではなく、手加減なんてされたら腹立たしくもなる。

「いくぞ、スタンドアップ・ヴァンガード!!」







夕日が沈み、今日が終わろうとしていた頃・・・ようやく櫂のデッキは完成した。
デッキの構築に付き合ってたであろうエイジ達、井崎達はかなり疲れた様子でパイプ椅子の上にぐったりと腰かけている。

「うーーあーー、なんかこんがりトーストされた気分だぜ」
「だな・・・まったくこれが櫂のレギオンかよ」

黒炭にされたトーストの気分が今なら理解できる、焼き過ぎてごめん。
黒いデッキケースに入れると櫂は立ち上がる、家に帰る様子ではないとナオキ達もこちらを見てくる。

「これから、アイチのいるところへ行く。・・・・ファイトしにな。お前らも行くか?」
「もっ・・・勿論だぜ!!だよな」
「うん、行こう」
「当たり前だぜ!!」
「そうそう」

三和とナオキが一応親に一言言うと、カムイはファイトスペースの隅にいるエミを見る。
今の会話を聞いて、エミは行くというに決まっているがかなり危険な場所だと、説得しようと声をかけた。

「あの、エミさん・・・俺達・・」
「うん、アイチのところに行くんでしょ。私は残ってるわ・・・ヴァンガードは好きだし、強くもなりたいけど違う、気がするんだ・・・うまく言葉にできないけど。
きっとさ、アイチは私よりもカムイ君達に来てほしいって思っているから」

血の繋がった妹じゃない、初めてできた友人達に迎えに来てほしい。
カワイイユニットの絵が置かれたヴァンガードか好きだけど強さのためにカワイイでないカードを選ぶほど、強くなりたいとは考えない。

それは、カムイ達とは違う差なのだと・・・エミなりに考えた。

「兄のこと、お願いします」
丁寧に頭を下げて、エミは櫂達に頭を下げた。
自分にできるのは多分これぐらいだ、アイチはエミに好きなことをすればいいと言ったのだ。

アイチのことは連れ戻したいけど、エミの力ではきっと・・足手まといになってしまう。

寂しくて、辛いけど、いつまでもアイチはだらしがないからと、自分に対しても甘えを作り、傍にいてはいけないのだと
腕に店長代理を抱えて、一人エミは彼らの背中を見送る、遠くでカムイが大声で何かを言っているが聞こえない。

「・・・送っていきましょうか?エミさん」
ぽんっと、シンがエミの肩を軽く叩く。

「いいえ、私一人で帰れます」
何処か大人の顔でエミはシンに丁寧に答えた。








「鋼闘機 シンバスターにライド!」
ライドされたのは灰色と黒のボディのロボット。
これでレギオンの条件はほぼ完了した、そのままアイチの手札を削りつつアタックすればネーヴの勝ち。

しかし勝ったところで、ネーヴの心は晴れない。
そもそもどうして、アイチとのファイトをしたいのか?リベンジのため、いうことでもない。


彼の祖国は長い間、内戦を繰り返して壊された建物、治療代のために大金の報酬が出るというこの仕事を選んだ。

趣味だったヴァンガードを祖国のために生かせる、このまま祖国はこのまま互いを憎み合ったままに滅んでしまうのかと
嘆いていたが、ようやく見えた希望の兆しだというのに。

「今度はお前が俺達の前に、立ち塞がるか!!先導アイチ、・・・・シークメイト!!レギオン!!」
あの時のように二体のロボットがネーヴの背後に立った。
アイチの陣営はリアガードが一部欠けており、ネーヴのレギオンスキルによりグレード1以下のガードは封じられてしまう。

「これで決める!!」
迫る巨大ロボ2体。

最初の時のようにノーガードは通じない、今のアイチのダメージゾーンには5枚のカードが置いてあり
ダメージを受ければ、敗北は決まってしまう。

「・・ごめん、ガード!!」
「なんだと!!」

出してきたのは手札のグレード2・・・そしてリアガードのブラスター・ブレードだ。
己の分身のブラスター・ブレードを初めてアイチはガードに回したのだ、苦しそうにしつつドロップゾーンへと移動させる。

「ターン、エンドだ・・・」
最後まで残しておくと考えていたが、ブラスター・ブレードを削ってまでアイチはガードした。
このターンでアイチは勝負を賭ける気なのだと身構えて、ネーヴは己の手札を確認、レギオンを発動しても防げそうだと顔には見せないように心に余裕ができた。

「絶望の中に伸びる一筋の光!暗闇の中で繋ぐ勇気という名の光!シークメイト!」
ドロップゾーンに置かれていた、ブラスター・ブレードが山札へと戻っていく。
だからアイチはあの時のガードとしてブラスター・ブレードを使ったのだ、レギオンを発動させるために!?

「しまった!!」
全身が銀色の翼のドラゴン、探索者 シングセイバー・ドラゴンが現れる、あの時以上の輝きがまるでアイチの後光となって背後から光を発する。
まるでネーヴの心の闇を払うかのように輝くその姿は、敵であるというのに見惚れてしまう。

「・・・美しい・・・・」
思わず出てしまった言葉、口に出した後ハッと口元に手を当てる。
そこに並び立つはブラスター・ブレード・探索者。

弩弓の探索者 ギルダスの攻撃は防がずに、リアガードが倒されるのを覚悟で横目で消えていくユニットをネーヴは見送った。

「レギオンアタック!」
「完全ガード!!」

これで、アタックは通らない。
だが攻撃を守ったのもつかの間、カウンタープラストとソウルプラストを使って探索者 シングセイバー・ドラゴンをスペリオルコールする。

「二度目の・・レギオン・・・だと・・!」
ネーヴの手札には、このアタックを防げるカードはない。
疑似スタンドし、ソウルのブラスター・ブレード・探索者とのレギオン再発動、パワー22000。

「光の翼と剣を持って、煌めけ!!エターナル・ウイング!!」
完全ガードはもうなく、さらにレギオンのスキルを防げるほどの手札はない。
ネーヴは最後にヒールトリガーに賭けることにした、・・・一枚目はトリガーなし・・・二枚目も・・。


「トリガーは・・ない」
「・・・はい」

勝利したものの、嬉しそうにもせずアイチはネーヴの顔を真剣な顔で向かい合う。
彼はアイチの邪魔をせず、見逃すのを承諾。

そして、ファイトの中でネーヴは答えがやっと出た。



「貴方のおかげで、わかった気する。こんなことは間違っている・・・・----!!」
「ネーヴ・・・さん?」

わかっていた、櫂に復讐して関わっていたというだけで誰かを傷つけることの意味を。
でも、傷つけられた理不尽さを向ける矛先が形となってなく、自分の中で消化できずにいた・・・。

カトルナイツ全員が、そうなのだろう。

彼は祖国の再興のために多額のお金が必要だった。
リバースのせいで国が再び荒れてしまい、国の一部では内戦が続いていて

それが櫂のせいだとわかり、私怨もあったがこれはビジネスだと割り切っていた。
しかし・・もうネーヴはついていけない。

彼はカトルナイツを自ら除名されることを選択し、真の先導者・アイチについていくことを選んだ。

「これからは貴方に・・・ついていきます、・・・・・・アイチ殿」
丁寧に頭を下げて、胸に手を当てる。
前々からネーヴは勝負に負けたらと薄らと考えていたが、今回のことではっきりと形にすることができた。

「そんな、殿だなんて・・・っ!」
あたふたするアイチ。
彼がある意味正気に戻ったが、まさかネーヴがついていくなどと予想していなかったのは混乱している。

「貴方が、これから戦おうとしているのモノについて、教えていただけませんか?」
それはリンクジョーカーを生み出したヴォイドに関係しているのだろう。
一瞬だけアイチは迷った気がしたが、ネーヴの鋼の意志を信じてアイチは一部彼に真実を話す。



「まさかっ・・・!!そんなことがっ・・・・・」
悔しそうに拳を握り、怒りに震えるネーヴ。
これはアイチから知らされたネーヴ以外気づいていない真実、アイチは一人で倒そうとずっと心に決めていたのだ。

「ならばなおのこと、手は多い方が良いでしょう。早くここから出ましょう!」
気づかれると厄介だと、早歩きで出入り口へと向かうが開くことができない。
アイチは元々月の宮にずっといたから出る方法は一度セラから聞いているだけだったが

ならばとネーヴのカードキーを使って入ってきた時のように
扉を開けようとしたが、エラー音と赤いランプがついてしまう。

「・・・遅かったようですね、僕らの動きは全て監視されている・・・・!」
閉じ込められた、静かにアイチが呟く。

「・・・くそっ!!」
扉近くにある防犯カメラにむかって、円球の鋼を投げつけるとカメラは破壊。
ならばと力を使って扉を破壊しようとするが、ネーヴの力を見えない壁が守るように攻撃を全て弾いた。

「何だっ・・この力は!」
「下がっていてください」

こういうことも予想していたのか、アイチがネーヴの前に立つ。
ふわっと風もないのにアイチの髪が左右に広がると、ものすごい衝撃波がまっすぐと伸びていき扉を破壊。

「・・・すごい・・・・」
アイチの力にネーヴは茫然としていたが、壊された扉をどかすとアイチとネーヴは外へと脱出。
「行きましょう」と、アイチが声をかけるまでネーヴは固まっていたがすぐにアイチの後を追いかけていく。







廊下を進んでいくアイチと、あまりのカメラの数に破壊を諦めたネーヴが後ろに続いてくい。
そんな二人を薄暗い部屋で優雅に、高級そうな一人用の椅子に腰かけて見ている男がいる。

「やはり、私の前に立ち塞がるのは貴方ですか・・・先導アイチ」



出入り口近くには二人の男が立っており。
丸テーブルの上にワインを置くと、立ち上がり彼の後ろに二人の男も続いていく。

彼の名はラウル・セラ。
カトルナイツの一人にして、今回の事件の首謀者だった。




















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