早歩きでアイチとネーヴはエレベーターを使って下へと降りていく。
新の黒幕がいる部屋へと急ぐ、しかし敵も突破されたとわかるとアイチの前に立ち塞がる。

「この先へと行かせないぞ!」
「月の宮で飾られる花であればよかったものを!」
数人の黒いスーツ姿の傭兵ファイター達が二人の前に立ち塞がる。
デッキケースを手に取り、ファイトするしかないと覚悟を決めたがアイチの前にネーヴが手を前に出す。

「アイチ殿は先に進んでください、奴らを倒したら俺もすぐに追いかけます!」
「・・・ネーヴさん」
少し迷ったアイチだが、先へ進まなければならないのは事実。
同等のカトルナイツならともかくとして、傭兵程度なら心配ないだろうと先へと進む。

「すぐに追いかけて来てくださいね!」
「待て!!」
アイチを逃すまいと駆けだそうとすると、鋼のフィールドが傭兵達を取り囲む。
空間を塞ぐ鋼を上を見上げて戸惑い、ネーヴは荒ぶる騎士のように鋭い目つきにたじろぐ傭兵達だったが

彼らは歪んだ笑みを浮かべながら不気味なオーラを放つ。

その顔には、リバースされた時の赤い刺青が現れる。

「お前ら・・・まさかっ!!」
「ああ・・・その通りさ!!」

忘れもない、悪夢の記憶。
リバースしたファイター達の纏っていたのと同じ、しかし彼らは理性を失ってはいない。

正気のまま・・力のみを使っている、櫂と同じ状況だ。
櫂への恨みで集まった者もいたはずなのに、大半はあの力のもう一度欲し集まってきたファイター達だった。

「だがっ!!今の鋼の如く強い信念を持つ俺を止められるか!!」
心の中で混乱しながらも、考えるよりも先にアイチを追いかけて共に、野望を止めなければいけない。
味方の中に敵が紛れていたことに気付かない己の間抜けさが情けなくて、悔しかった。



「レギオンアタック!!」

ネーヴに数人任せたはいいが、やはり元立凪ビル内には多くの傭兵ファイター達がいて
倒しながらもアイチは先へと進んでいく、幸いにもファイトに勝つと毒気のように黒い靄が体から抜けていき、気を失うので
再び挑んでくることはないらしい、このまま理性を取り戻してくれればいいと願いつつ、倒れた彼らを心配そうに振り向く。

『皆が皆、いい人とは限らないのですよ、世の中には己の欲のために他人を傷つける人だっている。

それは金銭だったり、優越だったり、知っているでしょ?君もその感情を』

囁くように、あの男がアイチを惑わすように呟いていた言葉が蘇る。
頭を左右に振って、とにかく今は止めることの方が先だ、今更止めても遅いとようやく腰を上げる気になったと呆れられても

沢山悩んで、考えた結果だから後悔はしていない。





「ジャッジメント!!」
「ぐああっ!!」
最後の一人にジャッジメントを与えて、ようやく全員を倒すことができた。
大きく息を吐くとすぐにアイチを追いかけようとすると、電気の消えた廊下の奥からブーツの足音が響いてくる。

ゆっくりとゆっくりと、逃げればいいとも普通なら考えるが勘だろうか・・・・此処にいなければいけない気がしていた。
音がやっと止まると暗闇から現れたのは

ガイヤールだった。

「なんだ、お前か・・」
肩の力が抜けてネーヴは安心していた、カトルナイツの中でも唯一の仲間と言えるガイヤール。
アイチから聞いた事実を知れば、きっと協力してくれるはずだ。

「聞いてくれガイヤール、実はセラが」
「私がどうかしましたか?」

ガイヤールの後ろから現れたのはセラだ、怪しげな笑みを浮かべてネーヴを見ると目を吊り上げてセラを強く睨む。
アイチから聞いた事実、この目で真実の片鱗を目撃するまでは正直カトルナイツに正義はあると信じていたかったが

本性を現してきた奴らを見て、確信した。

「セラ!!貴様っ・・・アイチ殿から全てを聞いたぞ!!お前が『オーナー』本人だということをな!!」
「・・・・アイチ殿、ですか。なるほど貴方はあの方についたのですね?」

隠していたことを暴いてもセラは動じる気配もなく、ガイヤールも驚く様子もない。
それに目が虚ろになっていて、まるで操り人形のように体が時折左右に揺らいでいる。

「ガイヤール・・・?」
すぐにセラから引き離さなければと、近づこうとすると青い炎を放ち、威嚇してきた。
手の甲に青い炎が当たり、空いている手で押さえて後ろに下がるとガイヤールはブツブツと言い始める。

「櫂トシキ・・・見つけたぞ、・・・櫂トシキ・・僕からアイチさんを奪おうと現れたか・・」
「おい、俺だ・・フィリップ・ネーヴだ。櫂トシキなどこの場にいないぞ!!」

しかしガイヤールの目にはネーヴが櫂に見えている。
中指に嵌められている指輪からは青い炎に交じって黒い炎が現れ始め、異常を示していた。

「ガイヤールに何をした!!」
「私は何も、ただ彼は強く願いすぎた。アイチ様の傍にいるために櫂トシキという邪悪な男をこの世から消してやりたいと

憎悪の炎を心の中で燃やし過ぎてしまった結果ですよ」

ゆっくりとセラはネーヴを指さすと。
ガイヤールに向かって、言い放った。

「君の目の前にいるのは櫂トシキ、貴方から守るべき主様・・・アイチ様を傷つける許されざる存在。
貴方の力を持って倒すのです・・・そうすれば、アイチ様は貴方だけのモノになります」

甘い、蠱惑的な誘惑だ。
必死にネーヴはガイヤールに目を覚ませ!!と訴えるがガイヤールの耳に届いていても理解ができない。

(敵の言葉に惑わされるな、櫂トシキは敵・・・)
たった一枚のカードの恩を盾にして、アイチを傷つけたことを全てなかったことにしようとする男。

「・・・・永久に揺らめく、聖なる青き炎よ。全てを焼きつくし、燃えさかれ!ホーリー・プロミネンス・プリズン!!」
青と黒の炎が混じり合い、敗者に制裁を下すフィールドにネーヴは入れられてしまう。
そして目の前には炎を纏ったファイティングテーブルが地面より生み出される。

(やるしかない!!ガイヤールには悪いが、勝たせてもらう!そして・・・セラは俺が倒す!!)
この場でネーヴがセラを倒せばいい、カトルナイツの犯した罪は同じカトルナイツが制裁を下すしかない。
ジャッジメントを喰らえば、ガイヤールは正気に戻るかもしれない、たとえ戻らなくても暫くの間身動きは取れないだろう。

「お前相手に手加減はできん!!全力で行く!!」
「さぁ、お前の最後のファイトだ」

山札を置き、ファーストヴァンガードをコール。
まさかこんな形で真剣なファイトをガイヤールとするはめになるとは、ヨーロッパサーキット以来だと、出会った時のことが自然と思い出していた。











櫂が来るよりも少し前、レオンとレンが元立凪ビルの前に来ていた。
クリス達はおそらくは間に合わない、それほどレンが提案した方法は容易ではない、異質な存在を受け入れるのには時間がかかるのだ。

「では、行きますか」
「・・・ああ・・・」

レンとレオンが横に並び、ビルへと行こうとすると
二人の前に、チームメイト達が現れた、どうやら先回りされてしまっていたらしい。

「テツ、アサカ・・・」
「ジリアン、シャーリーンまで・・・どうして」

目を丸くする二人に対し、何処か穏やかに出迎えた彼らは笑っている。

「まったく、二人で殴り込みをかける気か・・・相談もなく」
「そうですわ、レン様」

「私達、同じチームじゃないですか・・・」
「もっと頼ってくださいよ」

ずっと心配されていたのだ。
でも、手が貸せるほど力はない、でも今なら共に戦えると来てくれた。

「全部お見通しだったみたいですね・・・」
「ああ、だが・・・すまなかった。黙っていて」

「謝らないでください、でも忘れないで・・。一人じゃないことを」
背負ったものに潰されてしまうことだってある、支えることや少しでも背負うこともできるかもしれない。
そう優しくジリアンは言う、しかしレンはテツから「少しは当主としての自覚を持て!!高校生にもなって情けない!」と説教されていて

叱られないレオンを羨ましいそうに見ていた。

「行こう・・・・!」
この場にいる全員が、レオンの声を頷くと皆が元立凪ビルを目指して進んでいく。
夜風の冷たい風にアイチが我が身を震えさせていないかと心配して。





それはヨーロッパサーキットの会場でのことだ。
肌色や言葉の訛りから、ネーヴが内乱の巻き起こっている国から来ていることに周りが感じ取り始めた時のこと。

知り合いもいない、応援しにきた友人達はいない中での個人戦。
周りからの視線にネーヴは苛立っていた、内乱の真っ最中なのにテロでも起こしに来たのかと?言われもないことまで耳に届いてきた。

殴ってしまいそうになったが此処で騒ぎになってしまえば、友人達に申し訳が立たないと必死に堪えている。

「おい!失敬なこと言うな!!今すぐ、彼に謝るんだ!!」
そんな中で唯一、ネーヴを一人のヴァンガードファイターと見てくれたのがガイヤールだ。
雑誌にも『才能に満ち溢れたルーキー』と評価されており、渋々頭を下げると逃げるようにして会場から出ていく。

「お前、勇敢だな・・・・」
「貴方も大変でしたね、僕の名前はオリビエ・ガイヤール・・・共に全力でファイトしましょう」

これをきっかけにガイヤールはネーヴの良き友人にしてライバルとなった。
互いに競い合いながら、プライベートでも交流を重ねていた、なのに・・・・!!


「何を自分だけが傷ついた顔をしているのですか?」


冷たい、氷のような声が聞こえた。
ガイヤールの後ろで手を組んで立っているセラがしゃべり始めた、敵のたわごとだと聞いてはいけないと

意志を強く鋼のように固めるが、セラの次々と語り始める。
まるで断罪するかのように。


「確かに、貴方の国は内乱が多く続き、沢山の人々と貴方自身も傷つき、リンクジョーカー事件でも被害者でした。


ですが、もう貴方に私を責める権利などありませんよ」


「何・・・・・?」
聞いていけないとわかっている、次の言葉を求めてはいけない。
今は大事なファイトの途中、ガイヤールを不本意ながら倒し、セラを倒し無ければ。

「どうやらアイチ様は、さすがに言えなかったようですね、君達のカトルナイツの力は




ヴォイド、わかりやすくいうならばリンクジョーカーを生み出した者の力だということ」



予想はしていた、でも考えないようにしていた。
ガイヤールの炎から発せられている黒い炎は何処で見たことがあると、傭兵達が意識を保ったままリバースしていることも

リンクジョーカーの力を使っているんじゃないかと。

アイチからはただ、オーナーはセラで、リンクジョーカーが関係しているとだけ。
真実を教えればネーヴは強い後悔に己を責め立てるだろうと、アイチは真実を伏せていたのだ。

「さらには、櫂トシキと関わりのあるというだけで貴方、何人その力で傷つけましたから?
心身ともに絶望を与える力・・・体の傷よりも心の傷の方が癒えにくい、貴方はその傷を正義の名の下に与えた」

「・・・っ!!」

手にしていたデッキが、大型のライフル銃に見えた。
故郷で人を傷つけていた兵器、本当は手札のはずなのに、思わず床に捨ててしまうと幻は消えてカードになる。

争いの絶えない、力を手にしただけで己が偉くなったかのように銃という名の力を使う奴らが嫌いだったのに
知らない間にネーヴは奴らと同種になっていた、争いが嫌いだったはずなのに気づかぬうちに好戦的な性格へと変貌し

ネーヴも内戦を今も続けている奴らと、同じになっていた。
戦いでなんでも解決しようという、人を傷つけてもそれは正しいことのためだと言い訳をする奴らと同じに。

「確かに・・・俺は大きな勘違いを犯した、その罪は・・・っ・・償うつもりだ!!」
ナオキ、カムイを傷つけたこと、格下だったシンゴにも容赦のないジャッジメントを予行練習だと手にかけてしまったこと。
でも、今だけは許してほしい・・・このファイトをすることを。

友人を、ガイヤールを助ける間だけは。


「・・・鋼の戦士よ、同胞の願いに応え、ここに来たれ!スペリオルシークメイト!!」
鋼闘機 ブラックボーイの起動能力を使い、山札から鋼闘機 シンバスターをスペリオルソウルのウルパスターとレギオン。
さらには、鋼闘機・オペレーター キリカ2枚と鋼闘機 ミストゴーストのスキルでグレード1以下のカードをシールドとして使えなくてしてしまう。

悪いのは、大人であるネーヴだ。
言い訳は見苦しいがガイヤールも、・・・ラティもまだ子供。

罪なら止めもしなかったネーヴが全て引き受ける、このファイトに勝ち・・・セラを倒して。


「ノーガード」
「終わりだ!!ガイヤール!!」

守れる手札はなく、ガイヤールはガードもせずにネーヴのアタックを正面から受け止めた。
これで後はセラだけだと、ネーヴはセラを見たが彼は余裕の表情を崩さない。

「まだ、ガイヤールのダメージチェックが残ってますよ」
「フッ・・・そんな都合よくヒールトリガーなど引けるものか・・・」

「いいえ、貴方はわかっていない。このカトルナイツの力の元となった『シード』の力を」

歪んだ笑みを浮かべ、ネーヴは冷や汗を流す。
ガイヤールは焦った表情もなくダメージチェックをし・・・。


「ゲット、ヒールトリガー、二枚目・・・ゲットヒールトリガー」
「ばっ・・・ばかなっ・・・!!」


二枚連続のヒールトリガーをこの場で引くなどありえない。
まるで山札を最初から都合よく組み替えているような、しかし始まる前にガイヤールはデッキをシャッフルしていた。

(シードの力というやつかっ・・・!!)

あんな恐ろしい、邪悪ともいうべき存在の力を今も持ち、正義の味方を気取り
力に溺れ、櫂と関係があるというだけで力を振るうことを楽しんでいたのかと我ながら、噛みしめた唇から血が滲むほど後悔していたが。

「ファイナルターン」

ガイヤールの最後の攻撃が始まる。
何が何でも防ぐと身構えるネーヴ。


「誓約を破らんとせし者に鉄槌を与えよ誓いの解放者 アグロヴァル・・・・レギオン!」
パーシヴァルの竜化した姿、『青き炎の解放者 プロミネンスコア』。
ガイヤールの最強の切り札のカードが繰り出してきた。

スペリオルコール時にパワープラス3000クリティカル+1を得ると、先攻にネーヴの残っていた唯一のリアガードを倒されてしまう。

「くそっ・・!!」
「交わりし炎と炎は、青き共鳴を生む。一握の灰すら残さず、滅せよ、青き炎!ペルソナ・フラムブルー・リンケージ!!」
レギオンによって自動能力が発動し、アグロヴァルとプロミネンスコアがネーヴのレギオンにアタックを仕掛けてくる。
しかし、幸運にも完全ガードを持って、それを使いガードしたが。

「学習しなかったのですか・・・・ネーヴ・・」
「まさかっ・・・!!」

気が付いてからでは遅い、しかしネーヴにはもう手札に使えるカードがないのも事実。
罪人である己の願いを神が聞き入れてくれるはずもなく


連続、クルティカルトリガーを引かれてしまう。
ネーヴは悔しそうにしながらも、ダメージチェックをするが・・・ヒールトリガーはなかった。


「・・・櫂トシキ、これで最後だ!!」
「うわぁぁっ!!」
ダメージゾーンに置かれカード達が青と黒の炎に包まれていく。
その瞬間、ガイヤールのジャッジメントが我が身に喰らった時・・・彼らの痛みを、罪をほんの少しだけ許されたのだろうか。

「さてと、邪魔者はいなくなりました。では次に参りましょう・・・」
「櫂トシキは・・・何処だ」
倒れたネーヴに目もくれずに、ガイヤールはセラを前を歩いていく。
幻の櫂トシキを倒したのだがもうネーヴは、ガイヤールに目には入っていない。

「くそっ・・・・ガイヤール、止めろっ!!・・・・アイチ殿・・・今行きま・・・・」

痛みを堪え、立ち上がろうとしたが傷だらけになった身体は言うことを聞いてくれない。

絶対に止めないと。
今のガイヤールは手当たり次第に櫂トシキだと勘違いして、制裁を下してくる。

建物内にいるアイチの身が危険だ。
もしも幻に囚われてアイチを傷つけたこと正気に戻った時に知れば死ぬほど後悔する。

そうでなくても真実を知りネーヴ自身も後悔しているというのに。


(アイチ殿・・・)
しかしネーヴの喰らったジャッジメントはナオキ達の与えられたものよりも強く、体格の良いネーヴすらも気を失ってしまう。
気を失う直前まで、アイチとガイヤールがどうか会わないまま


櫂達が、アイチの仲間達が来てくれると都合の良い・・わずかな望みに賭けて。














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