「絶対に出たらめだろうがーーー」
「ですが・・・」
「アイチ達の前で絶対に言うなよ!!」

シンゴが偶然ネット上で目にした情報をナオキに漏らす。
櫂の気持ちがわかるナオキは、今やっと櫂は新たな道へと進もうとしているのに歩みを止めるようなことを言うと念押しする。

「どうかしたの?」
前を歩くアイチは、先ほどから後ろでシンゴとナオキが小声で話しているのが気になったのか話しかけてきた。

「なんでもねーよ・・おぉっ!!櫂と三和だぜーー」
わざとらしく手を振ると三和だけで、手を振り返してくれた。
櫂は相変わらず、アイチを見ただけですぐに正面に顔を戻す、今カードキャピタルに入ろうとしたところのようだ。

デッキの話をしつつ、店内に入る。
レジではシンにコーリンはいつ帰ってくるのかしつこく聞いている森川と後ろにはあきれ顔の井崎。

ミサキが後ろから続いて店内に入り、一喝していた。




「アイチお兄さーん、櫂ーー、こっち空いてるぞー」
待ちわびていたのかカムイが笑顔で手を振っている、席を取っておいてくれたらしい。
しかし櫂の名前を聞いた途端に、店内の一部のファイターはこちらを見てきた。

「櫂って・・・」
「ネットで噂になっている・・あの?」

店内には不穏な空気が流れる、空気の読めない森川は席でマイデッキを見ているのでまったく気づいてないが
井崎やカムイは何事かと櫂を見ているファイター達の声に耳を傾ける。

「あの立凪タクトと一緒に変なファイターを増やしていったとか、マジなのかな?」
「放送見ただろう・・・共犯者じゃどうかわかんないけどネットじゃ、そう書き込んであったしさ・・」
「じゃあ・・・近くにいる奴らも・・・」

櫂の近くにいたナオキやアイチ達も見てくる。
尊敬の目ではない疑念の視線で、アイチはアジアサーキットのチャンピオンであり、悪の片棒を担ぐ理由はないだろうとも
話はしていたが、そのことに真っ先にキレたのはカムイとナオキだ。

「おい!!てめぇら、さっきから根も草も生えてないようなこと言ってんじゃねーぞ!!」
「そうだぞ!!ネットに書かれていることなんて信じているのかよ!!」

ミサキから「根も葉も、だよ」と訂正を入れられる。
しかし、店内奥にいたファイター達は簡単には引き下がらない。

「でもさぁ・・あいつが店に顔を出さなくなったのと世界に変なファイターが出始めたのと一致するっていう奴も」
常連の客からでも聞いたのだろう、櫂は目立つファイターだから店に顔を出していない日も簡単に割り出されてしまう。
店内では言い合いが始まり、櫂は表情を変えずに店を出ていく。

「あっ・・・櫂君」
アイチがすぐ追いかけていく。

「おい!!お前ら!」
「何だよ!!本当のことかもしれないだろう!!」
カムイが先攻し、負けずと席に座っていた男子集団も立ち上がる。

「いい加減にしな!!あんたら、店内は静かに!!」
ついにキレたミサキが怒鳴ると、取っ組み合いの喧嘩になりかけていたが、その一声に固まった。
そして出入り口を指すと。

「此処はカードファイトする場所なんだ、真偽のわからない噂をするところじゃない!
言いたいことがあるのなら、櫂に直接言いな!!」

さっさと出ていけ!!と言われ、数人のファイター達が出ていく。
さすがにファイトする気が失せたのか、関係のなかった者達も出ていき、ミサキ達だけになってしまった。

「さすが、番長!!」
「番長言うな・・、アタシ・・・店員失格かもね・・・客相手に怒鳴るなんて」
珍しく項垂れるミサキに、首をかしげるナオキ達。

ミサキも将来を考えて、客商売についてのことを勉強し始めたのか、この行動が客を減らす行為だと
商売をする者からすれば、自分の稼ぎを減らす自殺行為だと、今は少しだけ後悔をしている。

「俺はスカッとしたぜ!さすがはミサキさん」
「悪いことは悪いって、言わないと子供なんだしさー」

「私も、同感です。此処はカードファイトをしに来る場所なんですからね」

皆に褒められて、照れているのか赤く頬を染めるミサキ。
シンゴがふと、アイチと櫂は大丈夫なのかと漏らす。

「暫くは此処には来られないだろうなー・・・噂の熱が収まるまでは。大丈夫かなー・・・」
井崎が騒ぎにも気づかない森川の後ろで、出入り口を見つつ、二人がどうなったのかと心配だった。
櫂は内心、顔色を変えていなかったが実際は本当だったのだろうか?

正気を保ちながらにして、世界を滅亡する片棒を担いだのは。




「櫂君・・待って」
早歩きの櫂に、アイチは小走りでやっと追いついていた。
暫く歩いたところでやっと止まり、振り返らず・・・櫂は背中を向けたまましゃべりだした。

「ついてきていいのか・・お前も俺と同じような目で見られるぞ」

世界を滅亡させて、純粋なファイター達をリバースさせて狂わせた邪悪なる始祖のファイター。
アイチはまったくの逆、正義のファイターだというのに事情を知らぬ者からすれば、傍にいるだけで同罪。

「僕が傍にいるって、約束したでしょ?」
「・・・・・・」

だから同罪でもいい、世界を救ったと言ってもアイチ一人の力ではない。
皆の協力がなければ成しえなかったこと、だから胸を張って語ることはないだろう。

「そうだ、いつもの公園でファイトを・・・」
偶然にも櫂がお昼寝ベンチのある公園入口に来ている、横を嬉しそうに振り向いたが
工事用の鋼鉄ネットの壁に阻まれしまう、公園入口には新しい遊具設置のために、暫くは入れないと書いてあった。

「・・・あ・・・」
他のところでもいいかなと誘おうと正面に顔を戻すと、櫂はもうそこにはいなかった。
追いかけようにも家も知らない、携帯番号もすらも、追いかける術はない。


「櫂君・・・」
こんな時こそ、力になってあげたい。
でも、どうすればいいかの、アイチは櫂と同じく道に迷っていた。




失意のまま、家へ帰ろうと暗くなりかけた道を歩いているとアイチ。

「そこの宮地の坊ちゃんvv俺とお茶しませんかーーー?」
「へっ・・・三和君?」

よっ!と陽気な挨拶をしたのは三和だ。
沈んだアイチの様子に、櫂が関係しているのだとすぐにわかる。

お茶と言ってもコンビニのドリップドリンク止まりだ。
あまり持っているとすぐに使ってしまうんだと三和はカフェフラッペを、アイチにはショコラ・ラテを手渡す。

コンビニの簡易スペースに並んで座る。

「あのお金は・・・」
「気に入るなって、お兄ちゃんが奢ってやるからさー、んでもって悩んでいるがあるのなら言ってみろー」

カードキャピタルであったことをアイチから三和は聞かされた。
どうやらアイチでも櫂をすぐには励ますことはできなかったできなかったようだ。

「そっか・・・、まぁ・・・櫂のことを理解している奴らならともかく・・許さないって思う奴らもいるだろうしなー・・・」
「うん、僕も悪いんだ。一人で学校のことに夢中になってて、異変にも気づかないで・・・」

ナオキ達と甲子園に皆で出ようって張り切っていて。

コーリンの本気のファイトの時・・正確にはナオキの様子がおかしかった時から異変はあったのに
気のせいで片づけて、深くも考えずにいた自分が憎くて仕方がない。

カムイが倒れてかけ、エージェントに体を乗っ取られたタクトの放送を聞くまでまったく気づきもしなかった。


「アイチ・・・」
「傍にいるって、何があっても櫂君と一緒だって言ったけど・・・・・僕は櫂君のために何もできていない・・・」

一緒に新しくデッキを作ることで、櫂の支えになってあげたいとも考えたけど
そんなことぐらいで櫂を支えてあげるのかどうかも不安になってきた。

「そんなことねーよ、それにヴァンカードなら別に何処でもできるだろう?そうだ!いっそのこと櫂の家に行けばいいじゃねー?」
「えええっ!!櫂君の家に!!」

つい最近、三和は櫂の家を突き止めることに成功したという。
不機嫌ではあったが家にも上げてもらって、マイカップも置いてあると話し、今のアイチならウェルカム!!だ。

「櫂から誘うとは思えねーし、アイチが行きたいって言えば、二つ返事してくれるんじゃーねか?」
「でっ・・でも、僕友達の家に行ったことがなくて・・」

合宿の時ぐらいしか、お泊りすらもしたことがなかった。
絶対に無理だし、櫂がアイチを家に入れてくれるか不安だ。

「今のアイチなら、櫂は断れるーよ。ただ今のあいつはいろいろと考えててさ、あっちから誘うとは思えないし・・・俺のためだと思ってさ」
頼むと、三和はアイチにお願いをする。
掌を合わされて、お願いポーズに言うだけ言ってみるとアイチは折れてくれた。

(俺にはできないからな・・・櫂を変えることなんて)
ただ傍にいて、フォローするぐらいしか三和にはできない。
リバースを止めようとしたが情けないことに返り討ちにされたが、アイチは強い意志で櫂に敗北しても正気を保つことができた。

何度も敗北しても、立ち上がろうとする。
勿論本人だけの力ではないが、他者の力を借りても簡単に真似できない。

最初は櫂とまたファイトするために、よくあんなに頑張れるなぁと興味本位で見ていたのに
櫂はアイチに恐らくだが無意識に感化されて、つまらなそうにファイトしていたのに、さりげなくアイチの成長を

横目で見ていることが多くなった。

「なぁ、アイチって将来強くなりそうかー」
いつだったか、負けたばかりのアイチに最強の実力を持つと櫂とでは天と地ほどの差があった頃
帰り道に聞いたことがあった、櫂は「・・さぁな、だが素質はある」とだけ言っていた。


(俺は後ろからついていくぐらいしかできない、でもアイチ・・お前には櫂をも変える力がある・・・頼むぜ)
リンクジョーカーという未知のクランを餌に、邪悪な道へと引き寄せられていたが
アイチが傍にいる今なら、きっとその道へと足を向けたりしない。

どうやって誘うか悩みつつ歩く、アイチの背中を三和は穏やかな顔で見送っていた。






「あっ!!」
「・・・・アイチ?」

まだどうやって櫂のところへ行くか最初の一言に迷っていたところで櫂に会ってしまった。
カードキャピタルの件から数時間しか経っておらず、心の整理ができてないのに今はまだ、という時にどうして会ってしまうのだろう。

「かっ・・・買い物?」
櫂の手にはスーパーの袋。
そういえば三和が一人暮らししていると聞いたことがある、夕食の買い忘れたものでもあったのだろう。

「ああ・・・お前は?」
「僕は今から帰るところ・・・・その・・・あの・・・・


今度、櫂君の家に遊びに行ってもいいですか!!」


直球で言ってしまった。
なんだか下心がありそうで、恥ずかしくて今すく爆死してしまいそうで、走って逃げたい。

言われた方はアイチから、そんな誘いが来るとは意外だったのか目を少々見開いていたが
すぐにいつもの無表情に戻ると「構わんぞ」と返事が返ってきた。

「いいの・・・?」
「ああ、だがあまり広くないぞ。元々一人暮らし用の部屋の借りたからな」
「いいよ!!全然構わないよ!!」

首が取れてしまいそうなくらいに左右に首を振ると、櫂が小さく笑ってくれた。
立ち話をしながら、日時の調整をしていたが櫂も用事があるらしく、なかなか都合が合わない。

理想イメージは昼間にお邪魔する予定だったのだが
二人とも昼間は空いていないので。

「泊まりにくるか?」
「とととっ・・・泊まりに!!」
「三和が押しかけて時々来ているし、もう一人分布団ならある」
一人暮らしをする時に、友達用にと押し付けられた一組分の布団がある。
真冬ではないので、それでも掛け布団もいらず、大丈夫だろう。
一度家に帰り、工事中の公園の前で待ち合わせということで、櫂の家に行くだけのはずがまさかのお泊りになってしまうなんて。



「どどど・・どうしようっ・・・!!」
まるで恋する乙女のように頬を染めて、アイチは一人櫂が去った後、一人であたふたしていた。









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