「最初に貴方に始末を命じた、二人の少年・・・実はほとんど関わりのない者達だったんですよ、傍から見る一方的に罰を下したのは貴方ということなりますよ」
「・・でもっ・・それは知らなかったから・・・・!!」

ヴァンガードしようと、二人を人気のない公園に誘い込んだ。
人良さそうに笑いながら、突然声をかけてきたラティにも嫌な顔一つしなかったのに


そんな二人を実力差がデッキを見た時からわかっていたのに、ジャッジメントを下した。
本当に彼らは櫂と関わりのある、悪いファイターなのかと自分で考えもせずに。


怒りが、後悔に変化していく、セラの言う通りとんでもないことをしてしまったのラティの方ではと震える主をフィアナとファムが見ている。
言われた通り、制裁を下したため、ラティは言われた通りの事をしただけだと言い聞かせる。




「調べましたよ、無冠の魔女・・・ラティ・カーティ。
ドーナツに目がくらんで試合を放棄する。皆の嫌われ者、そんな貴方の居場所は父親とクレイだけだった」

国を渡りながらドーナツを世界中の人に食べてもらいたいと、トラックで移動販売しながらラティは父と暮らしていた。
母は昔、病気で亡くなったと聞かされ男手一つでラティは育てられた、しかし移動を常にする環境の中、ラティは友達ができかけてもすぐに離れるという生活が続いていた。


でも、ラティは父と大好きなドーナツがいればそれでよかった。
次第に同世代の子からも距離を置き始めた頃、父からヴァンガードのトライアルパックをプレゼントされる。

「これは?」
「常連さんがオススメしてくれたカードゲームだよ」

試しにと父に背中を押されて、見ず知らずの子とファイトをしてみた。
初心者のラティはあっさりと敗北してしまったが、この時・・・・不思議な世界と繋がった気がした。

まるで別世界のような、そんな不思議な世界。
ファイトを重ねていくとラティのカード達が教えてくれた、それは自分達の住むクレイだと。

「クレイ・・・・素敵なところね」
ラティは以来、ヴァンガードにクレイにすっかりはまってしまった。
当初父親もラティが見ず知らずの人間ともファイトを楽しむ姿に喜んでいた・・・。

しかし、何所から狂ったのだろうか。
クレイはいつでもラティを友達として、温かく迎えてくれることに現実よりも心地よいと感じ始めて

人の心を考えないような行動を次第にするようになった。
空腹だと試合を平気でサボったり、人の気持ちを無視したような言動をしていたが

大人になれば、理解できてくるだろうと父も今はそんなラティを見守ることにした・・


あの時までは。


リンクジョーカーの支配が、ラティ達にまで及んでしまった時のこと。
父を背後に守りつつ、ラティと二人で必死に逃げていた、倒しても倒しても現れるファイターにクレイに助けを求めたが返事がなくて
どうすればいいかわからないでいたが、何の前触りもなくリングが割れると、リバースから解放され、人々は正気に戻ることができた。

でも、全てが元に戻ったわけじゃなかった。
リバースの時のことを思い出すのが嫌だと、ゴミ箱に捨てられたカード達をラティは悲しそうに拾っていた。

「可哀想に・・・」
その様子を人に見られており、辺りではヴァンガードファイターは危険だと噂が広がりラティも危ない娘だと認識された。
父が経営するドーナツ屋も人が減り、移動を考えていたがラティは別に人に何と言われようとも平気だった、ファイトはできないけどラティには父とクレイがある。

変わらないものは何もない。
旅をしてきてわかった、いかに栄光を極めた文明であろうとも滅ぼされた歴史の数々、クレイと父、大好きなドーナツ以外は幻影『ミラージュ』だ。

いつかなくなって消えてしまう、悲しいものだ。

「次は何処に行くんだろうなvv」
などとスキップをしながら歩いていると、見知らぬ女性と父が親密そうな話をしていた。
客に向ける笑顔ではない、ラティにだけ見せていた笑顔で微笑んでいる、物陰に隠れて彼らの様子を伺う。

父も随分と独り身、人から母親が必要じゃないかという話も出てきている。
新しい母親なんていらない、他人をお母さんだなんて呼びたくもないのに、父は・・・・あの人のことが好きなのだろうか?

女性の近くは明るくていつも人に囲まれているラティと同じ年頃の少女も近づいて、三人で楽しそうに話をしていた。
ヴァンガードはとても弱い、でも彼女にはラティにないものを沢山持っている、ヴァンガードをする以外の友達も沢山いて

とても差をつけられている気分だった。

あれはミラージュだと、言い聞かせて夕方になり帰宅すると父が真面目な顔をしてこう言ってきた。

「ラティ、お父さんのデッキを渡すんだ」
「なんで・・・・私の大切な友達なんだよ・・・」
デッキに入ったポシェットを手で隠すようにして守る。
それを聞いた父はまるで、憐れむような目でラティを見て、ますます彼女は混乱した。

「友達はカードじゃないだ、父さんがヴァンガードを進めたのが間違いだった・・・さぁ、そのデッキを渡しなさい」
彼は心配していた、現実を見ようとしないラティ。
このままではいけない、自分の世界に引き込んでばかりいていけないと心を鬼にしてデッキを取り上げようとするが。

「離して!お父さんなんて嫌いだよ!あの人と結婚しちゃえばいいのよ!」
「それは、一体・・・」
言っている意味がわからないでいたがラティは隙をついて、父から逃げ出した。
そのまま当てもなく走り続け、とにかく父から離れていく・・・これからは一人で生きていこうと決めて。

(大丈夫、私にはデッキが、クレイの皆がいる!!)

この世の全ては『幻影』だから、一人でも寂しくもない。


ヴァンガードの腕さえあれば、世界を渡り歩いて行ける。
幸いにも実力は高いラティは生活費に困ることなく、一人生活も難しくなかった。



「私から言わせればクレイの方が幻影、そんなイメージを作るのは貴方。
つまりは自分の都合の良いユニットをイメージして、そんな彼らこそ本物だと・・・?

お寂しい人ですね・・」

哀れむような目で、セラはラティを見た。
かぁっと顔が赤くなるラティ。

ラティにはタクトに選ばれたクレイにイメージ接触できるコーリン達ほどの、力はない。
ただの空想で、都合の良いフィアナをイメージして、寂しくないと孤独を誤魔化していただけ。

「・・・っ・・・」

目を閉じて、『こんなユニットで、傍にいてくれたら』とイメージした彼女達は当然だが、事件の時も助けてなどくれなかった。

イメージは、所詮ラティの空想。
セラの言うことを否定したかったのに、間違っていると声が出ない。

「けどっ・・私はセラなんかに負けたくない!!」
レギオンアタックと、目を閉じながらアタックを命じるが完全カードで阻まれてしまう。
しかしトリガーがまだ残っている、デッキの仲間達にトリガー来てと願うが



それは届かなかった、二枚とも・・・トリガーはない。


「まだよ・・・!!」
最後のアタックがあったが、セラのリアガード一枚削るだけで終わった。

「どうやら山札、貴方はクレイに見限られたようですね・・・ファイナルターン」
冷酷に宣言をし、セラのリンクジョーカーのレギオンも姿を現した。

「深き闇を、この星に!ライド、星輝兵 ダークゾディアック!!来い、罪深き者よ、シークメイト!」
新たにライドされのはダークゾディアックと星輝兵 アストロリーパー。

今はファイトに集中しなければと言い聞かせるが、ラティは何のため、誰のために頑張るのかわからない。
クレイを守るためと言い聞かせるが、クレイはただ目を閉じればそこにあるだけで、助けば恩を返してくれるのか?

触れても温かみのない彼らが、困った時に手を差し伸べてくれるのか?
だってあんなに好きだったユニット達はただの、ラティの妄想・・・『幻影』だから。

「セラは何のため、セラこそっ・・・誰のために戦うの?」
「・・・私は私自身のため、貴方には理解できないでしょうか、仲間や友達など私の地位を陥れる者達でしたならない。

お前のようなファイターなど、私の敵ですらない」

それは完全にセラがラティを切り捨てた瞬間だった。

どんなに信用している人間、たとえ肉親でろうとも人は裏切る。
友と信じていた者も、裏切られ続けれたセラに親も友も必要などない、ラティには理解できない世界だった。

「レギオンスキル発動!グレンディオスの力よ、今再び!!Ω呪縛!!」
最初のアタックでリアガードを一枚、さらにもう一枚と後方までロックさせられて、ラティのカード達は苦しそうにしている。
しかもスキルにより、解呪封じされ解放させることができない、次まで耐えても、攻撃できるのは一回のみ

勝利の糸口が見えないファイトではあったが、何もしないでやられるなんて嫌だ。

「魔女の契約の名のもとに命ずる!!結界の魔女 グラーニャのクインテットウォール!!」

山札から5枚のカードがコールされる、幸いにも全てがガード数の書かれたユニット達。
それでも負けたくない、勝ちたいという今にも消えそうな信念でラティは健気にもセラに挑む。

「・・・・ドライブトリガー、チェック」
一枚目、クルティカルトリガー。
ラティの金色の目は見開いて震えていた、ゆっくりとセラは勝利を確信したように二枚目を捲る。



「ゲット、クルティカルトリガー・・・・・・・・!!」

グラーニャは消し飛ばされ、他のユニット達も消えていく。
いつも傍にいてくれた、フィアナもファムも悲しそうな表情を向けていなくなっていき


ラティは一人、暗闇に取り残されていた。


「皆・・・何処にいるの?・・・誰かいないの?」
辺りは光すらない空間、とにかく走っていると人影を見つけた、光定だ。
いつもの調子で話しかけたラティだったが、光定は軽蔑する目でラティを見ると、彼女の足が止まる。

『歴史を学ばずして、ただ朽ち果てた建物を見ただけで栄華を極めた文明を馬鹿にするなんて、そんな子だと思わなかったよ。
もう僕に話しかけてないでくれるか?君には失望したよ』
「光定・・・・・・?」
彼は歴史が誰よりも好きで、とてもよく学んでいると聞いたことがある。
実際に見ただけで、浅はかな知識で過去の文明を滅びたものと片づけるラティが許さなくなったのだと背を向けて消えていく。

「あっ、ミサキン!」
次に現れたのは淡い藤色のショートボブのミサキ。
自分のターゲットとして選び、いい遊び相手だった彼女に近づこうとすると手で払われる。

『親しくもないのに、気安くミサキンだなんて呼ばないで!!アタシの友達を傷つけたくせに!!』
ミサキの指さす先には傷ついて倒れているエイジとレイジ。
カムイに必死に話しかけられている、ミサキが怒るのも理解できたが縋るようにミサキの腕に障ろうとすると。

悲鳴を上げて、突然傷ついて床に倒れた。
ジャッジメントした時の姿のとなり、傷ついたミサキは気を失っていると、ミサキの両親が何処からか出てきた。

『ミサキ、しっかりして!』
『私達の娘を、こんなことして絶対に許さない!!』

『君ですか!!ミサキを傷つけたのは!!』
シンが怒りの表情を浮かべ、見てくるとラティは弱弱しく首を振ってその場を離れる。
ひたすらに走り続け、何処に逃げればいいかわからないが

でもあの場にはいられないと息を切らして走っていると、アイチの背中が見えてきた。

「アイチ君!!」
呼びかけて、反応はしたが振り向いてはこない。
息を整えていると、静かにアイチはラティに問いかけてきた。

『どうして、僕の友達を傷つけたの?』
「・・・・アイチ君・・・」

『ミサキさんや皆は、僕の友達で心配していたのに・・・僕は本当は知っていたよ。
君が誰かを傷つけるようなファイトを仕掛けたこと』
アイチは全てを知っていた、ラティが力を使ってミサキやエイジ達を傷つけたこと。
何処か悩んでいるのは気づいていたが、自分のせいだなんて思いもしなかった、高価なドーナツを買ったりして元気づけようとしたが

そもそも、誰のせいで傷ついた?

『君は最低だ!!君なんて嫌いだ、最低だよ!!』
荒げる声は怒りを感じる、あの穏やかなアイチが怒りをラティに対しぶつけている。

「・・・・ごめんなさい・・・っ・・・アイチ君。私、酷いことをして・・・でも話を聞いて・・・・!!」

謝るから、ラティが間違っていたとこんなことになるなんて思いもしなかったと。
だから置いていかないで、と手を伸ばすが。

『・・・人の気持ちを踏みにじって、嘲笑うような子は、僕は嫌いだ』

それが誰のことなのかわかると目を見開くラティ、それは自分のことだ。
背を向けたまま・・一度もラティを見ずに闇の中・・アイチは消えていく。

まだ、ラティには大切な人がいる、大好きな父だ。
父ならと暗闇の中浮かび上がった父に駆け寄ろうとすると、寄り添うにしてあの時の女性とその娘らしい少女が笑顔で父に抱き着いていた。

『お父さんのいうことを聞かない、悪い魔女なんて私の娘じゃない、君とはもう赤の他人だ』
新しく娘、友好的で頭が良くて、父の言うことを聞く良い娘、新しい妻もできた。
もうラティはいらない、いる場所なんてないと否定される、最後の居場所も失ったラティは涙目でそれでも必死に手を伸ばす。

「・・・・父さんっ・・・私、いい子になるから、だから一人にしないで!!・・・お願い・・!」
もう此処しか居場所がない、縋るように父に助けを求めるが次第に父達は後ろに遠ざかっていく。
抱き付いていた少女は見せつけるかのように笑っていた、もうラティの居場所なんてないのだと。


振り向いてきたのは、顔はよく見えない・・口だけのはっきりと見える新しい妻だった。
そして彼女は言った。



『いつまでも父親が貴方の居場所で、あり続けられるはずがないじゃない。
時は流れ、物や感情は変化していく・・・貴女がいつも言っていたじゃない?

変わらないものなんて、何もないのよ』








その瞬間、ラティはジャッジメントを受けた。
傷だらになったラティの身体からシードが淡く輝いて体から離れていく、それは胸のブローチに吸い込まれていく。

「では、さようなら。ラティ・カーティ・・・哀れで愚かで・・・魔女裁判のような最後でしたね」
倒れたまま身動きのとれないラティを見下し、手を貸さずにしてセラは見下したように笑って去っていく。
身体を少しでも動かすと体が痛い、これが彼らの受けた痛み。

(身体が・・痛い・・これは罰だよね、当たり前だ・・・・・私、沢山酷いことしたから)

ガイヤールやネーヴは不真面目なラティをいつも軽蔑していた。
カトルナイツの中でセラは違うと思っていたのに、彼が一番最低だったのに人を見る目がなかった、見さえもしなかったのだから。

バカみたいだ、セラの本当の顔を知らずに仲間だなんて思っていたなんて。



(でもアイチ君だけは・・)
父から離れ、一人でいつもドーナツを食べていたラティ。
大会でも、カトルナイツでもセラといる以外はいつも一人だった、けどアイチがラティを救ってくれた。

そしていろんなことを教えてくれた。
人の気持ち、自分の発する言葉が他人にどう感じられているか、昔ならきっと言われてもわけがわからずにいただろう

今こうして理解できるのはアイチのおかげ。

人を平気で傷つける魔女を優しくいつも、包んでくれた。
まるで母親のように、助けにいかなければラティが、・・嫌われていることはわかる・・けどアイチを助けたい。

でも体に力も入らず、意識も閉じかけていく。
罰が下されたんだ、愚かで無知な魔女に神様から審判を下したのだ、それは受け入れよう。


(神様、もう一生ドーナツを食べられなくていい。
友達が一人もいなくて、ずっと孤独のままでも構いません)



クレイの神様ではない、嘲笑っていたはずの地球の神様にラティは願う。



(私の願いを一つ、聞き入れてくれるのだとしたら私ではなく・・・・お願いです、アイチ君を助けてください)




意識を失うまで、ラティはひたすら神に願っていた。
もはや、叶うことがないともしれずに。














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