「地獄の底の闇より現れし、最凶の悪魔よ!!恐怖という翼を広げ、敵を滅ぼせ!!レギオンアタック!」
テツの魔界侯爵 アモンの主謀者 アスタロトのアタックより、一気に数人のファイターを吹き飛ばす。
その後ろではジリアンが攻める。

「荒波すらも、背を押す熱き風として、流星のごとく現れよ!!シークメイト・レギオン!!」
人の姿をしているが肌の色、形の違う黄色瞳の蒼嵐水将 ミハエルと強力な武器を両サイドに構えた蒼嵐水将 ミロスが現れる。
「凄いー、さすがはジリアン!」
ぱちぱち拍手を送るシャーリーン、後ろにいるレオンも同じ気持ちだと振り向くが様子がおかしい。
レンも同じようにある方向を睨んでいると、敵の姿もいつの間にか消えていてアサカ達しか周辺にはいない。


「来たか・・!」
「ええ・・」
目を細める二人、電気の点いていない廊下の奥から聞こえるブーツの音に妙な寒気を感じたのは
シャーリーンは自分を抱きしめるように腕を押さえた。



「ガイヤール!!アイチ殿!!」
痛む身体を引きずってようやく到着したネーヴが見たのは、床に倒れているアイチと
まるで小さな子供のように「ごめんなさい」と謝り続けるガイヤール。

(間に合わなかった・・・・!!)
すでにファイトはガイヤールの勝利となり、ジャッジメントをアイチにぶつけた後だった。
服のあちらこちらが焦げているのが、その証拠だが二人に近づこうとするが足がよろめき、倒れそうになったが。


「危ない!!」
ナオキの声がするとの同時に、体が床にぶつかることなかった、それは私服姿のナオキとカムイだった、両脇からネーヴを支えていた。

「アイチ!」
「しっかりしろ!アイチ!」

ミサキと櫂、三和が横たわるアイチに呼びかけるが反応はない。
ただ泣き崩れるガイヤール、微動だにしないアイチにただ事ではないのはすぐにわかった。

「おい!!何があった!」
三和がガイヤールに詰め寄ると泣き腫らした目で「僕のせいだ、僕のせいで・・・」と繰り返すばかり。
どうしたのはわからないが、予想するとガイヤールはアイチにジャッジメントを与えてしまったらしい。

ミサキと櫂が何度も呼びかけるが、反応はない。
顔色は次第に悪くなり、まるで死後硬直でも始まろうとしているかのようだ。


「お前達、・・・どうして俺を助けた?俺はお前達に・・・」
一方的にプリズンの中に押し入れて、傷つけた。
何の説明もなく、櫂に関わる人間というだけで、まるで罪人扱いのように倒れそうになった彼をどうして支えたのかとネーヴは苦しそうに言う。

「そんなの関係ねーよ。誰かが転びそうになったら助けるに決まっているだろ?」
「ああ、危ないって思ったら自然に体も動いたし、当然だろ?」

偽りなどではない、当たり前のことだろうとまっすぐな本音を口にする。
それを聞いたネーヴは自分は彼らに負けたのだと、悟る。

ファイトせずして、ファイターとしても人としても負けたのだ。

「僕の・・・せいだ・・・・僕のせいでアイチさんはっ・・・・」
小さな子供のようにガイヤールは泣いていた、体に受けた傷から櫂と同じくガイヤールのジャッジメントを喰らったらしいが
どうして守るべくアイチにそれを与える必要だかある。

「ガイヤールは・・・操れていたんだ。ラウル・セラに・・だから櫂トシキがアイチ殿に見えていて、それがわからずに」
ネーヴが無事で、どうしてアイチが真っ青な顔をして倒れているかわからない。
ミサキは震える手で脈と心音を確認すると、目を見開いた。


「アイチ・・・息・・・してない・・心臓も・・・・動いて・・・な・・・」

ガタガタと真っ青な顔をしているミサキ。
ネーヴが床に座るとナオキ達もすぐにアイチのところへ駆け寄っていく。

ずっと泣いていてガイヤールに一言言ってやろうと櫂だが、それよりも先に動いたのは三和だった。
温厚な彼がガイヤールの胸倉を掴んで、眉間に皺を寄せて怒っている。

「おい!!お前!どうして幻になんて惑わされたんだ、アイチみたいなちっせー奴が喰らえばどうなるかもわからないで他人を裁いてたのかよ!!

どうして守りたいと言っていた奴に、こんなことした!!」

怒りで胸倉を持つ手が震えている。
井崎達やカムイとコンビニに立ち寄った時、皆は腹に溜まるものを食べていたのにアイチだけは飲み物だけで

夏にはクーラーの風で夏風邪を引いて長袖を着て森川達に笑われていた。

そんなに弱かったのに、心が強くても体がいつも弱くて年上の三和や櫂が守らないといけなかったのに
本当はそんな弱いアイチに櫂を救ってもらっていた、三和もアイチが慕ってくれてとっても嬉しかったのに。

あんなにも偉そうに言っていたのに、口だけかと怒りの表情でガイヤールを見た。

「・・・・・僕はっ・・・」
ガイヤールは言葉に詰まり、悲しそうに顔を歪ませているだけ。
三和の怒りにナオキやカムイは動けず、櫂も固まっていたが。


「やめな!!アンタ達!!」
ミサキの悲痛な声に、三和も我に返る。


「アイチが・・・・静かに眠れないでしょうが・・・・っ!!」
こんなに安らかな顔をして、いつだって困り顔で泣きそうな顔をしていたことがアイチが多かったと記憶している。
そのアイチはようやく解放されてこんなに穏やかな顔をして眠っていた。

涙を流すミサキに、三和もガイヤールから手を放す。
ナオキも拳を床にたたきつけて「ちくしょうっ!!」と怒りをぶつけた、カムイも床に座り込んで泣いている。

(・・・・こんなになるまで、悩んでいたんだな)
櫂はアイチの頬をなぞるように触れた、泊まりに来た時はもっとふっくらしていたのに
今は痩せていて触れるとわかるが骨が指の皮膚に触れ、とても疲れたような感じがしていた、ここまで櫂はアイチを追い詰めていた。

激しい後悔が櫂も涙を流しそうになると。






「これは、感動的なシーンのようですね」





セラの声に全員が振り向いた。
手を後ろに回して優雅な姿勢で立つ、この一件を仕組んだセラ。

アイチを守るようしてミサキは寄り添うように座り込んだまま、三和は立ち上がり彼らの前に立つ。
ガイヤールも涙を拭いてデッキを手にする。

「おやおや、ガイヤールは正気に戻ったようですね・・アイチ様の最後の力でしょう。
ですが貴方達も後ろの二人のようになるのですよ」

セラの後ろを追いかけるようにして傷だらけのレンとレオンが現れる。
レンはテツに支えられ、レオンは双子に支えられている、セラに敗北し、ジャッジメントにやられたようだ。

「レオン、レン!」
櫂が二人の名を叫ぶ。

「すいません・・・やられちゃいました」
「すまないっ・・。俺達で倒したかったが・・・予想以上にヴォイドの力を得ているようだ」

ポウッとセラが手の中にはシードらしい紫の欠片が3つ。
真実を知るネーヴは、残る一つを持つラティがセラに負けてシードを奪われたことに気付いた。

そして残るシード、ガイヤールの分を回収するために現れたのだ。

「さてとガイヤール、貴方の持つシードを渡してもらいましょうか?対戦相手を閉じ込めるプリズンの力。
敗者に罰を、その力はヴォイドから私が与えられた力なのですから」

「!!」
その言葉にガイヤールの目は見開いた。
憎んでいたモノと同じ力を使い、騎士になった気でいた挙句にアイチを殺したのだ。

「僕は・・・アイチさんをっ・・・・!」
「いいえ、アイチ様は生きています。ただ、その心は私が持っているというだけです」

胸に手を触れるセラ、体を守るように丸くして眠っている精神体のアイチ。
外見は余裕に笑ってはいるが、アイチの忠実なる騎士ブラスター・ブレードがセラから守ってくれており
セラの中では、ヴォイドの不気味な黒い手から、たった一人でも剣を手に黒い手を断ち切っているブラスター・ブレードは
アイチの魂の前に立っていた。

(まさか、此処までクレイの戦士に忠誠を尽くされているとは)
クレイを二度も救っただけではない。
当初のセラの計画では、ガイヤールと同じくアイチを操り、この場にいる全員を倒したかった。

(仕方がありません、ですが・・・アイチ様。貴方がますます欲しくなった!!)

もう隠す必要はないのだと、セラから黒いオーラ―が流れ出てくる。

寒くもないのにナオキは背筋が凍るような嫌な気分になる、着ていた上着をアイチの頭が痛くないように枕に
三和と櫂も同じようにしてかけてあげた。

「リンクジョーカーだと、お前・・・その力はアイチお兄さんがっ!!」
あの巨大なリングと共に、クランそのものが消えたはず。
カムイはそう思っていた、彼だけではない三和やミサキ・・・立凪ビルにいた全員がそうだと。


「ええ、そうです・・・せっかくのクランだったのに残念だと常々思っていました」
あれはいつものようにファイトを勝利した夜のことだった。

ワイン片手にデッキを見ていた、負に属するのならシャドウパラディンやダークイレギュラーズでもいいはずだと
普通なら考えるがセラはリンクジョーカーが使ってみたかったが、もう手にすることはできないかと思い更けている時だった。


『ならば、その力・・・授けよう』
「・・・何者です?」

姿見の鏡が歪むと鏡は真っ黒に染まり、黒いリングが現れる。
ソファーから立ち上がるとセラは鏡の方へと向かう、すると一つのデッキが鏡から出てくる、それはリンクジョーカーのデッキだった。

『敗者には、相応の罰を与えるジャッジメントの力を持つ、シードも授けよう。ただし・・・こちらの願いを聞いてくれるのならな』
虚無の願い、それは計画の邪魔となる先導アイチ。
己を利用した櫂トシキの抹殺、そのために敗者となれば死にかねない制裁を下す力をくれたのだ。


『そうだ、なのに貴様は先導アイチを殺さずに、己の中に生かしている』
現れたのはヴォイド、落ちていた女性用のコンパクトを通じて、セラの姿を借りている。
どよめく櫂達、実際に見たことがあるのはレオンと櫂以外では初めてだったからだ。

「アイチ様は私のカトルナイツ、いいえ・・・私の主となられるお方です。あれほど力・・・殺して消すには惜しいです」
微笑するセラ、足元をふらつかせながらラティは意識が回復するとどうにかアイチ達が見えるところまで追いついてきた。
壁を伝いながらでなければ、歩くことすらできないでいる。

「貴方達のように使えないカトルナイツなど必要ない、そもそもシードを体内で宿す条件だけで選んだのですから」
「なんだとっ・・・!」
ネーヴは声を上げた、条件の一つとして櫂トシキに恨みがある人間。
ガイヤールは家族を、ネーヴは国を乱され、ラティも人生が狂わされた。

さらにもう一つシードの栄養となる『憎悪』『嫉妬』『無知』といった負の感情は十分にあった。
カトルナイツは実力で選ばれたのではない、『シードの苗床』としてある意味櫂に近い狂気を心の奥にある者をセラは選んだ。

「アイチ様一人いれば、虚無も手が出ない。その間にアイチ様が優秀なファイターを集めばいい」
地位や金でしか人を動かすことができないセラだが、アイチは力で屈服せずしてガイヤール・ラティの心を動かし
頭の固いネーヴも、引き入れさせた。

「・・・元々、貴方だって私を利用しようとしてくせに・・」
『ぐっ・・・!』
そうやって手足となる兵士、ファイターを増やせばいい。
用は済んだと鏡を踏みつけると、ヴォイドの声は聞こえなくなった。

「残るのはオリビエ・ガイヤール、貴方の持つシードのみ、さぁ・・・返していただきましょうか」
「ふざけるな!!お前などに返すぐらいなら、僕の体ごとシードを燃やしてやる!だが・・・その前に

ラウル・セラ!お前を倒す!」

両手の中指に嵌められた指輪から青い炎が生まれ、座り込んでいたガイヤールは立ち上がり
プリズンを広げる体制に入るが、セラは止めもせずに余裕で立ったままだ。

「待て!!明らかに罠だ!」
「お前が負けたら、セラにシードが渡ってしまうんだぞ!」
ネーヴと櫂が止めるように声を出した、レオンとレンが負けたのも気になる。
PSYクオリアを持つ二人がやられるほどの何かをセラは持っている、しかしガイヤールは止まらない。

「ガイヤール!」
「・・・・たとえ、僕が間違っているとわかっていても・・お前の力なんて借りたくない!」

櫂を見ないようにガイヤールは言った、強く握るその手は震えていた。
知らないこととはいえ、ヴォイドの力を使い、幻に惑わされてアイチを殺しかけたが

アイチを助けるのに憎んでいる櫂の言うことも力も借りたくなんてない。
それはガイヤールの最後の意地だった。


(アイチさん、今だけ・・・貴方を助ける間だけ貴方の騎士でいさせてください)
横になっているアイチを悲しそうに顔を歪ませて見たが、前を向き直すと目には力が籠っていた。

セラに汚れなき魂を奪われてしまった、まるで死んでも尚、その姿を永久に神の力で生かしているかのように言われる不朽体のよう。


「永久に揺らめく、聖なる青き炎よ。全てを焼きつくし、燃えさかれ!ホーリー・プロミネンス・プリズン!!」
櫂が見た時と同じように、青い炎が空間いっぱいに広がっていく。
これが解除されるのは、ファイトの勝敗が決まった時。

「デッキを取れ!!セラ!!」
腕を後ろに組んだまま、動かないセラ。
口元が弧を描き、ガイヤールを明らかに馬鹿にしているようだった。

「真の牢獄を見せてあげましょう。闇をも喰う虚無よ、光すらも輝けぬ色に染めよ!!ロードオブ・オメガ・プリズン!」
胸のブローチから赤く輝くリンクが一つ生まれるとそれは大きく広がり、ガイヤールの青い炎をかき消してしまう。
プリズンを上書きされ、ガイヤールは驚きのあまり言葉を失った。

「ばかなっ・・・ガイヤールのプリズンが!」
ネーヴが見上げた真上の広がる空間は、リンクジョーカーとのファイト時に見えていた星空。
地面は崩壊した建物で生物は生息していない死の惑星のようだ。

「これがシードの真の力ですよ」
「・・・くっ!!スタンドアップ・ル・ヴァンガード!」

相手のペースに載せられてはいけないと、ガイヤールはファーストヴァンガードをコール。
セラはやはりというべきかリンクジョーカーのユニットをコールしてきた。

ファイトが始まっては、もう見ているしかなくなったが
ミサキは人の気配がし、振り向くとそこには傷だらけのラティが立っていた。

「アイチ・・・君・・・」
横になったまま動こうともしないアイチ、セラの言っていたことは本当だったのか?
アイチも実はクレイの幻想かと、頭の中で便利に現実を片づけようと思考が働く、アイチに近づこうとしたラティが足元が躓いて転ぶ。

「いた・・・・痛い・・?」
膝が擦りむいて血が流れる、これは現実、イメージではない。
セラの言っていたことも、全部本当だと心が受け入れきれないでいると心配そうにミサキが近づいてくる。

「ラティ、大丈夫?傷・・・痛い」
ポケットからハンカチを取り出して、膝に当てる。
身体も傷だらけで平気かと心配し話しかけていたミサキだが、敗北したミサキにジャッジメントした時の自分はどうだったろうか?

見下ろして、笑っていた。
傷ついて動けないミサキを、友達を心配していたミサキに酷いことを沢山言った。

「私・・・・私はっ・・・なんてことをっ・・・・!」
涙が溢れて止まらない、ミサキは突然ラティに泣かれて混乱している。
三和の傍には倒れているアイチ、友達として悩みがあるのか?と話を聞いていれば最悪の事態は避けられたはずなのに。

「アイチ君・・・アイチ君・・・目を開けて・・・!」
歩く力もなく、泣きながら四つん這いになりながらアイチに近づいていく。
触れたアイチの身体は冷たい、いつも太陽のように温かったはずなのに。

(クレイの皆、どうしてっ!アイチ君を助けてくれなかったの?)
一瞬クレイを恨みそうになったが、それは責任の転換だ。
何もしなかった自分が一番悪いのに。

いくら後悔もしても、何をしてももう手遅れだ。


「ごめんなさい、アイチ君。私・・・アイチ君にもらってばかりで・・・何も・・返せなくて・・!!」

年相応の声を出して、泣いているラティ。
その声はあまりにも悲しく、近くにいたミサキはラティを後ろから抱きしめて慰める。

近くにいた三和達も、ただ見ていることしかできなかった。








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