ユーロサーキットが開催される予定だったが、リンクジョーカー事件のせいで開催は延期、未定となった。
大きめの茶色のカバンを持ち、フランスを立つ前に孤児院に立ち寄る。

「行ってくる・・・」
子供達には、カトルナイツの一人となり全ての元凶、櫂トシキに罰を与えに行くなどととはいえず、悲しい別れだった。
玄関まで見送りに来てくれていた子供達も、何かを訴えるような目でガイヤールを見ている。

(絶対に、仇を取ってくるから)
櫂を子供達が傷ついた痛みの何倍も与えれば、きっと子供達の立ち直れる。
加害者が被害者以上の苦しみを味わせることを、被害者の誰もが望む、そうでなければ加害者への憎しみなど消えないからだ。

いつもなら、興味津々に近づいてくる子供達は一線ガイヤールとの距離を置いているのが悲しくて
子供達の顔をあまり見ないようにして、静かにガイヤールは扉を閉めた。





「ライド!曇天の解放者 ゲライント!」
ヴァンガードには誓いの解放者 アグロヴァル。
右にはゲラント、左にはエスクラドが立っている、セラのユニットのブーストをし、アタックを仕掛ける。

「よしっ!セラの野郎にダメージ4枚目だぜ」
嬉しそうにナオキはガイヤールの優勢を喜んでいた、レオンもレンも倒れ
悔しいがこの中でセラと対抗できるのは、やはりガイヤールしかいない。

ネーヴも、純粋に喜びたいところだが、気になることがあった。

「さすがですね、貴方と私の実力はほぼ互角・・・・そう、昔はね」
「なんだと・・・・」
フランスではヴァンガードの天賦の才を持ち、最年少でヨーロッパサーキットのチャンピョンにも輝き
同等の力を持つガイヤールだが、敵に回すと面倒かとも思っていたが彼には決定的な弱点があることを身辺を調べているうちにわかった。

「私のターンですね、ドロー・・・、黒より黒き混沌!破壊の本能に従い、滅亡への時の声を上げよ!ライド、星輝兵 ダークゾディアック!」

茨のようなリングを背にして現れた禍々しいユニット。
このユニットにラティもやられたのだと、無意識に手が震える。

しかし、ガイヤールにも威圧感は感じているのに自分とさほど背も変わらない彼は怯むことなくまっすぐと見据えている。
恐怖のイメージは流れているはずだというのに、ラティは少しガイヤールの印象が変わった。
彼は歳が近いながらに、恐怖と向き合い、戦える意志の強い人間ではないのかと。


「来い、罪深き者よ、シークメイト!・・・・レギオン!!」
相手のグレード2、星輝兵 アストロリーパー が山札よりコールされる。
まだガイヤールはレギオンがしておらず、次のターンまでガードして持ちこたえるしかない。

「レギオンスキル発動!グレンディオスの力よ、今再び!オメガロック!」
「・・・グレンディオス」
櫂はその名に聞き覚えがあった、エージェントに体を乗っ取られたタクトが使っていたのも確か、同じ名前のユニットだ。
セラはその力すらも使って、世界を本気で手にしようとしているのかと見つめる。

「虚無より生まれし虚無よ、あまねく光を消し去り、漆黒の静寂を奏でよ!レギオンアタック!」
「完全ガード!」
光輪の解放者 マルクが現れると、金色のシールドを貼り、アタックを防ぐ。
幸いにもクルティカルトリガーは出ていない、リアガードが最後に削られたが、ガイヤールもヴァンガードにプロミネンスグレアがライドされている。

次のターンで一気にセラにダメージを与えれば、ガイヤールは勝てる。

「そういえば、貴方にはついても調べましたよ、オリヴエ・ガイヤール。火事で両親とそれまでの生きた記憶を失ったと」
「それがどうした、関係ないだろう?このファイトには!僕のターンだ・・・ドロー、そしてシークメイト・ル・レギオン!」

今は孤児なのも、サーキットのチャンピョンなのも関係ない。
アイチを助けるただ一人の騎士だ、そんなガイヤールをセラは嘲笑う。

「貴方の家族がリンクジョーカーの侵略によって傷ついた、と・・・聞きましたが本当に櫂トシキが元凶なんでしょうか・」
考えもしなかった、信念を揺らがす思考の言葉。
深く考えらおしまいだと振り切るように、ブーストしパワー14000となった矜恃の解放者 エリドゥルスでセラのリアガードをドロップゾーンへ落とす。

「青き炎は、青き炎によって、さらなる青き爆炎となる!エクスプロージョン・ブルー!」
レギオンスキルを発動、カウンタープラストによりクルティカル+1グレード1以上のユニットのコールができなくなる。
つまりグレード2以上でなれば、ユニットはコールできない。

「これで、お前のコールできるユニットは限られる!行くぞ!」
背後のプロミネンスグレアがゆっくりと立ち上がり、ガイヤールの背後を青く輝かせる。
カムイ達もこれでガイヤールは勝ったと、アイチの魂は返せると勝利は決まったと喜んでいたがネーヴは表情一つ変えずにいた。

「おかしい・・」
「どういうことだ、あいつはグレード1以上のユニットをそう都合よく山札から出すのか?」
そんなことはありえないと、三和は言う。
以前関わって知識を得たPSYクオリアでも、展開の未来を読むようなものだったし、もしもそんなとこが可能なら最初から勝負ならない。

「いいや、ありえる。あのセラという男は・・・・」
レオンは双子に支えられながら、三和達の後ろに回っている。
まさか!と三和はガイヤール達を見た。

「大切なご家族がリンクジョーカーのリバース化の後遺症で苦しんでいると。
あんなに大好きだったカードファイトができなくなっている櫂トシキが許せない、真っ当な正当性のある動機で」

ガイヤールが櫂を恨む理由を聞き、櫂は眉間に深く皺を寄せた。
大好きなヴァンガ―ドができなくなる苦痛などイメージ以上の苦しみだ、それを彼らは味わっているのなら櫂は何も言い訳できない。

「ですが、本当に櫂トシキが事件に巻き込まれた原因でしょうか?
よく考えてみなさい、最初にヴァンガードを広めたのは


誰でしょうね?」


貴方ですよ、ガイヤール。


手札を持つ手すらも震える、ガイヤールが皆にも楽しんでもらおうと送ったヴァンガード。

子供達はとても楽しくファイトをしていて、部屋の隅にいた子供もいつの間にか混ざって遊んでいた。
でも、本当はガイヤールに気を使ってヴァンガードをしていたのだとしたら?

他の遊びだってしたいのに、ガイヤールがせっかく買ってきたプレゼントを無駄にしてしまうのだと


本当は楽しんでなんていないのだとしたらと、そんな疑念が、渦巻く。


「違うっ!僕は・・・昔の僕みたいに立ち直って欲しかっただけでっ・・・」
「貴方がそうだからと言って、他人に同じ方法が通じるとでも?・・・だってリバースされてもファイトしている人はいるのに
本当は口実にして、ヴァンガードをしたくないだけじゃないんですか?」

必死にセラの言葉を心に入れないようにする。
今はファイトに集中しなければ、アイチを助けると決意したのに、本当は櫂と同様にガイヤールも加害者なのではないか?

(そうだ・・・だとしたら、僕に誰も裁く資格などないはずだ!)
森川も、井崎もマークも・・・櫂も。
正義の味方の騎士どころか、冤罪で人を罰した騎士そのものではないか。

「オリビエ・ガイヤール!!」
レオンが名前を呼ぶが声が届いていない、疑念の渦の中にいるガイヤールの前にイメージの子供達が現れる。
いつの間にか一人、薄暗い空間に彼はいた。

『私、ボール遊びしたかったのにガイヤールお兄ちゃんがヴァンガードしようっていうから』
『別に好きだったわけじゃないのに、いい迷惑だよ』
『カードゲームなんて、外で遊べない時でもいいじゃないか?』

目は見開いて後ろを振り向けば、ヴァンガードを控えるように言った職員達。
彼らも軽蔑のまなざしでガイヤールを見つめている。

『いい迷惑だわ、子供達の将来に心の傷を作るなんて』
『両親を失って可哀想な子だって、同情したらいい気になっちゃって』

首を左右に振りながら、ガイヤールは苦しそうな顔をしている。
身内だった彼らに耐えられず、座り込むガイヤール。

「違う!僕はただ・・・・ただ・・・・---!」
「音もなく切り裂く漆黒の剣よ。 空間のみならず、時をも無に返せ。星輝兵 ソードヴァイパー、レギオン!」
ダークゾディアックから繋ぐ形で、別のユニットをコールし、レギオンを発動。
凶爪の星輝兵ニオブにより、リアガードをロックされ、ロックしたことによりパワープラス2000、反対のリアガードを倒れてしまう。

「しまっ・・・!」
「そして、音もなく切り裂く漆黒の剣よ。 空間のみならず、時をも無に返せ!星輝兵 ソードヴァイパー」
二体目のレギオンをしたセラ。
対戦しているわけではないのに、イメージだけでも感じる虚無の力。
あんなものを手にして、強くなっていた気でいてガイヤールの身内までも傷つけていたのかもと櫂は目を細める。

「時間も空間も無い漆黒の闇よ、夢幻の中で永遠に彷徨え!レギオンアタック!」
「これ以上のダメージは、ガード!」
ガード数10000のカードを3枚出して守り切る。
トリガーをゆっくりとじらすようにチェックするセラ、一枚目はトリガーなし、二枚目はクルティカルトリガーをゲット。

「危なかったですね、二枚ともトリガーが出ていたら負けてましたよ・・でも」
ヴァンガードのアタックは防げ、リアガードがアタックしてもダメージ数は増えない。
気にし過ぎかとネーヴは内心ホッとしていたが、近くにいたレンが「まだだ!」と珍しく声を荒げる。

セラのリアガードのアタックも終了し、次はガイヤールのターンが来るとばかり思っていたが。

「これが究極にして、終極の踊り。カース・ダンス・リザレクション!」
レギオンスキルを使い、攻撃が終わったはずのユニット達が立ち上がる。

「そんなっ・・・・スタンドしたなんて・・・!」
ミサキは再び立ち上がった、セラのユニットに驚きを隠せない。
この状況でスタンドされたらガイヤールは、もう守り切れない、彼の手札は・・・・---もう2枚しかない。

「まずはヴァンガードに二オブがアタックです」
リアガードがいない、レギオンしたプロミネンスグレアとアグロヴァルしかいない。
復讐の理由を失い・・・たった一人、まるで今のガイヤールのように。




「ファイナルアタック。時間も空間も無い漆黒の闇よ、夢幻の中で永遠に彷徨え!レギオンアタック」
「僕は、負けない!!・・・・完全ガード!」



最後の防衛、完全ガードのマルク。
しかし、トリガーが出れば負けだ、必死にナオキはトリガー出るなと祈る。

「アイチ・・・頼む!ガイヤールを助けてやってきくれ・・・!」
ずっとアイチを優しさで羽交い絞めにして閉じ込めていたガイヤールだが、今は彼を応援したいと
仮死状態のアイチを思い浮かべつつ、ナオキは手を合わせて必死に祈った。

「ガイヤール・・・」
櫂は、過ちに気付きながらもアイチだけは守ろうとしている彼に自分にないものを感じた。
あんな風にまっすぐに純粋なガイヤールだから、アイチは本当のことを言えなかったのだろう。


(俺がアイチ殿なら、言えるはずがない・・・!!)
制裁のために使っていた力が憎んでいたのと根元が同じなどと。


「では運命のドライブトリガー、チェックと行きましょう・・」


一枚目を見せた瞬間、カードはクルティカルトリガーが出た時の金色の光が現れた。
星輝兵スパークドールが輝いていた。

「そんなっ・・・・」
「残念、でしたね・・・・ガイヤール。二枚目も、ゲット、・・・・・クルティカルトリガー」

ガイヤールも山札のカードを操作するシードを持っていた、しかしシード3つを持っているセラには及ばない。
勝敗は決し、苦しそうに悲鳴を上げて消えていくガイヤールのレギオン、プロミネンスグレアの胸にヴェノムダンサー の鋭い爪が突き刺さる。

「うわぁぁぁっ!!」
プロミネンスグレアの痛みがリアルにガイヤールにも通じてくる。
肩を上下させるほど荒く息をして、胸を押さえるているとダメージゾーンに置かれたカード達が黒い炎に包まれていく。

「まずい!!」
櫂達が止めに入ろとしたが間に合わない。


「星をも砕き、静寂と無の審判を受けよ!!ジャッジメント!!」
「・・・・・っ!!」

赤い刃がガイヤールに突き刺さり、身体中を傷つける。
両手の中指に嵌められた指輪は砕け、灰のように消えていく。

あまりにも酷い仕打ちに同じことをしたであろう、ラティ達は人にこんなことをしていたと初めて気づき
息を飲んだまま、固まり・・ネーヴも同様の反応をしていた。

「「ガイヤール!!」」
そのまま床に倒れるガイヤールに駆け寄っていくと、彼の身体からシードらしい紫の種が出ていく。
光を失った瞳は閉じかけられていて、必死にネーヴが呼びかける。

「すまない・・・・僕は・・・」
「お前はっ・・・精一杯やった!!やったんだ!!」
いつもガイヤールの暴走しがちな行動を付き合ってくれたネーヴが、あんなに必死に。
真剣みの欠けているラティも「そうだよ!!ガイヤールは頑張った!」と真面目な顔で言ってくれた。

そのままガイヤールは気を失ってしまう。

「これで・・・シードは全て揃った!では・・・アイチ様、今迎えに行きますよ」
シードを体内に全ていれると、一つの形へと戻っていく。
あれが本来のシードの形、いくらファイターとして強かろうとも状況に合わせて山札から操作されては勝てるはずがない。

「貴様!!ヴァンガードを侮辱しているのか!!恥を知れ!!」
「そうよっ・・あんたがやっていることは、イカサマよ!!」
いつも冷静なはずのテツが声を荒げて怒っている、アサカもこんなのはファイトでもなんでもないという。
そう言ってもセラの歩みは止まらない、守るようして前に出るナオキとカムイ、ミサキもアイチの体を抱きしめてセラを睨む。

「おやめなさい。こんなに数だけのファイターが揃っていても、誰も私には勝てないのですから、ネットを使って真実を流しても残った貴方達であっても・・」
「てめぇか!!あんな卑劣な書き込みをしたのは!!」

まるで一斉に拡散されたようだとマキは言っていた。
あの情報で我が身を優先し、櫂から人を遠ざけ、残った真の友人達をガイヤール達が倒していく。

最終的に、櫂は孤立無縁となるように仕向けたのだ。
一応、ヴォイドの要求には従うフリをして。


高らかに見下ろすように、始めから勝敗が決まっていると言うが反論できない。
ファイトを挑んでも卑怯な方法で負けるのは目に見ている、ガイヤールように。

レンもレオンもやられ、ガイヤールさえも倒れた。
もうダメだと、三和は固く目を閉じていたが彼の肩を軽く叩いた男がいた。


「アイチを頼む」
「・・・・お・・・おい」


そしてカムイ達の前に、まるで皆を守るように立ったのは櫂だった。





「俺が相手だ、ラウル・セラ」




手にしていたのは、皆で協力して作った新たなかげろうデッキだ。

















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