「私の勝ちです、敗者には相応の罰を」
南米の大地主の家系に生まれた名家出身のセラ。
裕福な富を持つが故に、常に財産の争いが絶えずにいた。

それらを簡単にかつ、単純に解決できる方法としてヴァンガードでの勝負で決着をつけていた。
腹違いの兄がファイトを挑んできたが、セラはラウル一族の中で最強のヴァンガードファイターと知られた男。

窓から見えるのは、モレスの命の下に執事達数人で屋敷の外から異母兄を追い出すところだ。
地位も家も敗者は失う、それが父の・・・一族の教え。

「暇つぶしに出た、南米サーキットも手ごたえのある相手はいませんでしたし・・・退屈です」

一人掛け用の大きなソファーに腰かけるセラ。
血を彷彿させ、ファイト一色に思考させるような経験は幼い頃、数回だけだった。

練習相手に雇ったファイターではまったく相手にもならず、そろそろクビにでもしようかとテレビのスイッチを入れる。

『それでは、アジアサーキットのチャンピョンとなったチームQ4の主将・先導アイチ選手にインタビューをしてみたいと思います』

偶然つけたテレビには、まだ幼い面影のあるアイチが
頬を染めて照れたようにして、記者のインタビューに応じていた。








アイチを我が物にしようとするセラの前に立ちはだかるのは、櫂だ。
ミサキはアイチを胸に抱き寄せ、セラから守ろうとしていたがミサキは顔を上げて櫂を見た。

「貴方が?ガイヤールにも無様に敗北した貴方が、私に勝てるでも」
「ああ」

はっきりとした口調で、セラに勝つと言った櫂。
気にくわないとセラは下唇を噛む。

「馬鹿よせっ!!ガイヤールだって勝てなかったんだぞ!!」
此処はアイチを守りつつ、一時撤退するべきだとカムイは考えていた。
しかし、櫂はそれができるほどセラは甘くない、まだ隠れている傭兵のファイターだっているかもしれない。

「俺は勝つと言っておきながら、あっけなく敗北をした。カムイの言うこともわかる、だがな・・・
此処までヴァンガードを侮辱するようなファイトを見せられて黙っていられるか!」

PSYクオリアを否定したのは、試合展開の流れを読む・・不思議な力に頼ること。
シードの力も同じだが、PSYクオリア以上に悪質な力だ。

「まぁ、いいでしょう。
ヴォイドからは貴方も始末するように言われていますし、アイチ様を手に入れるには貴方は一番の障害ですから」
デッキを構えるセラ、すると櫂は口元に笑みを浮かべる。


「安心した、お前が心底腐りきった屑野郎だということが。安心して燃やせる」
余裕の笑みでいたセラだったが、ガイヤール戦でも見せなかった怒りの感情を一瞬浮かべる。





「星を喰らい、命を奪い!闇をも喰う虚無よ、光すらも輝けぬ漆黒に染めよ!!ロードオブ・オメガ・プリズン!」
先ほどと同じ空間が広がっていく、虚無に喰われた惑星の成れの果てをイメージした空間。
櫂は敗者に与えられる、強力なジャッジメントを目にしておきながらもいつもと同じ様子でいたが、三和は気づいた。

(なんか・・いつもと違う?)
セラに対しても怒っているわけでもない、以前のように弱者と戦う価値などないという姿勢でもなく
付き合いの長い三和でも、あんな風にファイトに臨む櫂を見るのは初めてだった。


「「スタンドアップ!〈ザ〉ヴァンガード!」」

セラのファーストヴァンガードは真剣の星輝兵 セレン。
対する櫂のファーストヴァンガードはかげろう、煉獄竜騎士 サハルだ。

自信を持って出てくれば、ファーストヴァンガードをコールすればただのかげろうユニット。
警戒して損をしたとセラは力を使うまでもないと、櫂をつぶしにかかる。

「ライド、ドラゴンナイト レザー!・・続けてコール!」
後列のサークルにもユニットを展開。
ヴァンガードには煉獄竜 メナスレーザー・ドラゴンのアタックは、後列の煉獄武僧 ハッカイのブーストによりパワープラス7000。

二枚のカードがダメージゾーンへと落ちていく。
しかし、誰もそのことに喜びはしない、山札を操作してトリガーを引き寄せられる可能性があるからだ。

「くそっ・・・」
「レオン様・・」
悔しそうに声を出すレオンに、ジリアン達が心配する。
傷が痛みのだろうかとすぐに手当てした方がいいと言ったが、すぐにでもアイチ達のところに行くと聞かなかった。

紫の瞳に映るのは、ミサキが守るように抱きしめられているアイチ。

(すまない・・・先導っ・・!!俺はお前を助けられなかった)
苦しそうに目を固く瞑るレオン。


アイチに内緒でレンとクリス、レオンで例の計画を進めていく中で、アイチに厳しさを持てと再度追求している姿を見たクリスが言ったことがきっかけだった。

「もしかして、レオン。君・・いつもそんなことをアイチに言っているの?」
「ああ、あんな奴に同情していたら他の人間も危害が及ばないかねないだろう」

戸惑ったようにクリスはレオンの返答を聞いていた。
レンも止める様子無い、彼もアイチに対して厳しい言葉は発しないが考えがまったく見えない。

「君達は・・・いじめられたり、悪意をぶつけられたことがないのかい?」

その言葉に二人の表情は変わった。
アイチがカトルナイツを平和的にやめるようにいうのも少しわかる、アイチは昔、傷つけられ過去があると
休みを利用してカードキャピタルに行った時に、始めたばかりのナオキから少しだけ聞いたことがあった。

レンは天然さで、誰からも悪意などぶつけられた経験はなく
レオンは島で暮らしていたこともあり、ジリアン・シャーリーン以外歳の近い子は一人もいなかった。

だから、わからないのだ・・・いじめられた傷が。

クリスは幼い頃からヴァンガードの才能が認めれ、SITにもスキップして入学できたが当初は大変だった。
周りは大人だらけで「年下のくせに生意気だ」「もっと年上を敬え」と言った視線だらけでリーとアリに会うまでは心細い日々が多かった。

だから、両者の間に揺らぐアイチの気持ちが少しだけわかる。
恐らくレンとレオンよりも、片目を開けてレンはクリスと話すレオンを見ていた


「レオン、君のいうことは正しい。でも正しいだけでは人は救えやしない。
それにアイチは君を厳しさで救ったのかい?大切なデッキを奪った君だ、糾弾する資格はあったのに慈愛と優しさで君を救ったんじゃないのか?」


あの最終決戦をクリスは見ていた、レンも目を細めてレオン達を見ている。
厳しい言葉で倒すことは簡単だ、でもアイチは彼らが傷ついたからこそ櫂に復讐しようとしている。

でも、復讐よりも大切なものがあるのだと気づかせるために皆の反対を押し切ってあそこにいるんじゃないのか?

「それにさ、君・・・アイチの友達なんだよね?
会うたびに厳しいことばっかり言うのは友達じゃないよ、友達っていうのは」

悩みを相談して、一緒に悩んで考えて
困っていたら助けて、自分も困っていたら助けてくれて

一緒に仲良く笑い合ってファイトできる関係だよ?


(俺は・・・先導の力にも何もしてやれなかった!恩があったのに返しもしないでいつもっ・・・)
思い返せば確かにそうだ、クリスの言葉に反論はできない。
島では双子達以外人間はいなかったから、人との付き合い方に戸惑うこともある。

周りが穏やかな人間ばかりだというのもあったのかもしれない。

「頼むっ!・・・櫂。先導を・・・アイチを助けてやってくれ!」
そしたら、今度は人にも優しくできるようにしたい
厳しくするのは自分だけでいい、本当の友達にレオンはアイチとなりたい。

苦しそうな表情で、櫂に背中をレオンは見つめていた。






クリスは目を閉じて、意識を日本へと飛ばしていた。
暫くしてゆっくりと瞼を開けると、一時間も目を閉じていたことにアリ達が心配していたのか、目を開いたらすぐ前に彼らが立っている。

「・・・オリビエ・ガイヤールが敗れて、今・・・櫂トシキがラウル・セラとファイトしている」
「それでっ・・・勝てそうなのか?」
わからないとクリスは首を振る、心配そうに全国大会やアジアサーキットに参加していたファイター達もざわめく。
彼らも無償でクリス達の考えに自然と賛同し、集まってきてくれた。中にはチームフレグランスやチームラウもいる。

動き出したアイチも、シードの力に我を失ったガイヤールに敗れ、カトルナイツはセラを残し、全滅。
レンもレオンも倒された今、あの場にいるファイターでは歯が立てない。

「くそっ!!今から助けに行こう!!」
ジュラシック・アーミーの龍堂が提案すると、俺達もいくぞ!と皆が声を上げたがそれでは間に合わない。
到着した頃にはセラはアイチを連れて、おそらく南米に戻っているころだ、敵の本拠地に真正面からの衝突はいくら味方がいても足りない。

「ダメだよ・・まだスターゲートから光定達が戻ってきていない。ウルトラレアの三人からの連絡がない以上は」
出口へ向かおうとする龍堂達にクリスは動くべき時ではないと止める。
また、セラからファイターが差し向けられかねないのに戦力の分散は避けたい。

理解はしているが、無傷の自分達がこんなところにいてアイチ達が苦しんでいることに、誰もが無力感ら打ちひしがれる。

「カムイ達だけでは、あの男は止められない。・・・どうにかスターゲートの説得が間に合えばいいけど」
アリは珍しく真剣な顔をしていた。

チームカエサルの三人は手を結び、中央には何も書かれていないカードが丸テーブルの上に置かれている。
しかし今は、うっすらと絵が浮かび上がり始め、淡く輝いていた。




「空を絶望へと染めし、羽を広げ、降臨せよ!星輝兵 イマジナリープレーン・ドラゴン、そしてレギオン!」
大型の銃を手にした閃銃の星輝兵 オスミウムもコールされ、セラはレギオンスキルをも発動。
櫂のリアガードの一枚をロック、パワープラス2000も自動的に追加される、櫂のヴァンガードへのアタックをかける。

大きな爆発が起き。ダメージゾーンには4枚目のカードが落ちた。
それに対し、セラは今だにダメージ3枚、差が徐々に開いているかのように試合の流れが出てくる。

セラのリアガードがアタックをしようとした時だった、気を失っていたはずのガイヤールが苦しそうに声を出し始めたことに。
酷い悪夢にうなされているかのようで、ネーヴとラティが必死に声をかける。

「くっ・・・・うわぁぁっ!!」
「どうした!」
近くにいたカムイとナオキが近づいてきた、その顔にはリバースされた時のような赤い刺青が現れる。
リバースしたのかと思っていたが苦しんでばかりで、リバースした時の禍々しいオーラはない。

「言い忘れましたが、シードを持つ今の私に敗北した場合、終わらない悪夢に魘され続けるんですよ・・・永遠にね」
「なっ!!」
リバースに比べれば、大したことはないと言い出した。
レンとレオンはPSYクオリア持ちと、シードが未完成だったことで免れたがガイヤールはPSYクオリアを持っていない。

「敗者が引き受ける当然の痛み、でしょ?」
笑いながら苦しむガイヤールを見下ろす、まるで苦しんで当たり前のような、恨みさえも感じられる。
何処まで卑劣なのだと、テツと彼に支えられるレンはセラを睨む。



苦しそうに胸を押さえるガイヤール、その精神世界は暗闇の中・・・。
黒いリンクがガイヤールの頭上に浮かんで、執拗に追いかけていく、今の彼は火事により両親を失った直後の幼い姿をしている。

『死んだ彼らとは親戚だけど、私達には貴方を養うだけの余裕はないの』
『ずっと暗い顔をして、自分だけが不幸みたいな顔して被害者自慢したいのか?』

そんな冷たい言葉から逃げていたが、大きな大人の姿をした黒い影に辺りを囲まれて、ガイヤールは膝を丸めて耳を必死に塞ぐ。

「ごめんなさいっ・・・ごめんなさい・・・・・・!」

涙ながらに謝り続けるガイヤール。

『ガイヤールお兄ちゃんなんて、大っ嫌い』
『いなくなってせいせいしたよ』
『そうだよ、このまま消えてなくなってしまえばいいんだ』

その影の中には、小さな子供の大きなものもあった。
次第に近づいてきてガイヤールをも、黒い影に取り込まれようとしていたが、遠くから人の足音が聞こえた。


それは白い鎧を着た、青い髪の少年だ。
彼は白い剣を地面に突き刺すと、白銀の光が辺りに電撃のように広がると頭上のリングは破壊される。

ゆっくりとガイヤールは顔を上げ・・影が一つもないことに気付いた。
白い鎧の騎士は鎧の姿の彼だけが幻影となって、後ろへと下がり分離すると、騎士は軽く頭を下げて消えていくと残ったのは黒いコートを着たアイチが残る。

「もう、大丈夫だよ」
そう言って、アイチは後ろから包むようにガイヤールを抱きしめた。
抱きしめた瞬間に、辺りは黄色の花畑へと変化していく、空は雲がふんわりと浮かぶ温かな太陽の輝く光の照らす場所へと変化する。

「大丈夫じゃないですよ・・・だって僕は、貴方を・・・アイチさんをっ!!」
穏やかな顔をしているアイチ、しかし魂はセラの中に囚われたまま。
きっと無理をしてガイヤールを助けにきてくれた、友達を傷つけ、良心に付け込んで月の宮に閉じ込めていたのに。

(守った気でいた僕は大馬鹿だ、本当は僕がヴォイドから守られていたのに!)

涙を流しながら、ごめんなさいとアイチの胸の中で謝り続けるガイヤール。
黄色の花びらの舞う、優しい空間、まるでアイチの胸の中のようだ。

「僕の方こそ、ごめんね。君は十分に傷ついて、頑張った・・・もう悪夢は終わる、・・・これは君の分身、仲間達だよ」

後ろを振り向くと穏やかな顔をして立っている青き炎の解放者 プロミネンスグレア・・そしてデッキのユニット達。
涙でも出そうなほど瞳が潤むガイヤールに、忠誠を誓うように頭を下げる彼ら。

こんなに愚かなガイヤールと、共にまだいてくれるのだ。

「・・・ありがとうっ・・・・」

そう言うと、青い光に周囲は包まれる、光が強くなっていくとアイチの姿も消えていく。

「アイチさんっ!!」
手を伸ばそうとするが、何故か届かない。
にっこりと笑ってアイチは消えていく、ガイヤールが解放されたと安心して。


「・・・・ぅ・・・」
「ガイヤール、大丈夫か!」

心配そうにカムイ達が声をかけると、まだ意識が固まってはいないのかぼんやりとしている。
赤い顔の刺青が淡く金色に体全体が輝いた後、ガイヤールの意識が戻ってきた。

「・・・アイチさんが、助けてくれた・・」
「アイチ君が?」
いつの間にかガイヤールの手には プロミネンスグレアのカードが握られていた。
夢ではない、現実にアイチが助けにきてくれたのと、ネーヴに支えられつつ起き上がると櫂のターンになった時だった。

「セラとファイトしているのは、櫂トシキか?」
「ああ・・・」
しかも、クランはあの時と同じかげろう。
勝てるはずがないと、ガイヤールも最初はそう思っていたがヴァンガードを見た時に幻か、赤い炎がちらいている見えた。

(先導アイチ・・・まだ、そんな力が残っていたとはっ!)
己の中に魂を封じていたが、やはりタクトに匹敵する力を得たアイチを手にするのは簡単にはいかない。
しかしセラにはアイチを思うが儘に操り方法が、一つだけあると確信していた。

「お前、アイチの魂を手に入れたとしてもアイチがお前の言うことを聞くと思うか?
絶対にお前を許さない、相打ちになろうともアイチはお前を倒すだろう」

そういう奴だ、櫂はそう思っていた。
確かに普通ならそうする、セラは櫂のファイトをした理由はもう一つあると明かす。

「私がアイチ様の『櫂トシキ』になればいい、ガイヤールに見せていた幻のように」
シードの力を使った幻、セラを櫂だという幻を見せて、操る。
アイチの最大の弱点は櫂だ、彼はアイチのとって絶対的な神のように憧れる存在。

「なんですって!」
「そんなぁ・・・」
ジリアンとシャーリーンは、驚いた声を出した。

「櫂トシキに必要とされることが、先導アイチにとって何よりの幸福。
それがたとえ、人の道に反しても先導アイチは付き従うでしょう?」

確かに、できなくはない。
三和はアイチが櫂がどんなに冷たい言葉をぶつけても、自分勝手な行動をしても怒ったことなどない。

いつも怒っているのはカムイだけ、ミサキは無関心。
呆れ顔をいつもしていた三和も同じことなのかもしれない、でもアイチは櫂に嫌われることを異常に恐れている。

櫂の言葉、一つで立ち直ることができるのなら
櫂の言葉、一つで闇の道へ必要だと甘い言葉でささやかれればついていってしまうかもしれない。


「それは俺も同じだ、アイチの前ではブラスター・ブレードのようでいたい。
怖かったんだな、きっとあの時もアイチが俺よりも強くなったことが。

それはアイチが自分の道へと進んでいくことが」

初めて口にした櫂の本音、後ろから親鳥を追いかけるようについてくる雛鳥だったアイチが巣立ったことが嫌で
部活や新しい仲間達に囲まれて、以前のように櫂の後ろを追いかけなくなったアイチが。

憧れでなくなるのが、耐えられなかった。
自分勝手すぎる理由で世界を巻き込んだのは、責められても仕方がない。

「先導アイチにとって櫂トシキは崇拝すべきヒーローですからね、ですが・・貴方にとって彼は」
「大切な、友達だ。共に高め合い、助け合い、そして・・・今、助けるために
俺はファイターの風上にもおけない、お前を倒す!!

その雄叫びは道無き道を切り開き、その炎はこの世の全てを焼きつくす!並び立て、煉獄の竜達よ!レギオン!」




並び立つは、二体のドラゴン。
白き鱗のような鎧のように輝き、帝国二大柱軍『煉獄』は今、櫂の下へ降り立った。






「アイチ?」
一瞬、ミサキはアイチが安心したように笑ったような気がした。
完全記憶力を持つミサキだが、心はセラに囚われているのに気のせいかと、見たはずの表情を疑ってしまう。









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