「起きたか?」
いつの間にか眠っていたのか、アイチが目を開けるとそこには櫂がいた。
青い病院服を見て、これは現実で、櫂が傍にいてくれているのも夢じゃない・・。

「騒がして悪かったな、いろいろと荷物が届いてな」
「荷物?」

身体を起こすと、眠る前は病室に何もなかったのに部屋には溢れんばかりの花が置かれ、贈り物も沢山あった。
全てアイチ宛に送られたお見舞いの品々らしい。

まだ立ち上がるのが不安なのか、櫂が贈り物を一つ一つ持ってきてくれた。

「これは、店長さんから・・こっちはゴウキさん達まで」
アイチのことを聞きつけて、花や果物などを贈ってきてくれたのだ。
メッセージには「早く元気になってまたファイトしよう」とゴウキからの力強い筆ペンメッセージが添えられている。

「アイチ―、見舞いに来てやったぞー、ついでに見舞いの品を俺が食ってやる」
「おい、何しに来たんだよ」

森川の元気な声がし、後ろからは井崎やエイジ・レイジが続いてきた。
皆でお金を出し合って買ってきてくれた、前に学校帰りに食べたコンビニの肉まんが入っている。

「病院食なんてまずいだろう、美味しいぜ」
何のために入院したのかわかっているのかと、呆れ顔の井崎。
今のアイチの体調には優しくないと止めようとしたが、アイチがあまりにも美味しそうに一口食べたので止めることはできなかった。

「とっても美味しいよ、ありがとう」

また学校帰りに、皆でコンビニに寄ろうと約束をし
明日はテストだからと森川と井崎は、病院を一足先に後にした。




「アイチ、これコーリンから・・・まだ手が離せないみたいでね。凄く心配していたよ」
ミサキからはピンク色の花を主に使った花束を貰う、ナオキからとこんな時でもブースターパックをくれた。
シンゴも今はリハビリファイトをしていて、心配かけてしまったと謝っている。

皆も以前の活気を取り戻しつつあると説明してくれた。

「アイチお兄さん、エミさんは?」
「一度家に帰ってる、母さんも着替えを取りに戻ったし」

夜中に呼び出され、最近眠れなかったのかエミは部屋のベットに上半身を預けて眠ってしまっていた。
シズカは起こさないようにベットに横にすると、エミの代わりにアイチの着替えの用意を始める。

「アイチ君」
「光定さん・・・それにクリス君たちまで」

朝一番の飛行機で到着したのだと、教えてくれた。
今はユリやガイも、光定に負けていられないとSITに留学しているとか、ガイはユリは光定を追いかけて、自分は巻き沿いだと小さく呟く。

「アイチにこれを見せたくてきたんだ」
クリスが見たのは、リンクジョーカーのカードだ。
それをもう一度確認したカムイは「リリリリ・・・リンクジョーカーだ!!」と叫ぶ、櫂は思わず身構えてアイチを庇うようにして立つ。

「落ち着け葛木、もうヴォイドの意志は離れている。先兵でもなんでもない」
「そうですよー、カムキャム君」
「俺をどっかのお菓子みたい呼ぶなーーーー!!」

落ち着いた口調で入ってきたのはレオン、差し入れの大きなメロンをジリアンは櫂に渡す。
ナオキがじっとカードを見つめるが、以前のような底知れない恐ろしい気配はない、ただのカードそのものだ。

「リンクジョーカーはすでにスターゲートのクランの一つと、クレイに認められている。
虚無の意志を切り離すのには苦労しましたけどねー」
次に現れたのはレン達御一行、テツがアイチにトッピングされた紙袋をくれたを開けてみると

鉢付き、シクラメンが入っていた。
顔が引きつるアイチに、頭を抱えるテツ、イメージの怒りの炎の上がる櫂。

「三人ともどうしたんですか?僕の選んだ一番良いと思ったプレゼントだったのですが」
「「レン、お前にはあとでたっぷりと話がある」」
櫂とテツが同時に言うと、空気が読めないのか二人とも顔が怖いですよと能天気な顔をしているレン。
休息の必要なアイチの前で爆炎の炎など出せないからである。

「でも、よくそんなことできたなー」
三和が暇だろうと、男性向けのエロ本を差し入れたが本が開く前にミサキがまだ早いと奪うと
なんてもの差し入れるんだとミサキが高速で本を奪うとそのまま思いっきり三和の顔に叩き付けて、そのまま地面に倒れた。

「たった一枚だけ、残ったカードからリバースした経験のあるファイター達に協力を仰いだんだ」
リバースした者以外にも、関わり、事情を知り力になりたいと沢山のファイター達が参加してくれた。
櫂のことは許せない気持ちもあるけど、わからなくもない複雑な想いもあり、それを乗り切るためにも協力を名乗り出たが
クレイと干渉ができるのはクリス以外いなかったが、ウルトラレアの三人がクレイへの交渉役を名乗り出て
各国へと意識を飛ばし、認めてもらうように説得をし創世神との接触にも成功をしたという。

彼女達にはクレイとイメージで繋がる強い力を持っている。
今は、まだ後始末の真っ最中で今まではFF本部の地下にいたが今はSITの方に出向いているという。

「此処に来る前に、シンさんが新しいクランの発売が決定したとかで忙しそうにしていたのはこういう理由だったんだね」
電話予約とネットからの予約にも最近対応し始めて店内では、大きくリンクジョーカーのポスターを貼っていた。
さすがに驚くファイターもいたが事件はただの大がかりなプロモーションだったのだと、納得しているファイターもいたという。

「アイチ」
話を終えるとクリスがアイチに近づいてきた。

「いろいろとありがとう、助かったよ」
「気にしないで、・・・また君が昔のように居場所を失ったり、一人になってしまったらSITにくればいい。僕達はいつでも君を歓迎するよ」

正しくても、人はそれを口には出せず実行できないことが大人になると多くなる。
時に勇気ある行動だったはずが、理解されず傷つけられ、本当の悪者と変わらない扱いをさせられることだってある。

クリスはアイチを信じよう、もしも正しいことをしたのに人から傷付けられたりのなら、居場所を作り、支えよう。

「いいねー、アイチさんだったら大歓迎だよ。むさくるしい男は反対だけど、まさかに大和撫子が体現したような人だし」
「リー、てめー!!アイチお兄さんは永遠の日本に住む予定なんだよ、つーか大和ナタデココってなんだよ!!」

テツより「大和撫子だ、確かに・・・珍しいがな」と
気の強い女子代表格であるアサカ、ミサキ、ユリ達を細めで見ている。

「ちょっとテツ、どういう意味よ。私が大和撫子とは程と遠い女だとでもいうの」
「アンタ、アタシがミサキっていう花が咲くとも書く字とは知らないの」

などと、男のアイチが大和撫子と言われるが納得がいかないとテツに詰め寄ると。
ガイは「確かに姉さんも花の名前だけど大和撫子はちょっと・・イメージが」笑いを堪えていたが胸倉を掴まれて、光定が宥めている。
いつの間かキョウがアイチが食べきれないだろうと、勝手に決めつけお菓子を食べてつつ。

「そりゃそーだろう。この室内で気の強い女子しかいねーし、アイチが大和撫子って言われても違和感ねーよ」
「そうですねー、アイチ君はまさかに可憐で可愛らしいですしね」

同じくキョウに交じって、チョコの差し入れをつまみぐい始めたレン。
レンの言葉に好みのタイプはアイチだったのかとショックを受けるアサカ、ミサキはアタシは気がそんなに強いないと恥ずかしそうに言い張るが
三和にエロ本叩き付けたのをついさっき見ていたので、説得力はないのは認めたくないが本人も周りも納得済みだ。

「でもー、アイチ君は僕らFFAL4に入る予定なのでSITの話はなかったことに」
「えっ・・・ええっ!!」
真剣な顔でレンに「僕は今でも、君を待っていますよ」と手を握られて、真剣な顔をしていたが
強引に櫂に引き剥がされ、「菓子でも食ってろ」と口に残ったあんまんを突っ込まれる。

「残念だな、雀ヶ森レン。アイチは我がチームドレッドノートの4人目のメンバーとなるのだ」
ドヤ顔でポーズを決め、左右にはシャーリーンとジリアン。

「先導なら、勿論大歓迎よ」
「アイチ君だったら、蒼龍の民じゃなくてもアクアフォース使っても納得するわー」

などと言い始めて、カムイとナオキがジニアスと火花を散らし
この場で決着をつけましょうかとAL4とドレッドノートも前に出た。

「残念だったな、アイチお兄さんは宮地カードファイト部部長してチームQ4の主将なんだぜ。
それにまた何かあった、今度はお兄さん!!・・俺読書感想文が苦手で、人の気持ちを考えるのが苦手かもしれないですけど一緒に考えます」
「そうだぜ、アイチ。お前は一人じゃない!皆がいる。此処にいる全員が」

突然ナオキがアイチを抱きしめてきた。
唖然する一同、櫂など背後に黙示録の炎が見えて、近くにいるアリが怯えている。

「お前がまた一人かもしれないってイメージに囚われたり、誰かに傷つけられたのしたら俺に言えよ!!俺が守る!!」
こうして抱きしめて、一人じゃないって教えてやるからと笑顔でナオキは言った。
シンゴはというと「なんということを!」などと顔を真っ赤にして、告白まがいなことを言っていることに気付かないナオキ。

「ついでだ!!お前も抱きしめてやるぜ!!」
「ギャー――!!やめるのです、馬鹿力ーーー!!」

その言葉にアイチの瞳から涙が零れる。
心配そうにミサキが話かけるが、これは痛みから出る涙じゃない。

騒いでいたナオキ達も動きが止まる。

「僕、皆に嫌われると思ってたんだ。こんなにも弱い僕を軽蔑するんじゃないかって」
しっかりしてきたと言われて嬉しかったけど、こんな事態になって皆の期待を裏切れないと
一人で全部解決するつもりだったが、それは間違いだった。

皆に話して、助けてもらうことも時には必要だ。

「アイチ、弱いって言えるのはとっても勇気がいるよ。・・アタシはアイチが強いって知っているから」

ずっと見てきて、記憶している。
苦難に立ち上がることも、間違っていたことに気付いて後悔していることも、全てを覚えていた上でアイチは強いと言える。

「あーあー、さっそく泣かしたよ。だめだなぁ、カムイは。やっぱりSITに」
「しつけーぞ!!こうなったらヴァンガードで決着だ!!」
クリスの嫌味な言い方に堪忍袋の尾が切れたのか、オレンジ色のデッキケースを取り出した。
当然ながらアイチの部屋にはプレイマットが置いてあり、これで決着をつけようと言った。

「では、勝ったチームの奴らがアイチが真っ先に頼りにすることにしよう」
「レオン様ー、頑張ってくださいーvv」
「アイチ君はAL4が貰うんですー、先行予約したの僕ですよー」
「安心してくださいレン様。必ずや先導を献上いたしますわ」
「アサカ・・切り替えが早いな」

アイチを置き去りにして、病室が一気に騒がしくなり
クッキーを食べつつ、持参のコーラを飲みながら呆れ顔で「いっそ、アヴェンジャーズに入るか?」と誘ってきた。

それほど広くない空間に皆が一斉にしゃべりだしたことで、騒がしくなり
職業病なのだろうか、うるさいことに耐えられなったミサキが強く彼らを睨む、同時にシンが見舞いのためドアを開けると。


「うるさい!!此処は病院なんだよ、静かにしな!!」
という声が廊下に響いた。
その怒濤の声により、全員がスタンドアップする前に止まったが。



「一番うるさいのは貴方よ。叱るのはいいけど・・此処も病院なんですよ」
クレームが来たのか看護婦がやってきて、廊下でミサキを叱っていた。
シンは保護者としてペコペコと頭を下げていたが、ミサキは恥ずかしくて顔を真っ赤にし、説教が終わると部屋の隅の方で

「アタシって、ホント馬鹿」と膝を丸めて沈んでいたという。




入れ替えでいろんな人達が来てくれた、なんと生徒会長まで来て驚いた。
中村が最近ヴァンガードを始めようかと話をし、マークからオススメカードを聞いていたり

気が付けば夕方になっていた。
面会終了時間になると、ずっといてくれた櫂達は家に帰ることに。
ナオキの後ろに隠れるようにして、ミサキは顔を手で隠して病室を出る。

「レンさん、セラさんは・・」
「南米に戻ったようだ。確認はしきれていないがおそらくは」

他のカトルナイツも、さすがに顔を出せずにいるだけで無事だとレンとレオンとアイチだけとなった病室で話をしていた。
結局セラとはもわかり合えなかった。
ヴァンガードをしている人に悪い人はいないと、信じたかったがファイターは結局人間、人を平気で利用する者もいる。

「また、あいつは貴様を狙うか・・その時は」
容赦しないとレオンは言うが。

「・・・もう、それはないと思います。感ですけどね・・・」

何処か遠い目でレンはそんなことを言った。
力を欲し、障害となるアイチを手にし、世界を手にしようとしていたが

彼の願いは別のところにあると、かつて似たようなことをしようとしたレンは彼の心の根底がわかるのだという。


「二人にも迷惑をかけてしまって・・・結局説得できず・・・」
「謝らないでくださいよ、僕達は二人とも君の優しさに救われたんですから、やっぱりアイチ君、僕のチームに」

軽くアイチの手を取り、真剣な顔をするレン。

「おい、面会時間は終わりだ。さっさとしろ」
櫂が扉をノックなしで開けると、レンとレオンを追い出しにかかる。
渋々と言った返事をしたレンとレオンは「またな」と言って、部屋から出ていく。


(あーあ・・二度もフラれちゃいました)
一度目は光を、本当の自分を失っていた時。
二度目はこれでも真摯に、本気で誘ってはみたがやはり、アイチの心は動かなかった。

ずっと守ってあげたい。
隣でファイトをしたかったが、やっぱりアイチは櫂が好きなんだと溜息を軽くしつつ、櫂の後ろをレオンと一緒に歩いていた。














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