雀の鳴き声にアイチの瞼は何回か、瞬きをしてから開かれた。
朝は起きるのが弱いというのに緊張したのか、自然と朝起きるこができたが。

「えっ!」

目の前には櫂の顔があった、背を向けて寝ていたはずなのに。
まるで金縛りにでもあったかのように固まるアイチ、手を伸ばせば届く距離に櫂の顔があって、まだ寝ているのか目を閉じたまま。

(かっ・・・・かかかか櫂君の顔がこんなに近くに!!)
こうしてみるとやはりカッコイイ、森川曰く高校では、孤高のイケメンファイターと言われて、愛想がないのになぜモテるとか
叫んでいたのを思い出したが女の子達が騒ぐのはわかる気がする、同じ男だなんて本当に思えないとまたネガティブなことを一人で考え

気が付くと、笑みを浮かべてアイチを見ている櫂がいた。


「いっ・・・いつから起きて・・・」
「さぁな」

もしかしたら最初から、見られていたのかも。
そうイメージすると恥ずかしくて死んでしまいそうだと、赤くなったままあわあわとしているアイチを

櫂は普段は絶対に見せない穏やかな笑みを浮かべて見ていた。






櫂の手作り半熟スクランブルエッグとトースト付きの朝食を食べ終えると
いつものようにカードキャピタルへと行く、わかる道になるとアイチは隣で歩き、何気ない会話をして店の前へ行くと。

「あれ・・・臨時休業?」
「すいませんねー・・・蛍光灯の調子が悪くて・・・」

電気関係に不具合が出て、レジもエアコンも使えないと今、ミサキが業者と連絡しているが
休日のせいか来るのは夕方になりそうで今日はもう休業するしかないとシンに頭を下げられた。

仕方がないと二人で、行く当てもなく歩いていると
櫂の足が地下鉄の入口前で止まる。

「・・・たまには別のカードショップも行ってみるか」
アイチが行ったことがあるは、男前の店とPSYぐらいだった。
櫂の誘いにアイチは当然頷く。

「うんっ!」



以前、三和に誘われて行った大きめのカードショップ。
大型のコンビニほどの広さのショッブはアイチが住んでいるところから数駅のところにあった。

「へぇ・・こんなところがあったんだ」
壁にはレアカードが一面に飾られており、各クランの説明も書かれている。
新鮮な空気にアイチはパックをついでに買い、ファイターテーブルに座ろうとした時だった。




「あれー・・・アイチ君?」



「レンさん?」
「テツか・・・?」

意外な人物達に出会った。
二人とも私服姿で、テツは薄緑のワイシャツに、レンは白いシャツに黒いズボンを穿いている。

「珍しいですね、こんなところで会うなんて」
「お前らこそ、買い物か?」
テツの手には紙袋が握られており、レンのものを買った帰りにカードショッブを見つけ
寄り道していこうとごねたので来てみれば、まさか櫂達に出会うなんて。

2人だけなら目立つことはなかったが、ヴァンガード業界では目立つ4人が固まると自然と注目が集まってくる。
全国大会優勝経験を持つチームに所属するファイターなら当然だった。

「おい・・・あれは先導アイチさんに櫂トシキさんも・・」
「・・・まずいな・・」
小さくテツが呟く、店内の客達の視線が一気にアイチ達に集まる。
慣れないことなのでアイチは混乱している、櫂は苛立ったように目が鋭くなり、レンは慣れているのかいつもと変わらず。

「先導さん、俺とファイトを!!」
「じゃあ、俺は櫂トシキさんと!!」

一人がアイチに迫ると、続けと店内のファイター達がファイトを雪崩のように申し込んでくる。

「逃げるぞ」
「りょーかいです」

櫂はアイチの腕を引っ張ると外へと飛び出す、レン達も続くように走っていく。
一部のファンが追いかけてくるが、レンの策略により、信号でいくつか足止めをして巻くことができた。

落ち着いたところで、近くのコーヒーショップへ。
ヴァンガードとは無縁の空気にホッとする、席に着くと迷惑料だとレンが奢ってくれた。

「ここのコーヒー美味しいんですよー、アイチ君、遠慮しないで・・・櫂は遠慮してくださいねー」
「うるさい」

扱いの差にいつものように櫂から怒りの声が飛んでくる。
アイチの手にあるブースターパックにレンの目が行くと、レン達はアイチと櫂がクランを戻すことを知っていた。

コーリンに話してはいるので、スイコから伝わったのだろうとあまり驚きはしなかったが。

「デッキが完成したら、ぜひ三校で交流試合でもしましょう・・・絶対に」
黒いオーラ―を出しつつ、不敵に笑うレンにアイチは苦笑い、テツはため息を出している。
せっかくだから合宿でもしないかとテツと話していた、未来での楽しみが増えたことに自然と笑みが全員に零れた。


ランチまでご馳走になり、アイチは丁寧に頭を下げ、櫂は軽く手を上げる程度の挨拶しかせずに別れた。
レンは軽く手をアイチにだけ振り、二人は別の道を歩いていく。

「元気そうでしたね」
「ああ・・なんだレン、櫂のこと心配していたのか?」

あんな噂が流れ始めて、きっと櫂は落ち込んでいるかもと内心考えていたのかも。
ファイト以外のことはしまりのないレンだが、櫂のことを友人としてテツ同様に心配していたのだろうか。

「まさか?櫂は自分の決めた道を貫く男です、そうでなければ僕のライバルではありませんよ」
迎えの黒塗りの車がくるとテツと一緒に乗り込んでいく。
スケジュールチェックをしているテツの通りで、窓を見つつレンはあることを考えていた。

噂の出所だ、あの場にいる中でネットなどにあんなことを流す者がいただろうか。
もしかしたらリンクジョーカー事件と同じく、何かが動き始めているのかと窓を見つめつつ考えていた。




「ハーッハハハ!!見たか、ついに俺様もレギオンを手に入れたぞ」
カードキャピタルは電気系統の修理を終えて、午後から通常業務に。
開店早々、森川が偉いに大声を出して高笑いをしていて、岸田に勝利したことを自慢げに語る。

「これでアイチも櫂の奴らもコテンパンにできる!!早くこねーかな♪」
「朝来た時に今日はもう営業できないと返事したので、もしかしたら今日はこないかもしれないですよ」
予想よりも早く修理が終わったで、悪いことをしてしまったと頭を掻くシン。

「仕方ないなぁ・・。次の俺様の相手は誰だ!!」
「アタシがやる、いい加減にその口黙らせてやるよ」
ミサキと森川のファイトだが、レギオン持ちの森川にミサキでも勝てるのかと興味が沸いたのか客達が集まってくる。
その中にはカムイとエイジ、レイジにナオキ達も混ざっていた。

「俺様は不死身の男、それを使うは当然不死身のロボ!!フェニックスライザー・DWの俺様、スーパーハイパーミラクルウルトラシークメイト!」
「長ぇよ!!・・・あいつと同じクランを使っていると思うと・・・」
クランを変えたい衝動に襲われると、悩むカムイ。
二人が懸命に慰めて、クランを変えるのを思いとどまるように説得する。

背中には羽の形をした機械作りの翼と腕にドリルのあるフェニックスライザー・DW。
同じく背中に翼があるが武器は光る鎖のようにものを鞭のように操るフェニックスライザー・FW

「この俺のレギオンスキルは、ヴァンガードへのアタック時に同じ縦列の後列にユニットを前列のリアガードを2枚までスタンドできるんだぜ!!」
次々にミサキのユニット達をドロップゾーン送りにしてしまう。
ヴァンガ―ドへのアタックは凍気の神器 スヴェルをコールしクィンテットウォールを展開して、守った。

「アタシのターンだよ。神の力を宿らせし戦士!その高貴な力の前に、ひれ伏さぬ者は無い!ライド!宇宙の神器 CEO ユグドラシル!」
新しい神器ユニット、元はネオネクタール出身だったかからかその手には花を一輪手にしている。
さらにはシークメイトして現れたのは肩に水の入った瓶を持った運命の神器 ノルン。

「相手の防御力を制限しつつ、こちらのクリティカルを上げる。ユグドラシルのヘブンズクエスト!」
「うげげっ・・・マジで!!」

ため込んでいたソウルを一気に発動させ、ミサキの強力な一撃に森川は防御を取れずに敗北。
案の定、デッキにはグレード3しか入っていなかったのか、「店内は静かにしな!」と特に勝利を喜ぶ様子もなく、レジへ戻っていく。

「カッコよかったねー、ユグドラシル」
「うん、やっぱりすごい店員さんだね」

後ろから、子供達の声が聞こえてくる。
いつもはクールなミサキだが、やはりうれしいのかわずかに口元が緩むでしまうと、それをシンに運悪く見られてしまう。

「ミサキ、いつもそんな風に笑ってレジに立ってくれればいいんですけどね」
「うっ・・・うるさい!!」
恥ずかしそうに、ミサキは椅子に腰かけて、本で顔を隠す。





「わぁ・・・綺麗だね」
帰りの電車に乗ったが目的の駅に降りず、終点まで乗ってみると、そこは海の近く。
潮風が冷たく、浜辺にはあまり人がいない。

「そういば合宿をしようって言ったけど、海は寒いね・・・」
夏が終わったばかりなのだから、どこか別の場所をテツと考えよとと話をしつつ波辺を二人で並んで座ってみていた。
暫く海を見つめていると、アイチがこんなことを話し始める。

「中学の時、宮地を選んだのは自分のためだったんだ・・」
初等部時代にいじめられた過去があり、逃げる形で解決してしまったけど
アイチは何もできなかった、抵抗も反論もせず、加害者達のいない高等部に何処か安心をしていたのも事実。

逃げない、立ち向かうと決めたのに。

「だから宮地からの先なんて・・・考えたこともない」
進学が一番なんだから、目的があるんだろうと皆が言うがそうじゃない。
大人になってからのことも、将来の夢も空白のままで、ヴァンガードが好きでファイトをし続けたいし

ヴァンガードに関係のある仕事をしたいが、入りたい会社もプロチームも思い浮かばない。

「決めなくちゃいけない時が近づいているのは俺も同じだ」
修行の旅だって、いつまでもできるものじゃない。
大学へ行くか、就職するかも決めなければいけないのに、今が精一杯で何も考えていない。

子供ではいられない、時間は過ぎて子供は自然と大人になっていく。
これは誰にも避けられないことだが、何も、櫂は決められずにいる。

「一緒に・・・・決めよう。君と僕の未来のことを」
アイチもまだ将来の目標を決めていない、決めていない者同士いろんな道を探してみよう。
もしかしたらデッキが完成した時、進むべき道が見えてくるかもしれない。


「そうだな」
小さなその手を差し出すと、櫂はほんわりと笑いその手を握ると
駅へと向かって歩いていく・・・、もう陽が落ち始めて今日が終わろうとしていた。

明日は今日よりも素敵になる日がなりますように信じて。





一度櫂のマンションに行く、荷物を引き取ってから帰ったアイチだが
次の日、ナオキからアイチが知恵熱?を出して倒れたと聞かされた、進路の事で悩んでいたのだと思っていたナオキ達だが

三和は布団の復讐だと、ずっと櫂のデッキ調整の相手をさせられてばかりだ。
気を利かせて苦労して布団を持ち出したというのに、少しは友人の苦労も知ってほしいものだ。




「三日も休んじゃった・・・」
髪を中途半端に乾かしたんじゃないかとエミに散々言われ、呆れられてしまったと
情けない自分に溜息を吐きつつ、宮地の校内へと入ると玄関辺りで黒山の人だかりを見つけた。

「おはようー、アイチ。風邪はもう平気か?」
後ろにシンゴを連れたナオキが話しかけてきた、もう平気だと軽く話をし何かあったのかと尋ねるとナオキが教えてくれた。

「外国の講師が来てるんだよ、特別講師がどうとか・・・それがヴァンガードすげー強いらしいぜ」
「ヨーロッパサーキット大会、前回優勝者なのだそうですよ」

「ヨーロッパ・・・」
アジアサーキットのチャンピオンのアイチとファイトしたら、すごい戦いになるだろうとシンゴは目を輝かせていた。
しかし、今は宮地で流行りはじめたヴァンガードのファイター達に質問攻めでそれどころではなさそうだと
話をしてみたかったが仕方がないと、その場を離れたが、学生達から質問攻めにあっている男の目はアイチを捕えた。


彼の名はフィリップ・ネーヴ。
ヨーロッパサーキットで優勝経験を持つ、強いファイター・・・ただそれだけでないことをアイチ達は知る由もない。







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