午前の授業をほとんど寝て過ごしていた森川は、ランチのチャイムが鳴ってようやく目を覚ました。
大あくびをして、部室でパンでも食べようとしたら室内には女子のピンク色の声がやたらと響いている。

「なんだー・・・櫂か三和でも来てのかー」
後江二大イケメンファイターの二人が、教室に部活のことで顔を出しただけでクラスの女子達は大騒ぎ。
気に入らなさそうしているがそうではないと、井崎が教えてくれた。

「お前、朝紹介されただろう・・・転校生だよ」
「転校・・・??」
朝は半分寝ぼけつつ、朝礼を聞いていてほとんどぎ記憶にないらしい。
外国からの留学生で青いブレザーに、青緑の髪に黄色の瞳の紳士な雰囲気のフランス人、オリビエ・ガイヤール。

井崎が偶然持っていた月刊ヴァンガードを開いて見せてくれた。
大きく掲載されたカードを指で挟みポーズを決める少年の写真と『人は青き炎のガイヤールと彼を呼ぶ』という見出しが。

「気に入らねぇ奴が転校してきたというわけかよっ・・・!!」
「お前、イケメンならなんでも気にいらねーじゃねーかよ・・」
イケメンでしかも、ヨーロッパサーキットの今年度の優勝者だとか、物腰は紳士でクラスの男子とは大違いだと
他のクラスだけでなく、上級生の女子までクラスの外から見物に来ている。

「教室で食べると胸糞悪くなる!部室で喰うぞ!!」
「まぁ、この盛り上がりじゃーな・・」

クラスの男子を押しのけて、ガイヤールの周りには女子ばかり。
恐るべし女子力にガイヤールは笑顔で紳士に対応をしている、同学年とは思えない。

質問に笑顔で答えていた彼だが、井崎達が教室から出ていくのを横目で見る。





「へぇー・・・ヨーロッパサーキットのねぇ」
「しかもイケメンだとさ!!紳士さがたまらんだとぉ!!知るかよ!!」
八つ当たりだと、メロンパンをかじりついてパンくずを井崎に飛ばしてきた。
三和と櫂も教室にいると女子からの差し入れアタックがしつこいので部室に避難をしていると、女子から聞いた転校生の話を聞いていた。

「興味あるかー、櫂?」
「・・・別に」
チャンピオンともなると、相当な実力者で櫂ならすぐに喰いつくとは思っていたが
今はデッキ調整中、満足のいくファイトがまだできないので反応は鈍い。

4人で話をしていると、ドアが開いた。
マークかと思ったが開けたのは、転校生のガイヤ―ルだ。

「すいません、実はヴァンガード部に入部をしたいのですが・・」
「入部だとぉ?」

後ろにはついてきた女子がいて、櫂と三和を見つけて挨拶をしてきたが笑顔で返す三和に対し
櫂はそっけない態度で目を閉じているだけ、笑顔を終始浮かべていた彼だが、一瞬だけ背筋も凍るような目をした気がした。

(・・・?)
井崎はそれに気づいたが、すぐに紳士の彼に戻り気のせいだったと片づけた。
三和に入部届の用紙を貰いフランス語で、記入をし入部は完了したのだが。

「ちょっと待て!!入部するには未来の最強部長!!森川様を倒してからという部の伝統があるのだ!」
「・・・いつからそんなのがあるんだよ」
宮地学園カードファイト部の真似をし始め、井崎は呆れ顔でデッキを取り出した。

「おいおい、ファイトするならカードキャピタルにしようぜ。櫂もアイチとの約束があるしさー」
宮地カードファイド部やカムイ達とファイトする約束しており、せっかくなのでカードキャピタルに行こうと三和は提案。
櫂は二人のファイトに興味がないのか立ち上がり、カバンを持ってさっさと出ていく、強くファイターに勝負を挑むのが
いつもの彼だったのに、今はアイチとデッキ調整に夢中のようだ。

「カードキャピタル?カードショップですか?」
「ああ、俺らがよく行く常連の店だ。強いファイターも沢山いるんだぜ」
井崎が店のことを教えている間にすぐにカードキャピタルに到着。
ヴァンガードをしているせいか、日本語は詳しいが完璧に読み書きができるわけではないのか見上げて看板を見ている。

「何やっているんだよ、早く行くぞ」
森川に声をかけられてガイヤールは店内に。
すでにカムイ達やアイチ達も到着して、アイチはこれからエイジとファイトするところだった。

「ちーす!おーい、アイチさっそくファイトかー!」
井崎がアイチに声をかけると、こちらを振り向いた。
ふわっと青い髪が少しだけ広がる・・・ただこちらを向いただけだがガイヤールには神秘的な光景に見えていた。

自然と目が見開いて、紳士的だったがどこか感情のない様子だったのだが黄色の瞳が見開いて小さくなっていき


頬がわずかにピンクに染まっていく。



(綺麗な・・・人だ)
日本に関する本で読んだ、大和撫子のように可憐で男に失礼だが可愛らしい。
後江にはいなかったタイプのお人やかで、つつましさが感じられる。


「おーい・・どうした?」
ファイトを一時中断してアイチが近づいてきた、井崎は反応のないガイヤールに何度か話かけると彼は我に返る。
見たことのない青い制服に赤のラインの入った制服、フランスからの留学生だと井崎が紹介。

『先導アイチです、よろしく』
「はじめまして、オリビエ・ガイヤールと申します、日本語でも大丈夫ですよ・・・でも驚きました」

フランス語で自己紹介をしてきた、ナオキがすげーなと驚いていると少しぐらいならフランス語もできると言ってきた。
語学の堪能で、きっと頭も良いのだろう、それに礼儀正しくて綺麗なアイチに、うっとりした瞳でアイチを見ている。

「おい!!それよりも俺様と入部をかけてファイトしろ!!」
「やめろって・・・ヨーロッパサーキットのチャンピオンに勝てるわけねーだろうが・・・・お前じゃー無理だって
アイチならどうかわかんねーけど、アジアサーキットのチャンピオンだしさ」

アジアでも同じような大会が開かれていたのは知っていたが、特に興味なかったが
大会優勝のチームの主将・・・チャンピオンがアイチだったとはと驚いたがアイチなら納得だ。

「でも興味あるな、ガイヤール君のファイト・・・」
どんなクランを使うのだうと、勝敗が見えていたが森川の気が済むのならとファイトは始まった。
むしろ副部長の櫂の方がまだ楽しめそうだが、デッキは調整中のためにこの提案は却下。

「いくぜ!!スタンドアップ・ヴァンガード!!」
「スタンドアップ・ル・ヴァンガード!」

互いにファーストヴァンガードをコール。
『ル』という掛け声に、カムイが変な声を出していると同じく観戦していたミサキがフランス語だと解説。

「何が『ル』だとぉ・・櫂の『ザ』といい・・格好つけやがってぇ・・・!!今に見てろ!」
悔しそうに顔をゆがませている森川、しかも紳士らしくクランはゴールドパラディン。
これで女子がいたらカッコイイーー!素敵ーー!!とか歓声が出るのだろうと、歯ぎしりする音が聞こえてきそうだ。

ガイヤールは森川など眼中にないのか、アイチを意識して何度も見ている。
相手はG3ばかりを持つG3馬鹿、櫂曰く櫂のデッキをもたせても勝てないと断言されていたという。

あっという間に勝敗は決まり、悔しそうな声を出して森川は負けた。

「ま・・・始めっからわかっていたことだけどね」
落ち込む森川に、これで少しは静かになるだろうとミサキは観戦を終えるとレジへ戻る。
次は俺だとカムイとナオキが名乗り出たが、二人が見えていないのか無視してアイチの元へとまっすぐ歩く。

「おっ・・・おい!!」
「俺らとファイトを・・・」
無視された二人もぽかんとし、櫂は気にいらなさそうに目を細める。
三和は何事かと、驚いていた。

「アイチさん、僕とファイトをしていただけませんか?」
「えっと・・・お誘いは嬉しいのですが、僕のデッキはまだ構築し終えてなくて・・・ごめんなさい、また今度」

ガイヤールに軽く頭を下げると櫂のところへ。
パイプ椅子に座ると櫂の前に座る、ということで俺らとファイトしろと名乗りを上げるカムイ達だが

目を細め、背筋も凍るような冷徹な目をしたが、すぐに好意的な彼に戻ると
望み通りカムイとナオキとのファイトをするが二人とも一回も勝つことができずにガイヤールの圧勝だった。

「くっそーーー!!」
悔しそうに二人してデッキの組み直しをしていると、アイチが一人になったところでガイヤールがやってくる。
櫂は三和とテストファイトをして、デッキの調子を見ているところだった。

「強いんだね、ガイヤール君。僕も前はゴールドパラディンを使っていたんだ」
「そうだったんですか?僕の主軸なんですが・・・」

同じパラディン同士で気が合うのは、楽しそうに話をしている。
自分が席を外している間にガイヤールと、ゴールドパラディンのデッキのことで盛り上がって入れる空気ではなかった。

気に入らなそうに、櫂は三和の近くに席に座ると顎に手を乗せて、つまらなそうな顔をして
二人の話が早く終わらないかと無言の圧力をかけているが二人の空気は完全ガードと化して貫通しない。

「たまにはいいじゃねーか、近いクランにチャンピオン同士でいろいろと繋がるものがあるんだろーよ」
「フンッ・・・・・知るか」

櫂の願いは天には届かず、夕方までデッキの話をしていたせいで
デッキの構築はできずにそのままカードキャピタルで解散することになった。

「では、僕はこちらなので・・・また明日先導アイチさん」
「うん、さよなら。ガイヤール君」

丁寧に頭を下げて、ガイヤールはアイチ達と別の方向へと歩いていく。
軽く手を振るアイチ。

(また・・明日も会う予定なのかよ・・・・)
(会えるとは限らないんじゃ・・・)

井崎と三和は小声で話をしていた、僅か数時間の間でガイヤールはすっかりアイチに好意的となった。
このスピードは異例の早さともたとえてもいいだろう、だがどちらかというとガイヤールの方がアイチと距離を縮めたいような感じがしていた。

「そういえば、あいつ何処に住んでるんだ?」
後江高校は福原とは違い、寮などない、私立でもなければ普通はない。
ホテル暮らしでもしているのではとカムイとひらめくが、ますます腹が立ったのか怒りの声を上げている。

(あっちにはホテルなんてないはず・・・あるのは)
小さくなっていくガイヤールの背中、向かう先には大きなビルがライトアップされている。
アイチだけではない、その建物は皆が誰もが知っている。

いつの間にか改装されて、他人の手に渡り以前の輝きを取り戻していた。






ロビーの電子カードをタッチし、指紋認証をし終えると扉が開く。
自動ドアの扉が開くと中では銀髪の執事が、軽く礼をして出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、ガイヤール様」
「今帰った」

学校での友好的な微笑みは消え失せ、目を吊り上がらせてエレベーターへと進むと
一時暮らしている階のボタンを押す、ガラス張りの作りとなっていて外の景色を背にガイヤールは夜景を見ることなく自室へ。

カードを上から下にスライドさせると鍵が開く音がした。
中はスィートルームのような内装になっており、彼は此処で一人暮らしている、カバンをソファーの上に置くと

内線呼び出しの音がし、壁に設置してある電子パネルを操作。

『なんだ?』
「オーナーが、早急に報告が欲しいと至急部屋に来いと申しています」
電子パネルに映し出されたのはホテルの従業員のようなスーツを着た男だ。
着替えるのも面倒だと、制服のまま直通エレベーターを使って移動、部屋の中は暗闇に包まれているが、人の気配はしていた。

「お前が最後だ、ガイヤール」
「・・・ネーヴ」
柱の影から現れたのはアイチの学校に赴任してきた講師。
学校で見せていた表情は欠片も見せずに、好戦的な戦いを好む顔をしている、宮地でのファイトはしたらしいが物足りなくて
目の前のガイヤールに今すぐにでもファイトを挑みたいと書いてある。

「どうだった?日本の学校」
ドーナツを食べながら、座り込んで話かけてきているのは小さな少女の声。
つまらなさそうな顔をしたガイヤールは質問に答えず、無視する。

「ガイヤール、オーナーに報告を」
大きな椅子の横に手を後ろに回して立っている、紫色の髪をした大人の男。
椅子には誰かが座っており、ガイヤールは軽く頭を下げる、ネーヴは柱に背を預け、もう一人の少女はドーナツを食べつつ聞いている。

「櫂トシキですが、情報通り後江高校カードファイト部に所属、カードキャピタルにも多数の仲間がいる模様ですが


我らの障害になりそうなファイターはいないようですね」



三和のファイトプレイをさりげなく観戦し、カムイやナオキとは直接ファイトしてみたがまったく手ごたえがない。
店の店員のミサキも大した実力はなさそうで、もっと手こずるかとも予想していたが、圧倒的すぎてこれでは弱い者いじめになってしまいそうだ。

「宮地にもカードファイト部があるらしいが、正直強い者がいるとは欠片も感じないな。
部長の先導アイチという男もまるで強いオーラがないしな」
まだナオキの方が部長だという方が納得いくと、大げさに肩を落とすネーヴ。
直接ファイトはしていないがオドオドとしてアジアサーキットのレベルの低さには、溜息しか出てこない。

「・・・アイチさん」
未だに実力の見えないアイチ、デッキは調整中だというが
確かに現時点ではネーヴの言う通り、弱そうに見えるが本当にアレが彼の本当の姿なのだろうか。

「楽しみ―だな。誰から遊んであげようかな?」
クスクスと無邪気に笑いながら少女は立ち上がる。

「では始めましょうか」
男が指を鳴らすと、上には櫂の周辺にいる全員の隠し撮り写真が現れる。
全てが櫂と関わりのあるファイター達、誰から相手をしようかと笑う三人とは別にガイヤールは複雑な顔をして

隠し撮りされていたアイチの画像を見つめていた。






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