宮地では臨時講師として赴任してきたネーヴに、校内のファイター達が殺到していた。
内藤が自慢げに自身のグレートネイチャーデッキで対戦をしている、アイチ達も観戦しようとするが
ものすごい人ごみに逆にアイチが弾かれて、廊下に転んでしまう。
「大丈夫なのですか?先導君」
「すげー人だし、カードファイト部としては是非ともファイトしてもらいたかったけどしゃーねー諦めるか」
ナオキの手を借りてアイチは立ち上がると、残念だと漏らしつつ三人は教室へ戻っていくと
その途中で久しぶりにコーリンと会う、宮地の制服を着ていた。
「コーリンさん!」
「おぉ、もう学校これそうなのかよ!」
嬉しそうにな顔をするナオキだが、コーリンは悲しそうに俯く。
アイドル活動はもうすぐ無期活動停止に入るのだが、これからどうするのか何も決められないままでいるという。
タクトという先導者を失い、レッカもスイコとも何度も話はしているがまとまらない。
今まで自分で決めることができなかったのに、いきなり自由を手に入れてもてあましている様子だった。
「記憶がなくなる不安がなくなったのに、今度は将来が見えないなんて・・私って弱いわね」
「コーリンさん・・」
万が一のためにと立凪の財産は全て、三人に分配するという遺書まで出てきて
一生の生活には困らないが、迷惑料のような気がして使う気にはなれないし、贅沢したいわけではない。
「外でレッカ達が待ってるの、またね」
「・・・はい」
覇気のないコーリンの背中をアイチ達は見送った。
先がまったくわからない・・やりたいことが見えない不安はとてもわかる、アイチも未だに進路を決められていない。
「このままアイドルを続けてほしいのですが・・・・コーリンさん達が無理をしてアイドルをしていたのなら僕は応援ができないのです」
タクトからの指示でアイドルをやっていて、自分の意志でもないのなら
コーリン達のことを尊重するべきなのではと苦悩するシンゴ。
そんなことのあった放課後、いつものよう物理準備室へと行こうと
帰宅準備を始めていたがアイチとナオキは後から合流することに、ミサキは何やら用事があるとかで今日はコーリンと同じく休むらしい。
「あっ、そういえば部長会議が確か放課後にあったよなー・・、シンゴは先に行っててくれ」
「わかったのです」
部長のアイチと副部長のナオキは宮地の全部活の部長・副部長出席の会議に出ていた。。
しかしナオキは参加と言いつつ、開始早々うたた寝を始め、アイチだけが真面目に起きていたという。
一人、準備室にいたシンゴはデッキケースを取り出し
昨日買ったブースターパックを二つ開封して、デッキの調整を一人でしていると扉が突然開いた。
「コーリンさん?ミサキさん・・・・・先生なのですか?」
二人とも休みで、先生は出張で暫く帰ってこないと聞いており、またカードファイト部破りかと振り向くと、そこにはネーヴが一人立っていた。
「一人か?」
「はいなのです、先導君も石田も今は・・・・」
「そうか、それは丁度良い」
ニタリとネーヴは笑うと、シンゴの持っていた月刊ヴァンガードが床に落ちた。
「くぁあっーーよく寝たぜ」
「ナオキ君・・、何のために会議出たのかわかってるの?」
大あくびをしているナオキに苦笑するアイチ、会議中・・生徒会の二人とも弱みでも握られているのか悔しそうに目線を送るだけで
注意をしなかったが、アイチの知らないところで何かあったのだろうか、それに嫌がらせもピタリも収まったし、それも関係しているのだろうか?
「わりぃ、遅くなった・・・・・ありゃ?刈り上げメガネ―??」
「シンゴ君ーーー?」
教室のテーブルにはデッキだけが残され、床には今日発売の月刊ヴァンガードが落ちている。
ナオキは軽く落ちていた本のホコリを払うと、携帯で電話を掛けるが電源が入っていないのでかからないというメッセージが流れた。
「何かあったのか?雑誌まで置き去りにして・・・デッキまで・・」
デッキを置き去りにして、携帯にも出ないなんて何かあったのかとつい最近の事件もこともあり
アイチと校内を手分けして探したが姿もなく、靴は上履きが置いてあることから外に出たのはと急いで確率の高いカードキャピタルへ小走りで向かうが。
「来てないぜー、丸メガネの奴だろう?」
宮地高校部活の会議が始まる前あたりからに、店内にいた井崎が言うのだから間違いない。
息を整えつつ、ナオキはもう一度電話をかけるため外へと出ていく。
「何かあったんでしょうかね、小茂井・・・じゃなくて小茂井先輩に」
慌てて言い直すカムイ、隣にはエイジとレイジが目を光らせているからだった。
気にし過ぎだと井崎達が言ってくれるが、嫌な予感がする、この感じはリンクジョーカーの侵攻が始まった時期に襲われた感覚と似ていた。
自然と胸を押さえていると、誰かが肩を触れてきた。
「櫂く・・・」
「アイチさん、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
振り向くと、心配そうな顔をしてガイヤールが話しかけてきた。
あれから毎日のようにカードキャピタルに来ていて、時々後江高校の女子もついてきて店内はピンクの歓声がよく上がる。
彼の主な目的はアイチに会うためだ。
「僕でよければ、相談に乗りますよ」
「ありがとう・・大丈夫だよ」
やんわりと断るが、ガイヤールには言わないが櫂には相談する。
それを見抜いているのか、唇を噛みしめていた。
「ガイヤール君、優しいのね・・」
「先導アイチ君と並ぶとまさに・・ちょっと変な妄想しちゃうーーvv」
そのたびに、怒鳴って止めようとする癖を直そうと堪えるミサキだが、逆に胃に穴が開いてしまうのではと
シンが心配そうに後ろで見守っているとか、今日も数人が来ているが雑魚の森川とは違い
アイチ相手ではといろんな意味で、腐った妄想をして時折ピンク色のトークをしていたという。
櫂がファーストリバースファイターではないかという噂が、ようやく消え始めた頃
フーファイターの当主席で、渋々書類のチェックをしていたレンにテツが話しかけてきた。
「レン、・・・今日から来る予定のヴァンガードの講師について聞いているな」
「数か月前から聞いてますよ、そこそこの腕前のファイターだとか、それが何か?」
「急遽変更し、別のファイターがくることになった」
あまりにも急すぎるし、そのファイターとも一時連絡が取れなくなった。
ただ都合が悪くなったというが、病気でもないし理由も曖昧に答えていて、正直・・・引っかかるらしい。
テツの声質からして、つまらなさそうに顔をしていたが・・・まるでファイトをしているかのような
真面目な表情となり机の上に書類を落とすと、アサカに部屋に通すようにと親機から命を出すと
白いスーツを着た、紫色の髪をした長身の男が入ってきた。
丁寧に挨拶をし、礼儀はわきまえているらしいが・・・レンは何か引っかかるものを感じた。
「始めまして、雀ヶ森レン様。私の名はラウル・セラと申します・・・代理ではありますが暫くの間、よろしくお願いします」
その名前に出入り口に控えていたアサカは聞き覚えがあった。
南米サーキットの優勝者で、大きな財閥の家系だったような、そんな大物がわざわざ日本の講師に来るものだろうか?
「貴方のような高名なファイターが日本の小さな会社の講師なんて、どうして引き受けたんですか?」
笑顔で人良さそうにレンは笑っている。
「小さななんて・・・フーファイターは規模こそ世界からすれば小さいですが、その名を知らぬ者はしませんよ」
セラも紳士の笑みを浮かべてレンに返答をする。
校内の案内役をテツに任せると、セラは軽く頭を下げて下がっていく。
「さすがは我がフーファイター、世界に名が知られているなんて、レンさ・・」
いつもなら客がいなくなると子供っぽく疲れたと愚痴を漏らすのに、真面目な顔をしたまま考え事をし始めた。
それに案内ならアサカか美童あたりに任せるはずなのに、どうしてテツなのだろうか?
一人、わけがわからずに戸惑うアサカ。
スケジュール通り、テツは立ち入り禁止以外の場所を案内していく、テツはセラの監視役としてつけたのをセラも当然気づいていた。
「私などに案内など不要ですよ、一人でも問題ありません」
「いいえ、わが主からの命令ですから。日本に来たばかりでいろいろと不慣れでは?」
人気のない場所に現れると、互いに向かい合うセラとテツ。
紳士な顔は崩さないが、腹の中も同じとは限らない、それをレンも見抜いてのことだろう。
「・・・貴方は櫂トシキの友人にして、彼の認める数少ないファイターと聞きますが・・・どれほど強いのか?私はファイトしてみませんか?
このフィールドで」
冷たい風が、テツの頬の温度を下げていく。
次の瞬間、目を見開いた。
「今日、シンゴ君休みなんだね・・・」
「メールも電話も出ないし・・何かあったのか?」
担任の教師はシンゴは体調不良で休みだと聞かされる。
昨日まで元気にナオキと喧嘩していたのに、納得がナオキはいかなかった。
その日の昼休憩、慌てたように食事を口に急いで押し込むとアイチを置き去りにして用事があると教室を飛び出していく。
ぽかんと取り残されたアイチ、食事を終えるといつもならナオキ達とヴァンガードのことで盛り上がるが二人ともおらず
時間を持て余したため、学校の図書室で本でも読もうと足を運び、静かに室内の中でアイチは本を選んでいると偶然ミサキと会う。
「アイチ?」
「ミサキさん?」
何冊か、本を借りたミサキと共に中庭のベンチに座る。
いつもは持ち歩けるサイズの小説を借りているのだが、今日借りたのは難しそうな経営やそれらに関する本。
「店を継ぐのならそれなりに勉強しないと、大学もさこれ以上シンさんに無理させられないし推薦もらおうかなって・・」
頑張って宮地に行かせられていたと言った方が正しいかもしれないが、今度は自分でどの道に進むか考えたい。
もう高校2年生、そろそろ自立もしなければならない歳だが、進路のことで悩んでいることを細々とミサキに話す。
「宮地には別に行きたい大学があったからとか、将来のためとかじゃなかったので・・」
アイチには言えないがミサキはエミから以前相談を受けたことがある。
以前、宮地でいじめにあってそれが理由で後江に来たことを、また同じことになったらどうしようという心配だ。
だから同じ高等部にいるミサキに相談してきたのだろう、確かに以前のアイチなら心配するのはわかるが
今のアイチなら、道に迷うことはあってもそういうことにはならないだろう、進路のことも誰もがぶつかる壁だ。
「アタシもさ・・・大学には行くけど将来はカードキャピタルを継ごうって考えてたんだ。でも・・・別にヴァンガードが好きだったからじゃない」
「ミサキさん?」
ただ両親の店で、娘だからという理由。
そんな軽い理由をシンに見破られて、彼に言われた。
『店のことは心配しないで、ミサキは自分のやりたいことを見つけてください。何でもいい・・僕は応援しますよ』
その時は意味がわからなかった。
どうしてシンがそんなことを言いだすのかと、特にやりたいこともなくて、反対はしなかったけど
シンはあまり店を継ぐことに賛成しなかったことに疑問を思っていたが、今ならわかる。
「カードキャピタル、継ごうと思うの。ヴァンガードが好きだから・・・」
今は人前でもはっきりと言える、ヴァンガードをするのが好きだから店を継ぐ、両親の家だからじゃない。
自分で考えて、決めたことだから。
(ただ・・・・アカリに向かないって言われた・・・)
凄いですねと目を輝かせているアイチだが、客商売ということはスマイル0円は元より、物腰の柔らかさを見せつけなければ
今のように近寄りがたいイメージからは抜け出さなければ、理解してもらないならそれでいいのならと考えているなら客商売舐めているのかと
横に置いてある本を読むたびに痛感されて、怒られるまくりだ。
『コーリンさんから、笑顔の練習付き合ってもらえば?あと、アイチ君からは柔らかな雰囲気とかも・・・ププッ!』
(余計なお世話よ!!)
図星なだけに腹が立ってきた。
そんなことを話している間に昼休憩は終わり、ミサキと別れ教室に戻るとすでにナオキが席に座っていたが汗をかいて疲れた様子。
「何かあったの?」
「実はシンゴの家に行ってきたんだ・・・」
クラスメイトに強引に自転車を借りて、シンゴの家に行ってきて母親が対応してくれたが
食事もロクに取らずに寝込んでいるとだけ聞いた、部屋にも行ったが何の返答もないし、まるで何かに怯えているかのような
恐ろしい目にあったような感じだと母親は言った。
「・・・嫌な予感がするぜ」
「・・・・うん」
今のところ、異変が起きているのはシンゴのみ。
それだけで何かが起きていると考えるのは行き過ぎている、今日の放課後にでも皆に相談すべきかとアイチは悩んでいた。
「テツ!!」
「新城先輩!」
姿が見えなくなったと美堂達が探していたが、アサカに発見されたテツは壁に寄りかかり気を失っていた。
警備の男の手を借りて、一時テツの仕事部屋に移動し、アサカは慌てて救急箱を取りに部屋を出る。
「ラウル・セラは?」
「すまん、逃がしたが・・・アレは一体・・・・何だったんだ・・・くっ・・・!!」
見た目ほどひどくはないが、苦しそうにしている。
フーファイタービルをくまなく探させたがセラの姿はない、防犯カメラもノイズが一部入って建物内部を出たのかもわからない。
「今は休んでください、落ち着いたら話を聞きますので」
今日の放課後は念のため厳戒態勢を敷いたレン。
狙われるかもしれないとアサカ達がレンの護衛に入ったが、結局セラが仕掛けれてくることなかった。
夕方になり、落ち着いてきたテツに話を聞くことに。
手には包帯が巻かれて痛々しい、明日念のために精密検査を受けることにしたという。
「ファイトを仕掛けられたのだが・・・・不思議な空間が現れて・・・・どうにか応戦したが、負けてしまってそしたら、このざまだ」
「・・・負ければ、ペナルティーでも受けるっていうの?」
手当てをしたアサカは、恐ろしいと胸に手を当てて不安になる。
ダメージがイメージではなく現実になるのだと、レンは目を細めたまま、何やら考え事をしていた。
「暫く様子を見ましょう、テツの次は当然僕ということになりますしね」
「レン様に!!いいえ、私がレン様を命を懸けてお守りいたしますわっ!!」
こんな真似されてただではすまないとやる気に戻るアサカ。
ありがとうとコーヒーを入れてくると部屋を後にすると、テツも疲れているのか仮眠室で今は寝ている。
(ずいぶんとふざけた真似してくれたましたね、この罪・・・償わせてあげますよ)
傷ついたテツと、ビルの真下をしてレンはフーファイターの当主としての顔をしていた。
下には一人、ビルを見上げている男がいた・・セラだ。
「やはりフーファイターの最高の先導者、侮れませんね」
後江・宮地のようにはいかない、作戦の立て直しだと彼は一人・・出入り口へと向かう。
近くには倒されたであろう警備員達が数人、地面に倒れていた。