シンゴの様子を見に行った放課後、エイジとレイジは並んで道を歩いていた。
慕うカムイは委員会の仕事があるために、後から合流予定。
何気ない話をしていると。
「ねぇ、貴方達?暇なら私とヴァンガードしない?」
女の子の声が聞こえ、二人は同時に振り向いた。
その数秒後、まるで霧のように二人の姿は消えてしまっていた。
「わりぃっ!!エイジ、レイジ!!遅くなちまったぜーーー!!って・・・あれ・・・・」
慌てた様子で店内に入ってきたのはカムイ。
しかし、先に行ったはずの友人二人の姿がない。
「まだ二人とも来てねーぞ」
パイプ椅子に座って振り向いて来たのは、三和だ。
その前には櫂が座っている、アイチと一緒にデッキの構築をしている真っ最中。
「おかしいなー、あいつの方が先に着くはずなのに」
携帯で呼び出そうと、一度外に出ていく。
同時に三和の携帯もマナーモードなのか、強く揺れ始めた。
「メールか?」
タッチ操作で携帯を操作し、学校の友人とメールのやり取りをしていた。
アイチと櫂を見ているだけの三和だったが、珍しく横から話しかけてくる、井崎と森川と連絡が取れないという。
「二人と約束をしていたらしいんだけど、連絡が取れなくて・・後から追いかけてくるって部室にいたのは見たんだけど」
森川はともかく、井崎が出ないのは気になる。
シンと話をしていたナオキも顔をこちらに向けてきた、似たようなことがシンゴにも起きているのと関係しているのかと。
アイチも心配していると、自動ドアの扉が開いた・・入ってきたのはガイヤールだ。
「ガイヤール、お前井崎と森川を校内で見なかったか?」
「いいえ、見ませんでしたけど」
用事があると、カードキャピタルで合流予定だったが部室には寄らずにまっすぐ来たらしい。
心配ですねとガイヤールも心配した様子だった、念のためにと三和は学校に戻ることに、櫂も一緒に行こうと立ち上がる。
「珍しいなー、お前が誰かのために力を貸してくれるなんて」
「にやけるのは後にしろ、アイチ・・・また今度な」
気にしないでとアイチは手を振り、櫂達を見送る。
入れ違いでカムイが戻ってきたが浮かない顔をしている、電話をさっきから掛けても連絡が取れないのだという。
「どうだった?」
ナオキがカムイのところへ近づいてくる。
「駄目だ・・・こんなこと一度もなかったのに。あっ・・メールが来た!」
しかし、安心できるような内容できなかった。
ただ一言『心配しないでください』という内容だった、やはり心配だったのか二人の家に行ってくるとカムイもすぐ店を出る。
「大丈夫かな・・・」
「体調が悪いってわけでもないし、明日三和にでも聞いてみようぜ」
話が終わるタイミングで、いつものように微笑んでガイヤールがデッキを持って近づいてきた。
「アイチさん、ファイトしませんか?」
穏やかな笑みでガイヤールはアイチにファイトを申込む。
乗る気ではなかったが、今日はもう動けないとガイヤールのファイトを受けることにした。
次の日になり、後江高校の一日が始まろうとしていた。
この中でふんわりとした茶髪を見つけて、三和が駆け寄っていく。
「井崎!!」
「三和・・・・」
力ない声で返事をしてきた、眠いというわけでなく、疲れているような声質だ。
連絡したのに返事がこないことを問うと、顔を反らして悪かったと謝るだけで、理由を言わない。
「おい、何かあったのか?・・・お前、腕になんで包帯なんて・・」
「こっ・・転んだだけだ!!あと森川も暫く休みだから、アイチ達に言っといてくれ!!」
逃げるように小走りで校舎に入っていく、その様子をガイヤールが何故か愉快そうに笑いながら校舎から見下ろしていた。
偶然、廊下を歩いていた櫂がガイヤールを見て、目を細める。
「そうでしたか・・では私が井崎君と話をしてみましょう」
「お願いします、もしかしたら前のカードファイト部の連中の嫌がらせでも受けたのかもしれないし・・」
以前、後江にはカードファイト部が二つあった。
一つは三和が作ったものと、もう一つ元からあったものだったが櫂が入部したことで実力に差が大きくでてしまい、自然消滅していったという。
知らない間に、恨みを買って今だに根に持っている人間もいるかもしれない。
それを心配して、こっそりと職員室に尋ねてマークに相談してきたのだ。
「ではお願いします・・・」
軽く頭を下げて、職員室を後にする三和。
彼が出ていくとマークが部室へと足を運んだ、新弾パックのポスターを貼るためだ。
「よし、ナイスポイントに貼れました!」
うんうんと一人で喜んでいると、音もなく扉が開いた。
そこにいたのは青白い顔をした井崎、制服の袖からは包帯が見える。
「マーク先生!!・・・・相談があります!!」
意を決して井崎はマークに全てを話すことにした、三和には絶対に言えるはずのない真実を。
「シンゴの奴・・・・今日も休みで連絡なしかー・・・」
「うん、心配だね」
ナオキとファイトをしているが、どうにも覇気がない。
いつも横で観戦しつつ、ナオキに厳しく指導し、アイチには褒め称えているのに彼がいないだけでこんなに寂しいなんて。
失礼しますとナオキの隣に腰かけると、カムイも重い溜息を吐いた。
結局エイジもレイジも今日は休みで、家にはいるのだけど何があったのたのか教えてくれずに家族も心配している。
落ち込む男三人に、ミサキが一枚の割引チケットをくれた。
近くにオープンしたバーガーショップで、500円以上買うと30%オフしてくれるチケット。
「これでも食べてきて、元気出しな」
「おおっ!!ありがとうな番長!!」
ミサキって呼べ!!と先頭のナオキがチケットを手にして、ファイトを中断して外へと出ていく。
もう夕食前で、今食べるとお腹に入らなくなると迷うアイチ。
「胃がちいせーな。食べ盛りはもっと食べるべきだろ!ドリンクだけでもいいから飲みに行こうぜー!」
店を出ようとしたレジ辺りで、逆に店内に入ろうするガイヤールと会う。
出ていく彼らの中にアイチを見つけるとパァッと顔が明るくなる。
「そうだ、ガイヤール君も一緒にどう?これから近くのバーガーショップに行くんだ」
「はい、是非とも」
快く、ガイヤールは二つ返事をする。
その反応の仕方にカムイは違和感を感じたのか変な顔をしていた。
数分でバーガーショップに着いたが、オープンしたてだけあって学生で店内は溢れていた。
先に席を確保してからレジに並ぼうと、手分けして空いている席を探すことにしたが
あっさりとガイヤールが4人席は確保してきた。
「お前、どうやって見つけたんだよーー・・・」
ぽかんとするナオキ、店内には他にも席を探している人間はいたのに
すぐに見つかるなんて運が良すぎると思っていたから、イケメンスキルが発動しただけだった。
「彼女達が譲ってくれました」
頬を染めて手を振るのは女子高校生達、困っているガイヤールを見て
優しい女子高校生を演じて、席を譲ってくれたらしいが「イケメン滅びろっ!!」とカムイは怖い顔をしていた。
「どうぞ、アイチさん」
フランス紳士のように、丁寧に椅子を後ろに下げるとアイチを優雅に椅子に座らせる。
まさかファーストフード店でそんなことをする男がいるとは、それ以前にアイチは男だろうと、一緒の二人は思考が停止。
「あっ・・・ありがとう」
恥ずかしそうに座るアイチ。
これで私服なら(下手するとアイチは女子に見られることがあるため)恋人同士に見えてしまう。
我に返った二人は本来の目的を思い出して、レジへと行こうし、アイチも席から立ち上がると。
「どうぞ、アイチさん」
茶色のトレーの上にはSサイズのコーヒーに、小さめのカップケーキ。
いつの間にかガイヤールはレジに並んで買ったのだろう、恐らくコストなしのイケメンスキルが発動したのだろう。
レジを女子にでも譲ってもらったからこその、このスピード。
「えっ・・・ええっと」
「もしかして、お嫌いでしたか?」
紅茶の方がよかったですか?
それとも、バニラ味のカップケーキは嫌いでしたかと慌てるガイヤール。
「ううん、ありがとう」
「いいえ、当然のことです」
自分の分の紅茶にミルクを入れつつ、優雅に話をしているが
買ってきたのはアイチの分だけで、ナオキとカムイは完全無視している状態だ。
「あの野郎・・・---!!俺らの分は奢らない上に無視かよっ!!」
「カムイ、何やってんだよ。買いに行くぞ」
特に気にしていないナオキはカムイと一緒に、割引券手にしてレジの列に並びつつ、メニューの紙を手にして選んでいる。
腹も空いているのでバーガーセットでも頼もうとしていると、カムイが目を吊り上がらせて未だに怒っていた。
「出会ったのばかりなのに、さりげなくアイチお兄さんの隣に座るわ・・・何様だ、あのフランス紳士野郎・・・!!」
最近では、アイチとの仲を見せつけるようにドヤ顔で、偉そうな態度。
しかしアイチの前では巧みに隠しているが、今日のように表に出してきたのは初めてだ。
「確かに、後江だし森川達と仲良くなるのが普通なのになぁー・・」
長蛇の列のレジに並びながら違和感はあるなとナオキと話をしていた。
同じ高校で、クラスも同じなのに二人ともそれほど仲良くなろうとはしない。
森川は敵意を向けているが、井崎はそうでもはないし、三和達とも一線引いているような。
周りの友人達が次々に倒れていく、風邪で倒れたのだろう、詳しく話が聞けない以上、今はそう思うしかなかった。
しかし、ついに『元凶』が姿を現す。
「遅くなっちゃったね」
「ああー、思ったより時間もかかっちまったな」
部での提出する予定の書類を教室で仕上げていたら、空は薄暗くなり始め・・こんな時間になってしまった。
今日はカードキャピタルにはよらずに、そのまま帰ろうと歩いているとアイチとナオキの前に
ネーヴが現れた。
「アンタ・・・確か」
「フィリップ・ネーヴ、先生?」
濃いめの灰色のジャケットを着て、まるで立ち塞がるように立つ。
様子がおかしいと自然とナオキは身構えると、好戦的な笑みを浮かべてきた。
「何がおかしい!!」
「まるで、小さな子リスに・・青い小鳥というところか・・。悪く思うなよ、これも仕事だ」
両手を広げると、指の間に灰色の円球が現れると左右に投げる。
すると地面から灰色の柱が現れた。
「鉄は鋼へと鍛えられ、鋼は戦の中、剣となる!!誘おう、我がフィールドへ!スティール・ウォール・プリズン!!」
「なんだっ・・・!!」
「これって・・・!」
まだ夕方だったはずなのに、辺りは真っ暗になっていく。
陽の光が鋼の檻によって遮られたのだ、アイチとナオキは牢獄に閉じ込められてしまったのだ。
「貴方は何者なんですか・・・」
もしかして生き残ったリバースファイターか、ヴォイドのエージェントの類か。
校内で仕掛けてくるなど大胆だが、好戦的に笑みすらも浮かべ、話し合いで解決は無理そうだ。
「お前達の私怨はないが、櫂トシキ・・・奴の友人とあれば容赦はしない。二度とデッキを持てぬようにしてやろう・・。
あのメガネをかけた男と同じようにな」
メガネをかけた男、それだけで誰かわかった、シンゴのことだ。
ネーヴがシンゴに何かしたのだ、数日間休むほどのことを、二人の前に灰色のファイトテーブルが現れる。
「どちらからでも俺は構わない、かかってこい」
「上等じゃねーか・・・!!」
挑発的に人差し指動かすと短気なナオキが真っ先に動いた。
オレンジ色のデッキケースから、デッキを取り出すと、山札へと置く。
「ナオキ君、危険すぎる・・!!相手が何者なのかもわからないのに」
「でも、こいつに勝てないと此処から出してもらえなさそうだぜ・・・!!お前のデッキはまだ調整中なんだろう・・だった俺がやるしかない!!」
確かにネーヴは強い、ヨーロッパサーキットでの優勝経験もあるファイターだ。
普通なら勝てる勝機はないなどとシンゴは言うだろうが、仲間を傷つけられて黙っていられないし
何よりも、今のナオキには『レギオン』がある。
「行くぜ!!スタンドアップ・ヴァンガード!!」
「スタンドアップ・ヴァンガード!!」
互いのファーストヴァンガードをコール。
ナオキはなるかみ、喧嘩屋 スカイ・ドラコキッドを。
ネーヴはディメンジョンポリス 鋼闘機 ブラックボーイをコール、彼と同じクランを使う光定がいたが
まるで昔のアニメのよう光に満ちた輝きが感じられない。
たとえるのなら『悪』を狩る、『悪』の勇者のようなイメージがアイチに流れてくる。